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R&Bフリーク以外は置き去りにするR&B評 第26編『New Edition』
『New Edition』
アメリカ合衆国ボストンにて結成された男性グループ。キッズグループとして1980年代前半より活躍、グループでの活動だけに留まらずメンバーそれぞれがソロやユニットで成功を収めているモンスターグループ。
<TSUYOSHI評>夢のようなグループ、New Edition。高校生の頃の私の唯一のアイドル。ラルフ・トレスヴァント、ボビー・ブラウン、リッキー・ベル、マイケル・ビヴンス、ロニー・デヴォー、そしてジョニー・ギル。もはや言わずもがなのメンツ。ソロやユニットとして各々が大ヒットを放ったりとそれだけでも充分なのに。今でも5人ないし6人でたまに集まってツアー回っちゃったり。そりゃもうカッコいいったらありゃしない。ボビーがなんだかんだでツアーに参加しなかったりのようだが、いつか6人で来日公演してくれないかしら。
New Editionにはメンバー6人のうちリードをとれるシンガーが4人いる。とはいえ歌の面でいうと、リッキーには申し訳ないがどうしても”Heads of State”というユニットとしてツアーにも出た事のあるボビーとラルフとジョニー・ギルに目がいく。ボビー・ブラウンはまず早々にグループを抜け2枚目のソロアルバムで大ブレイクする。楽曲の良さで売れたのは確か。しかしながら、決して歌うまな訳ではないがとても耳に残る声を持っている。加えて、彼のダンスを見るにつけ、6人の中で先天的にリズム感が良く、且つそれを表現・体現する事に長けているように見受けられる。それが歌にも表れていて結構グルーヴィーな歌を歌っているのである。グループではリードシンガーであるラルフ・トレスヴァントは、多分好き嫌いは分かれそうだが、その”高く聞こえる声”を唯一無二の個性として活かしている。幼くしてデビューして以来リードを任されたその歌は安定していて上手い。ボビー脱退後に加入したジョニー・ギルは、その時点ですでにソロアルバムを2枚発表している経験豊富な早熟シンガー。ホントこの頃は凄かった。正直『My, My, My』以降の歌の伸びしろはもはや持ち合わせていなかった様子。ライブにおいては、本人が盛り上がれば盛り上がるほど吠える一方になり、残念ながら歌は雑になる印象。とはいえ、この3人が一緒にステージに上がってパフォーマンスしている姿にはただただ興奮する。この3人による相乗効果は半端ではない。2012年のTrumpet Awardsでのパフォーマンス(https://youtu.be/utAOk0j6pSI)は3人がダレる事なく、それぞれフロントで歌っていない時でもバックコーラスの立ち居振る舞いを怠らない。ジョニーは決して踊りは上手くないがNew Editionの時より動けている感があるし、踊りの上手いラルフとボビーが振りの手を抜いてないが為にステージングの質が終始高いままパフォーマンスが繰り広げられている。こういう質の高いshowを間近で見てみたいし、なにより同じ表現をする身からしても憧れるアティテュードである。
残りの3人”Bell Biv DeVoe”はいい具合の凸凹感が魅力的。ベル・ビヴ・デヴォーとしてはストリートっぽさが魅力だが、New Editionという本体に戻ればキレキレの振りとコーラスでリードのラルフもしくはジョーニーを守り立てる。彼等3人がいなければテンプテーションズから連綿と続く黒人コーラスグループ然としたパフォーマンススタイルは成立し得ない。1990年のMTV Music Awardsでのパフォーマンス(https://youtu.be/KEcIZg0TQGw)では、各々のパフォーマンスの後に超ショートバージョンのリユニオンパフォーマンスを見せている。6人とも若さとキレが半端ない。ちなみにボビー・ブラウンは音源として未発売の『Tap into My Heart』をパフォーマンス。貴重。
<西崎信太郎評>各メンバーが、後々にソロでも活躍する「オールスター」的メンバー構成のヴォーカル・グループと言えば、僕の中ではブラックストリートに112がその筆頭ですが、元祖はやはりニュー・エディション(ブラックストリートはメンバーをフレキシブルに入れ替えるセッション・グループ色が強いですが)。ボビー・ブラウン、ジョニー・ギル、ラルフ・トレズヴァント、そしてリッキー、ロニー、マイケルのベル・ビヴ・デヴォーの面々。正にオールスター・ユニット。R&Bグループ、ボーイズⅡメンのグループ名は、ニュー・エディションの楽曲”Boys To Men”からインスパイアされたのは有名なエピソード。
