上場企業には上場している以上は投資家から何らかの成長へのミッションが与えられています。その成長期待に応える方法としては、自社内の経営資源を有効に活用して売上、利益に結び付ける方法が基本でした。

 しかしながら既存事業がこれ以上伸びないのであれば新規事業に活路を見出す必要がありますし、そのためには市場調査、人材の確保、研究開発や新たなに設備投資など大変な手間と労力、資金が必要となる訳です。

 これを既存の事業が元気なうちに新たな事業に取り組むことで企業は新たな評価を得ることになります。

 企業の投資には人材投資、設備投資、研究開発、システム投資などがあります。損益計算書上にこれらの投資は何らかの格好で反映されることになりますが、投資家の皆さんはこの企業が行う投資に関心を寄せておく必要があります。
 残念ながら先行投資と通常の投資が色分けされる訳ではありませんので損益計算書にはそうした表記がないので企業の発信する情報に関心を寄せる必要があります。

 損益計算書に反映される企業の先行投資は人件費や広告宣伝費などですが、設備投資は貸借対照表に固定資産の項目として数字に落とし込まれることになりますが、いずれにしても有効な先行投資こそ企業の成長の源泉でもありますので皆さんもこの点を十分に理解し、吟味しながら投資をなさって頂きたいと思います。


 こうした通常の企業の先行投資のほかにM&Aによる他社資源の取り込みによる成長もこのところ株式市場においては重要なテーマとなっています。
 ただ、このM&Aは投資家にとっては不安感を伴い、これを積極的に評価するのはためらいがちになるのかも知れません。

 M&Aには様々なパターンがあり、一概に評価しにくいために実行した企業の株価に反映されにくい点はありますが、基本的には買い手企業にとっては社内の資源を使って新規事業に乗り出すよりは効率的に成長が実現できる点で注目されます。
 とりわけ少子高齢化の中にある日本経済にとっては後継者難の中小企業を上場企業がM&Aでグループ化する流れは意義のあることです。買う企業にとっても売る側の企業にとってもメリットのある手法で、それを仲介する日本M&AセンターHD(2127)などのM&A仲介会社が大きく成長してきた背景がそこにありますが、仲介する企業だけでなくそれを活用して業績の拡大を図る立ち位置の企業にはまだ理解がなされていないところも多いのかと思います。


 M&Aも先行投資として考える必要がありますが、M&A後のシナジー効果まで想定できれば、より投資家にとっては評価することにつながります。

 M&Aによって業績を拡大させる点をアピールして上場してきたのがヨシムラフードホールディングス(2884)という食品会社ですが、このところ積極的な中小食品メーカーのM&Aを行い低迷状態だった株価が大きく上昇しているといった事例もあります。
 同社の場合は今期の売上高305億円、営業利益8.3億円の水準ですが、時価総額は230億円を超えてきています。食品会社なので事業のイメージがわかりやすく投資家も評価しやすいのかも知れません。

 一方では、福岡に本社を置く加工の総合商社を標ぼうする日創プロニティ(3440)は相変わらず時価総額が38億円台で低水準にとどまったままで推移しています。投資家が十分に評価できずに気迷い商状が続いていますが、
M&Aで業績の拡大が期待される今期後半から来期、さ来期にかけては評価を高めるものと注目されます。

 流動性のなさがネックではありますが、同社の場合は、基本的に自社工場での金属加工を収益源にしてきましたが、とりわけFIT後のソーラー発電の架台で短期間で50億円ほどの利益を得て、そのお金でM&Aを実行してきたという流れがあります。金属加工は自社やM&Aで子会社化した綾目精機、ダイリツが担い、ゴム加工では吾妻ゴムが主役となりグループの成長に貢献してきましたが、最近では材工一体のニーズを踏まえて自社グループ内で建設エンジニア会社を設立。さらにはその子会社としてM&Aで壹会(いちえ)を昨年の上期にグループに迎え入れた結果、シナジー効果が生まれ、受注が急増。
 1Q決算末には全体では60億円(うち建設業は44.4億円)もの受注残となっています。1Qの売上高が22.8億円ですからこの受注残は顕著な増加と言えます。なかなかシナジー効果は生まれにくいのですが、このケースはシナジー効果が発揮された事例と言えます。

 さらに同社は本年1月23日にワタナベテクノス及びその関係会社エヌテクノスという福岡県飯塚市に本社工場を構える防音BOX,消音ダクトの設計販売を行うシナジーが生まれる可能性の高い優良企業を7億円で買収し株式の譲渡を終えている。
 これについては3月から7月までの5か月間が業績に寄与するとしている。
 また、昨年8月に発表済みのM&A案件として、老舗タイルメーカーであるニッタイ工業を2月末に譲渡を受けることになった。今回、ようやく子会社化に至り、今下期の業績から寄与するとの見通し。具体的な数字にはまだ落とし込まれていないが、住宅関連のニッタイの場合は年商50億円程度で利益は1億円以下に留まるため売上に限れば事業スケールが大きくなっています。
 同社とのコラボでこれもシナジー効果を発揮するとみておきたい。

 これでM&Aや設備投資など投資の枠(50億円)はほぼ使い切ったのかも知れませんが、成長を目指す企業にとっては投資は不可欠です。その中ではM&A戦略を経験値として積み上げて成長を図る同社のような企業のよりリアルな成長に関心を寄せておきたいと思います。


(炎)


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