1999年11月12日。
 僕は皇居前広場にいました。
 天皇陛下御即位10周年をお祝いする国民祭典の会場です。

 前日まで準備で大変でしたが、いよいよ今日は本番。あとは演奏を待つのみです。
 YOSHIKIが作曲した奉祝曲の、YOSHIKI自身のピアノとオーケストラによる演奏を
 天皇皇后両陛下がご覧になる・・・。
 大変なことです。

 
 その準備のために、指揮者の川本さんやオーケストラサイドとの打ち合わせ等、音楽面
におけるサポートで、一ヶ月以上前から僕も東奔西走していましたが、資料を用意したり、
打ち合わせを重ねたりする中で、その忙しさがいずれ、晴れがましい演奏として結実する
時が来て、しかもそれを天皇皇后両陛下がご覧になるのだ、という実感はどうしても涌き
ませんでした。

 僕は個人的に、皇室とその歴史にとても深い敬意を感じていたので、お話としては嬉し
くてたまらなかったのですが、聞かされている内容があまりに素晴らし過ぎて、現実感が
なく、もしこれが何かの間違いだったら、一体どうなってしまうのだろう、などど思って
しまう毎日でした。

 何しろ、音楽の現場は相当豊富な経験を積んでいる僕でも、内閣府や宮内庁という言葉
が飛び交う仕事は初めてでしたから。

 また、リハーサルとアレンジの確認のためにレコーディングスタジオを手配している時
も、オーケストラサイドと音楽的な内容の打ち合わせをしている時も、常に一部の情報を
伏せ、秘密裏に進行する必要があったため、音楽の仕事というより、まるで国家機密に関
わる仕事をしているような気分でした。

 やっと音楽としっかり向かいあえた、レコーディングスタジオでのリハーサルも、限ら
れた時間の中で音楽的にまとめあげるために、本人や川本さん、オーケストラメンバーや
音楽スタッフ等が集中して数日間を駆け抜けていくうちに、あっという間に当日が訪れた
のでした。
 日々まとまっていく演奏と、曲の圧倒的な素晴らしさに感動しながら、それでもまだ、
僕はその演奏が数日後に天皇皇后両陛下の前で披露される、という現実に実感を持てない
まま、当日を迎えたのでした。