元々「ポスト・ジャクソン5」としてグループとしてデビュー。グループをプロデュースしたのが、キッズ・グループの請負人であるモーリス・スター。ジャクソン5がキッズ・グループの礎を築いた後の音楽シーンにおいて、ジャクソン5に続くニュー・エディション、そしてニュー・エディションに続く「第3のストーリー」としてデビューしたサード・ストーリー(3rd Storeee)、サード・ストーリーに継ぐキッズ・グループの第4章チャプター4(Chapter 4)と、未来を担うキッズ・グループの存在は常にその時代を彩るトピックの1つであり、いつの時代のティーンズ・アーティストにとっても、ティーンズ・グループのクラシックを歌うことは名誉なこと(‘70年代はジャクソン5”I Want You Back”、’80年代はニュー・エディション”Candy Girl”、’90年代はソウル・フォー・リアル”Candy Rain”など)。今なおR&Bシーンにおいて人気を保持し続けるニュー・エディション。’17年には彼らのキャリアをまとめた伝記映画が公開されるということで、改めてニュー・エディションへの注目が集まっています。
グループが成長していくと共に、個々のメンバーが成長し、ソロで巣立っていった各メンバーがまたグループへと戻り、またグループが成長していく。現在はボビー•ブラウンが離脱した状態のようですが、伝記映画公開と同時に、ニュー・アルバムのリリースもささやかれていたりと、ヴェテラン勢がR&Bシーンに再び活気を呼び戻している昨今のR&Bシーン。ニュー・エディションのピースをシーンが待ちわびています。無数のヒット曲がある中で、僕が最も好きなニュー・エディションのナンバーは、ジャム&ルイスのキャリア後期にあたるスロウ・ジャム”Re-Write The Memories”です
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R&Bフリーク以外は置き去りにするR&B評 第25編『Silk』
『Silk』
アメリカ合衆国ジョージア州アトランタにて結成されたR&Bグループ。キース・スウェットにより発掘、全米総合チャート1位に輝いた”Freak Me”などのヒット曲で知られる。
<TSUYOSHI評>シルクにおける一番の代表曲『Freak Me』。例えばサビ前半の”Let me lick you up and down ~”の箇所を作者であるキース・スウェットに、サビ後半の”Cause tonight baby ~”の箇所をK-Ci (ケー・シー)もしくは全盛期のアーロン・ホールにでも歌ってもらったなら多分最強な曲になる気がする。
などと野暮なことはさておき。とかく人は意外性や落差の大きさというものにどう抗っても心を持っていかれがちなもの。90年代までは数多存在していた黒人ボーカルグループ、有名どころは何かしらの強烈な個性をもってファンの心を鷲掴みにしてきた。例えば、圧倒的な歌声のデヴィッド・ラフィンと美しいファルセットのエディ・ケンドリックスの二枚看板を擁するテンプテーションズ。ソウルのお手本バリトンなマーヴィン・ジュニアとソウルのお手本ファルセットなジョニー・カーターの二枚看板を擁するデルズ。斜めな目線で言えば、小柄な双子がフロントに並ぶ時点ですでに個性的なウィスパーズなんてのもある。80年代に入ってからも、見た目を裏切るバブルガムな歌声のラルフ・トレスヴァントとタフネスな歌唱を売りにする前任ボビー・ブラウン&後任ジョニー・ギルを擁したニュー・エディションなど、やはりどのグループも皆それぞれ何らかの個性がある。ウィスパーズはさておき、今あげた各グループのリードシンガーは対局なタイプの2人で構成されている。今回のシルクも実際はこのタイプの部類に入るグループ。言わずもがな”小さな巨人"リル・Gの強めテナーが売りのシルクなのだが、実際は鼻にかかったテナーからファルセットまでかますジョナサン・ラズボロとの二枚看板と言える。『Meeting In My Bedroom』(https://youtu.be/mlJwac3PXUw)(https://youtu.be/bNEWVHtF5gM)は、最後の最後でリル・Gがかっさらっていくが、基本はジョナサンがリードの曲。テーマ部分の構成等とてもソウルマナーを感じるアレンジはそんなシルクにぴったりな楽曲なのだと思う。ステージングも皆でちゃんと振りをやっているし、伝統的な黒人ボーカルグループの雰囲気は踏襲されている。『If You (Lovin’ Me)』(https://youtu.be/Hf6xKBIO5gA)(https://youtu.be/faK_xV3XpxM)も前半はジョナサン、後半はリル・Gとリードを交代する。この曲を聴いていて特に思うのだが、同じ曲なのに前半と後半で違う曲に変わってしまったのかと思わせるほどリードシンガーの歌の質が違うのにはちょっと驚く。やはり魅力的なグループなのだと改めて思う次第。
