今回のインレクは、ニコ美でタイムシフト視聴できる「ウポポイ(民族共生象徴空間)国立アイヌ民族博物館を巡ろう」 (https://live.nicovideo.jp/watch/lv327832483)を視聴しての感想会でした。時間は約2時間と結構長い番組でしたが、あっという間に見終わってしまった、と感じるほど、楽しく知見の広がるものでした。

 さて、まずは番組の概要から。
 進行を博物館展示企画室長である田村将人さん、解説を田村さんの恩師でもあるアイヌ語研究者、千葉大学教授の中川裕さんというキャストで、博物館のエントランスから始まります。

 冒頭で、展示物に添付される解説文についての話があり、ここに一つの特徴があります。解説文が多国語(最大8カ国)で書かれているのはよくあることですが、アイヌ語での説明文が一番上に書かれています。アイヌ文化を集めた、アイヌが主役であるということの現れですね。
 また、外国語で表現する場合、日本語で作られた解説文を他の国の言葉に訳すのが普通だと思います。当然、日本語をアイヌ語に訳したんだと思うでしょうが、この博物館ではアイヌ語が最初。
まずアイヌ語ありきで解説文を作り、それを日本語なら、こういう言葉になる、というアプローチをしているそうです。
 さて、ここでひとつ問題が。アイヌ語は文字がない無文字言語なのに、どうやって解説文を書いたのか?回答としては、多くの研究者やアイヌ自身が文字表記を模索しており、そのうちの一つがカタカナ表記だった、ということになります。
 同じカタカナ表記でも小文字の代わりに半濁点のような小さな丸を上付き文字で付けている(ト゜)ものもあります。解説の中川教授が記した論文(http://www.aa.tufs.ac.jp/~asako/unwritten/01-nakagawa.pdf)によれば、アイヌ語の表記方法については定まっていない、というのが実態のようです。個人的にはカタカナ表記、中でも小文字を使った表現が、一般的な日本人には馴染みやすいことが、解説文をカタカナ&カタカナ小文字を使って表記した理由ではないかと思っています。この拙文を読んでいただいている方は、どうお考えになりますか?

 また、アイヌ語を訳しているわけではない、というのは、博物館のエントランスで最初に目に入る案内板でもわかります。番組で解説してくれていますが、展示室の平面図が書かれた案内板には、一番上にアイヌ語で「イコロトゥンプ(ロは小文字)」とあります。その下にある日本語は、「展示室案内」。慣れた外国語の翻訳の手法で考えると、「イコロ」が「展示室」で、「トゥンプ」が「案内」(またはその逆)と考えてしまいますが、アイヌ語での意味は、「イコロ」が「宝」で、「トゥンプ」が「部屋」。つまり「イコロトゥンプ」とは、「宝の部屋」という意味になります。
 展示室案内、とは似ても似つかない言葉ですが、でも言われてみればなるほど、と思いませんか?

 前段の繰り返しになりますが、このように「アイヌ語でどんな言葉になるか」で解説文を作り、日本語ではそれをどう表現するか、というアプローチで解説文が作られていますので、興味のある方は是非、アイヌ語の単語リストを見ながら読んでみてください。※リストによっては、先に書いた通り小さな文字の表現方法やンをムと表記するなど違うものがあります

 番組は、そこから展示室に続く通路を通って展示室に入り、様々な展示について解説をしていく、という流れで進んでいきます。内容を事細かにここで著していく、というのは、ネタバレにもなるので控えさせていただきますが、ニコ美ならではの流れるコメントの主たちを騒然とさせた事実についてのみ、書きたいと思います。

 中川教授は、マンガ「ゴールデンカムイ」の監修をされたことでも有名な方です。その「ゴールデンカムイ」のワンシーンが、事実とは違うことに、コメントがざわつきました。
アイヌ研究者が監修したのに事実と違うとは!ということなんだと思いますが、それについては中川教授は「作者のオリジナル」と言われており、特に問題視してはいないようです。個人的にもマンガの表現としてはアリなんだろうな、と思います。
 そのシーンとは、アイヌ料理の一つである「チタタプ」(肉類のタタキ)を作る時、マンガではナイフで材料を叩きながら「チタタプ、チタタプ」と声を出してやるのだ、とヒロインが教えていたことが、事実とは異なるとのこと。実際には声を出すことはなく、黙々と叩くそうです。

