書評:大収縮 1929-1933 「米国金融史」第7章
ミルトン・フリードマン+アンナ・シュウォーツ 著、日経BP社
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米国の金融に関する歴史を詳細に論じた「米国金融史」の中で、いわゆる「大恐慌」に関する部分をピックアップした書籍です。
今からは考えられないことですが、この時期にFRBが行った「金融引き締め」的政策についても詳細に論じられています。歴史の「たら・れば」は意味が無い議論だとは思いますが、フリードマンは、当時発足したばかりの連邦準備制度(それまではNY連銀が事実上その機能を果たしていた)が円滑に機能していれば、過去の大型不況と同程度の打撃を受けたにしても、今日まで「大恐慌」と呼ばれ<恐怖感>を持って論じられるような深刻な事態にはならなかったであろうと結論づけています。
公開市場操作をはじめとする金融政策、さらにはハイパワード・マネーのコントロールがうまくいったとして、「本当に大恐慌が起こらなかったか?」という点について、私は懐疑的です。本書を読む限り机上の空論以上のものではありません。本書巻末の<全米経済研究所理事の所見>においても、金融実務家(市場関係者)の観点から、同じような疑問が提示されています。
もう一つの重要ポイントは、当時の金融政策が稚拙なこともあって多数の銀行を倒産させてしまったという事実です。現在でも<金融機関の自己責任>については厳しい議論が続いています。金融機関にも一般企業と同じような経営上のモラル(経営責任)を求める声があるのは当然のことですが、<金融システムの維持>を中心に考えるのであれば<金融機関は倒産させてはならない>というのが本書の結論であり、私も同感です。
この大恐慌の教訓から、モラルの問題があるにもかかわらず、金融機関は倒産させない(あるいは預金保険機構で守る)のが一般的政策です。また、不況期には過剰ともいえるほど資金を供給します。
1990年のバブル崩壊以来、ひたすら資金供給と低金利政策を続けてきた日本の政策が典型でしょう。史上まれに見るバブルの崩壊にも関わらず、人々が路頭に迷うような大恐慌が起こらなかったのは、日本政府(日銀)の金融緩和政策のおかげです。
また、大部分の金融機関は合併などで生き残りましたが、1997年の北海道拓殖銀行を皮切りに金融機関を倒産させた時期に不況は深刻化しました。この時期の方がバブル崩壊直後よりも危険な状態であったのは事実です。
おおむね2003年の「りそなショック」(実質国有化)以降、銀行を救済する方向に転換してから日本経済が持ち直してきたといえるでしょう。
しかし、この超金融和政策は「大恐慌」こそ引き起こさなかったものの日本に20年以上もの経済停滞をもたらしました。本格的に日本経済が回復の兆しを見せ始めたのは、2012年末のアベノミクス開始以降です。第2次世界大戦があったとはいえ、1929年に始まった大恐慌が16年後の1945年には終わっているわけですから、どちらを選択すべきは実のところ微妙な問題です。
2008年のリーマンショックでも、日本型の超金融緩和政策がとられ(当時米国で倒産させた主要金融機関はリーマン・ブラザースだけです)、歴史上未曽有の<金利バブル=マイナス金利>を世界中に引き起こしました。おかげで、今回も「大恐慌」は免れましたが、この処理には日本のバブル同様20年くらいはかかると考えています。現在リーマンショック後10年目ですからまだ折り返し地点です。
金利引き上げによる正常化が盛んに議論されていますが、実際のところは本格的に実行できる段階ではないと思います。
特に、欧州とチャイナなどを含む発展途上国(後進国)が、世界経済の足を引っ張るのではないでしょうか?
逆に、日本や米国は低金利を有効に使って益々繁栄すると考えています。
日本は1994年にダウ・ジョーンズが4000ドルを超えたあたりにいると思います(現在のダウ・ジョーンズは2万5000ドル近辺です。日経平均を6倍すると12万円くらいの感覚です)。
また、1980年代のダウ・ジョーンズは1000ドル程度ですから、現在は約25倍。日経平均の底値を8000円とすれば20万円のイメージです。
もっとも、世界中で超金融緩和によって問題を解決しようとする流れが続けば<金融システム>そのものが危うくなるリスクは常にありますから、その点は十分注意する必要があります。
なお、本書巻末の元FRB議長ベン・S・バーナンキのコメントは、本書の内容を熟読したうえで、重要なポイントを的確に指摘していますので、大いに参考になると思います。
(大原浩)
*2018年4月に大蔵省(財務省)OBの有地浩氏と「人間経済科学研究所」
(JKK)を設立しました。HPはこちら https://j-kk.org/
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ては御自身の責任と判断で願います。)