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近ごろ、海外の栄養業界でよく耳にするワードが「フードノイズ」であります。これは「食べ物のことが頭から離れない!」「つねに“何か食べたい”という思考が脳内でループしてしまう!」みたいな現象のことで、たとえば、

 

  • 朝から晩まで「次は何を食べよう?」と考えてしまう

  • デスクにあるお菓子が気になって仕事に集中できない

  • ストレスがかかると、急にジャンクフードの映像が頭に浮かぶ

  • 夜中になると、冷蔵庫の中身を思い出して眠れない

 

みたいな状態が典型例です。こういった頭の中で鳴り響く“食べ物の声”みたいなものを、フードノイズと呼んでいるわけですな。

 

まあこういった現象は昔からあったんですが、近年よく言われるにようなったのは、「GLP-1受容体作動薬」が一般的になってきたからです。ご存じのとおり、GLP-1受容体作動薬ってのは、糖尿病や肥満の治療に使われるホルモン製剤で、最近では「マンジャロ」などの商品が有名ですね(厳密に言えば、マンジャロはGLP-1とGIPという2つのホルモンの作用を併せ持ってますが)。もともとこの薬は、腸から分泌されるGLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)というホルモンを人工的に活性化するもの。GLP-1ってホルモンは、本来は腸から脳に「もう十分食べたよ」と信号を出す働きを持っていまして、これを薬として投与すると、

 

・胃の動きをゆるめて満腹を長く保つ

・脳の報酬回路にブレーキをかける

・食への思考そのものを弱める

 

って変化を得ることができるんですな。そのため、GLP-1受容体作動薬が流行ったことにより、SNSなどで「薬を使い始めたら、食べ物の思考が消えた!」という報告が続出。ここから脳のなかを駆け巡る思考を“フードノイズ”と名づけ、こいつを抑えることこそが、現代人の食べすぎをやわらげるカギだと考えられるようになったんですな。まあ、これはあくまでダイエットのサポートにしかならず、薬をやめた途端にフードノイズが戻る人も多いんですが。

 

 

 

「フードノイズ=食べたい病」ではない

ここで大事なのは、フードノイズってのは、単に「食欲が強い」という話ではないってところです。フードノイズってのは、食べすぎること自体よりも、“食べ物を考えずにいられない”って状態にこそ問題があるんですよ。

 

なので、多くの栄養学者は、フードノイズを「食物キュー反応性(Food Cue Reactivity)」として表現しておられます(R)。これは、食べ物を目にした・匂いをかいだ・考えた、というその瞬間に、脳が「食べろ!」と反応してしまうことを意味しております。

 

この時、私たちの脳の中では報酬系ネットワークが暴走をはじめてまして、特に「側坐核」と呼ばれる部位が活性化することが知られております。ここは「食べたい!」という快楽のスイッチで、

 

  • 食べ物の匂いをかぐ

  • 映えるスイーツ写真を見る

  • ストレスで落ち込む

 

といった刺激を受けることで簡単に活性化し、脳が「この刺激がないと、幸福になれない!」と思い始めるんですよ。つまり、フードノイズによって起きる「食べたい!」って欲求は、空腹ではなく報酬系の暴走だってことですな。本能ではなく、情報とストレスが作った“幻の空腹”であります。

 

このメカニズムを、もうちょい掘り下げておきましょう。食べ物の写真を見た瞬間、あなたの脳の中では以下の3つの領域が同時に点灯します。

 

部位役割例えると
側坐核 「報酬のスイッチ」──“食べたい!”気持ちをブーストさせる 欲望のアクセル
前頭前野 「理性と抑制」──“今はやめよう”を冷静に判断する 欲望のブレーキ
扁桃体 「感情の記憶」──“あのケーキおいしかった”を覚えている 欲望の記録係

 

この3つがバランスよく働いていれば、「おいしそうだけど今はやめておこう!」と冷静に判断できるんですが、ストレス・睡眠不足・情報過多などでこの回路が乱れると、アクセル(側坐核)だけが暴走し、ブレーキ(前頭前野)が効かなくなるって現象が起きるわけです。いったんこうなると、不健康なドカ食いが一気に止められなくなるんですよね。