 まあ、なんて事のない話ですが、マンガでそれをアイヌ文化だと信じていた方にとっては衝撃だったんでしょうね(笑)。

 「ゴールデンカムイ」についても、番組内では何度も言及されていたので、アイヌ文化をきっちり表現できている作品なんだろうなと思います。
もう一つ、番組内では2020年の直木賞作品である「熱源」についても、言及していました。
こちらも、北海道〜樺太の先住民族をしっかり調べて書かれた小説で、私も番組視聴後に読んでみました。小説なので、ストーリーは事実を元にした創作ですが、本当にあった事なんじゃ?と思わせる内容でした。
 実在の人物が多数登場していることも、そう感じさせる理由なのでしょう。…なんて書くと、初めからその辺りの背景を知っていたかのような口ぶりですが、実のところ、「熱源」は予備知識ゼロで読んでおり、物語の中心となる人物は創作だと思ってたんですね。それでも描かれる生き様はリアルだな、すごいな、と。
 ところが、今回のレポを書くにあたって色々調べているときに、たまたま見つけた中川教授の論文(http://www.aa.tufs.ac.jp/~asako/unwritten/01-nakagawa.pdf)に登場人物である山辺安之助や千徳太郎治、という人名があるのを見て実在の人物であると知り、本当の人生もある程度創作に反映させているのだろうか、させているとすれば、リアルに見えるのも当然だな、と自分の感想を補完してくれた気がします。
 「熱源」も、アイヌ文化やアイヌが日本やロシアから受けた仕打ちを、どぎつくならない程度に知ることができる良書だと思うので、興味のある方は、ぜひ読んでみてください。
「熱源」は一気に1日で読み切りましたが、「ゴールデンカムイ」は、Amazonプライムビデオでやっているのを、少しずつ見てます(笑)。さすがに3シーズン36話一気見は、会社員には無理。

 さて、番組の説明や個人的な感想はこのくらいにして、レクの本番である感想会の話に移ります。

 十人十色とは、よく言ったもので、同じものを見てもメンバーそれぞれの琴線は異なり、それを共有することも感想レクの重要な目的ですが、今回もその趣旨は遺憾なく発揮されました。
マキリ(小刀)の装飾木彫の技術がすごい、アットゥシ(木の内皮を糸にした織物)の柄が素敵、イナウ(祭具)と、九州太宰府天満宮の木鷽(きうそ)と作り方が似ているのはなぜ、などなど。
 実際、これらのアイヌ伝統の工芸品はとても美しく、高い技術力を感じさせます。
また、文化交流があったとは思えないほど距離が離れた世界各地で、似たような工芸品が見られることは非常に多いですが、人間という生き物が根源的に求めるもの、考えることは近しい、つまるところ、人種なんてものは人間を分け隔てるものではなく、みんな同じ人間なんだということを感じさせます。
 様々な意見が出る一方で、レク参加者全員が完全一致した意見は、「現地行きたい」でした。各展示に添付された解説文もじっくり読みたいし、展示物のほとんどがレプリカとはいえ、その当時の加工技術に倣って作られたものなので、見応えもありますし、博物館の展示を見ることが好きなメンバーにとっては、当然の感想かと思います。
 国立アイヌ民族博物館は、ポロト湖の湖畔に作られた公園の一角でしかなく、公園内にはチセ(家屋)群が再現された場所やトンコリ(五弦琴)とムックリ(口琴)の演奏、体験など、アイヌ文化に親しむことができる施設が多数あり、おそらく一日楽しめるのではないでしょうか。オンラインで楽しめることもお手軽で良いのですが、やはり五感で感じたいというのは無理からぬ欲求ということでしょう。

 感想レクの中でも話題に上がりましたが、ポロト湖の湖畔に星野リゾート「界」ができたこともありますし、コロナが落ち着いたら、ぜひとも行ってみたい場所の一つになりました。
 コロナ禍が続く中であるため、今回もオンラインでの開催でしたが、1日も早くリアルでの開催ができるようになりたいものです。

記:katahofuzuki