マル激!メールマガジン 2016年5月18日号
(発行者:ビデオニュース・ドットコム http://www.videonews.com/ )
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マル激トーク・オン・ディマンド 第788回(2016年5月14日)
なぜ日本にはチェルノブイリ法が作れないのか
ゲスト:尾松亮氏(関西学院大学災害復興制度研究所研究員)
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ロシアやウクライナにできたことが、なぜ日本にはできないだろうか。史上最悪の原発カタストロフィと呼ばれたチェルノブイリ原発事故から今年で30年になるが、チェルノブイリ原発があるウクライナとその周辺のロシア、ベラルーシにはチェルノブイリ法という法律が存在する。そして、各国政府はそのチェルノブイリ法に則って、事故によって健康被害を受けた可能性のある人々や、避難や移住を強いられた人々の補償にあたってきた。
しかし、日本では事故の第一義的な責任は東京電力が負うことになったため、強制的に避難させられた被害者への賠償は東電が行っている。そして、政府は除染作業を進めることで、年間被曝量が20ミリシーベルトの基準を下回った区域から順に帰還を進めている。避難指示が解除され、避難が強制的ではなくなった区域の住民から順次賠償は打ち切られることになるため、5年にわたる避難を強いられた被害者は被曝のリスクを覚悟の上で、まだところどころホットスポットが残る故郷へ戻るか、賠償の支払いが止まることを前提に、故郷へは帰らないことを選択するかの、二者択一を迫られることになる。
ロシアの研究者でチェルノブイリ法に詳しい関西学院大学災害復興制度研究所研究員の尾松亮氏は、チェルノブイリ事故と福島事故の決定的な違いが、国家が補償の責任主体とした点と、避難を必要とする放射能汚染の基準にあったと指摘する。チェルノブイリ法では、原発からの距離に関係なくICRP基準の年間被曝量が1ミリシーベルト以上の地域に住む人が、避難のための移住や健康被害に対する支援の対象とされ、国が「世代を超えて補償を続ける」ことが定められた。
一方、福島では1ミリシーベルトの被曝基準は2011年3月11日の原子力緊急事態宣言の発令によって一時的に20ミリシーベルトに引き上げられ、それがそのまま現在の基準となっている。政府が進める帰還政策も、年間20ミリを下回った区域から順次行われている。健康被害についてはいまだに因果関係をめぐる議論に終始している有様だ。
なぜロシアやウクライナはチェルノブイリ法を制定することができたのか。そして、なぜ日本にはそれができないのか。その結果、原発事故の被害者たちは今、どのような状態に置かれているのか。チェルノブイリ法の仕組みや背景と日本の現状をゲストの尾松亮氏とともに、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。
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今週の論点
・国が責任を負うチェルノブイリ法
・日本にない、被災者への手厚い補償はなぜ盛り込まれたか
・数値で定義された“復興”が招く、正義なき自己責任
・「甲状腺がんは5年後から増える」の落とし穴
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■国が責任を負うチェルノブイリ法
神保: 今年の4月26日で、チェルノブイリ原発事故から30年の節目を迎えました。3週間遅れになってしまいましたが、このタイミングでこれだけはどうしてもやっておきたい、と考えて今回企画しました。熊本でも避難生活が続いていますが、今年は東日本大震災、福島原発事故から5年目で、こんな言葉を本当は使ってはいけないのですが、現実問題として3.11が“風化”し始めているように思います。
宮台: 少し抽象的な話になりますが、物事が正しいか正しくないか、つまり正義があるかないか、法が貫徹しているかどうかということは、人々が関心を持つかどうかとは別の問題です。しかし、僕たちは人が関心を持ち、それについて非難や批判をしていれば悪いことだと考え、人が関心を失って非難が小さくなると、もう悪くなくなった、場合によっては禊が済んだ、という話になってしまう。これは山本七平さんが最初に議論した心の習慣の問題で、あらためて悲しく思い出します。
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