一時期リル・Gがグループを抜けている間、アル・B・シュア!、ジェイムス・イングラム、エル・デバージ、バリー・ホワイトがマイクパスをする名曲『The Secret Garden (Sweet Seduction Suite)』をカバー。メンバー4人全員が適材適所で本家の如くリードを回していた。そして昨年発表された『Love 4 U 2 Like Me』(https://youtu.be/pXr5RG3IvNY)では良質なトラックに乗せて5人がそれぞれ存在感を出している。90年代にデビューしてゴリゴリやっていたアーティストが、オトナで良質な雰囲気をまとったR&Bで帰ってくるのもまた一興だ。
<西崎信太郎評>決定的な'90年代リヴァイヴァルな流れを感じているわけではないのですが、ディアンジェロ、ジョデシィという'90年代の巨頭が、ここ2年の間に新作をリリースし(両者共に15年以上のブランクがあった為、今のシーンにおいて跳ね返り度合いも格段に大きかった)、そんなディアンジェロの初来日公演も決行されたり、その流れも手伝ってかマクスウェルの初来日公演も実現したりと、やはり支持が高い'90年代のアーティストと、彼らのサウンド。
このシルクも、R&B黄金期の'90年代にデビューしたヴォーカル・グループ。ご存知キース・スウェットのバックアップにより、キースのレーベルKeiaの第1弾アーティストとしてデビューしたのが'92年。シルクと言えば"Freak Me"。シルクの人気を決定付けたスロウ・ジャムですが、ジョデシィにしても、H・タウンにしても、代表曲がスロウ・ジャムって、今のR&Bシーンにおいてのヒットの法則とは全く異なるアプローチ。今は、そもそもシーンを牽引するグループが皆無だから、単純比較は出来ないかもしれませんが。
さてさて、そんなシルクが、'16年に新作『Quiet Storm』をリリースしたわけですが、これがオリジナル・メンバーによる新作リリース。正直、グループという外枠があってグループのDNAが引き継がれていれば、イチファンとしてはどんな形のリユニオンでも嬉しい限りですが、やっぱりオリジナル・メンバーでの再起は格別のトピック。しかも、MV作成曲で、シルク健在っぷりと十分すぎるほどアピールした"Love 4 U 2 Like Me"は、師キースの作品をはじめとし、ジョニー・ギル、チャーリー・ウィルソンらを手掛けてきたワーリー・モリスが制作という泣きのプロダクション。
今のR&Bシーン全盛のオルタナティヴ・ソウルやトラップ・ソウルを、スロウ・ジャムとして解釈するしないは別の話として、シーンの流れとは別の視点で、個性を主張するスタンスが好きなんです。『Quiet Storm』というタイトルが全てを物語る、今なお進行形のシルク・イズム。これからも仲良く歳をとって頂きたいかぎりです。
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R&Bフリーク以外は置き去りにするR&B評 第24編『The Isley Brothers』
「The Isley Brothers」アメリカ合衆国オハイオ州出身の音楽グループ。60年もの長きに渡り第一線で活躍するレジェンド。
<TSUYOSHI評>1996年リリースの「Mission to Please」でアイズレー・ブラザーズにハマった。それまでアイズレーにずっと興味はあったのだけど、その昔CD屋に並んでいたアイズレーの日本版CDの帯に書いてあった”ブラック・ロック”の文言が私をアイズレーから遠ざけさせていた。後々ちゃんと聴いてみたら全然ロックじゃなかったけど。アーニー・アイズレーが弾くギターソロはそりゃ歪んでいるしフレーズもロックだけども、ほぼほぼその要素だけで”ロック”って言っちゃう感覚には恐れ入る。「For The Love Of You」がロックな訳あるまい。そんな恐ろしい”ブラック・ロック”というカテゴライズなど微塵も受け付けないアルバム「Mission to Please」は本当に美しいアルバムだ。アーニーの歪んだギターがこれまたセクシー極まりない。アルバムを通して、当時のロナルド・アイズレーの奥方のプロデュースワークが冴えていたとも思うし、Babyfaceやキース・スウェットの存在も大事だが、やはりR・ケリーが手掛けた名曲「Let's Lay Together」( https://youtu.be/AqlQ1eqLRmk )があってのアルバムの完成度なのだと思う。往年のアイズレーが聞かせてくれていた”美しさ”。それを90年代以降のR&Bテイストに焼き直してもなお輝きを放ち続けることができるアイズレー・ブラザーズの懐の深さ・偉大さを教えてくれたR・ケリーには本当に感謝しかない。
兄弟グループであるアイズレー・ブラザーズ。結成して62年も経っているらしい。初のヒット曲「Shout」のリリースですら57年前。この曲ですでにリードを歌っているロナルド・アイズレーの才能なくしてアイズレー・ブラザーズは存続しえなかったはず。70年代に入りさらに弟2人と従兄弟1人の若手親族が加入しセルフ・コンテインドなグループになってからもその勢いは止まらず。ロナルドの歌は熱いシャウトとあまりに美しいファルセットを行き来する。かつてアイズレーのバックバンドにいたジミ・ヘンドリックスばりのギターを奏でるアーニーとの絡みはもはや伝統芸能。今では当たり前だが、「Summer Breeze」のようなファルセットで歌っているミディアムスローな曲にエレキギターのソロが入るのは当時は画期的だったはずだ。
ちなみにギター担当のアーニーはレコーディングにおいてはドラムも担当している。派手なフィルインなどはせず、ひたすらビートを刻む。個人的に1975年リリース「The Heat Is On」の、昔でいうところのB面の3曲の流れがとても好き。「For The Love Of You」と「Make Me Say It Again Girl」という名曲に挟まれた「Sensuality」(https://youtu.be/Y5nwCXuqd6g)で、ギターを担がずに淡々とハイハット抜きのドラムを叩くアーニー。クリス・ジャスパーが奏でるエレピで始まるイントロのコード進行の美しさに輪をかけるように響き渡るARPシンセのメロディー。ロナルドの終始抑えめながらも時に官能的な歌声が乗っかれば、ただただこの上ない美しさの逸品となる。是非周りの寝静まった夜中にでもお聴きいただきたい。
<西崎信太郎評>"Between The Sheets"のトラックを初めて聴いたのは、ビギー"Big Poppa"。(もしかしたらヴィシャス"Nika"だったかも)。"For The Love Of You"のトラックを初めて聴いたのは、2パック"Bury Me A G"。"Work To Do"を初めて聴いたのは、ヴァネッサ・ウィリアムズのリメイク。"Summer Breeze"を初めて聴いたのは、ニッキー・リチャーズのリメイク。そう考えると、リアルタイムにアイズレー・ブラザーズの音楽に触れたのは、『Eternal』辺りだったのかも。サンプリング文化=リスペクト思考。恐らく、サンプリングされた楽曲数(カバー曲ではなくて)で言えば、どのアーティストよりもアイズレー・ブラザーズが最も多いのでは。今日のブラック・ミュージックの基盤を作っていると言っても過言ではないはレジェンド・バンドは、結成から70年近く経とうとしている。
僕の中でアイズレーと言えば、ファンク・バンドとして名を馳せた創成期より、TR-808を駆使して生まれたアーバン・ソウル"Between The Sheets"時代のイメージがやはり強い。ヒップホップのサンプリング・ソースとしてあまりにも有名な曲だが、この1曲があったから(マーヴィン・ゲイ"Sexual Healing"も含め)、R・ケリーの才能を開花させ、R&B/ソウルたるもの「セクシャルでなんぼ」という価値観が定着し、少子化対策(?)に一役かっているわけである。アイズレー・ブラザーズのフロントマン、ロナルド・アイズレーとかつて共演したトレイ・ソングスは、クリス・ブラウンと『Between The Sheets Tour』を'15年に決行。ツアーで"Between The Sheets"の披露はなかったようだが、時代のトップ・アイドルのアイズレー・ブラザーズへのリスペクト心を感じざるを得ない。
生涯現役を貫き、引退は全く考えていないというロナルド。彼が歌い続けるかぎり、アイズレー・ブラザーズに終わりはなし。
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