マル激!メールマガジン 2016年6月22日号
(発行者:ビデオニュース・ドットコム http://www.videonews.com/ )
──────────────────────────────────────
マル激トーク・オン・ディマンド 第793回(2016年6月18日)
18歳選挙権で試される日本の成熟度
ゲスト:斎藤環氏(精神科医・筑波大学医学医療系教授)
──────────────────────────────────────
精神科医の斎藤環氏は、選挙年齢の18歳への引き下げに反対している。大勢の引きこもりの若者を診てきた経験から、日本社会に若者の成熟や自立を支える準備ができていないと考えているからだ。
6月19日に改正公職選挙法が施行され、選挙権を与えられる年齢が18歳に引き下げられた。7月10日に投票が見込まれている参議院議員選挙は、18歳選挙権が実施される初の国政選挙となり、今回の引き下げで、全有権者の約2%に相当する約240万人の若者が新たに選挙権を手にすることになる。世の大人たちは、選挙年齢の引き下げによって若者の政治への参加意識が高まり、責任感も増すのではないかと、おおむね肯定的のようだ。また、欧米諸国で18歳から投票権を与えていることも、今回の制度改正を支持する理由になっている。
しかし、若者の自立や成熟を支援する制度を強化することなく、単に選挙年齢を下げれば自動的に若者の自立や政治参加が進むと考えるのは、「根拠がない」と斎藤氏は言う。選挙年齢を下げれば、次は成人年齢を18歳に引き下げようという議論になることは必至だ。それは現行制度の下では保護の対象となっている18歳、19歳の若者を大人として扱い、年金や社会保障費や刑事罰で大人と同等の義務や責任を負わせることを意味する。
そもそも今回の選挙年齢の引き下げは、憲法改正のための国民投票の対象年齢を18歳としたことに合わせるためだった。これは憲法改正を目指す自民党が、若年層が憲法改正に前向きであることを意識したためであると考えられている。選挙年齢がそのような「不純な動機」で引き下げられる一方で、若者の引きこもりは深刻の度合いを増していると斎藤氏は言う。多くの若者が、携帯電話やSNSによって繋がる友人関係から外れまいと、過剰なプレッシャーに耐えている。そのプレッシャーに耐えられなかったり、そこから外れてしまった若者の多くが、不登校や引きこもりなどの手段によって自己防衛に走る。その数は正確にはわからないが、人口の5%~10%に及ぶとの推計もあると、斎藤氏は言う。
このような引きこもりの問題も解決できない日本が、選挙年齢を引き下げて18歳の若者を成人として扱い、一人前の責任を求めるようになれば、今以上に多くの若者が社会から隔絶されてしまう恐れがある。今日本が優先的に考えなければならないことは、若者の責任を増やすことではなく、自立を支援する体制を強化することではないかと斎藤氏は語る。
選挙年齢の引き下げは妥当なのか。18歳に選挙権を与え、これを大人として扱うだけの体制が日本の社会にできているのか。成人年齢の引き下げ論議や、社会的弱者としての若者対策の現状などを参照しながら、ゲストの斎藤環氏とともに、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。
++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
今週の論点
・選挙権、成人年齢の引き下げは、権利ではなく義務の拡充だ
・弱者対策を家庭に押しつける日本
・若者はなぜ引きこもるのか
・義務の押し付けより、排除された若者のサポートを
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
■選挙権、成人年齢の引き下げは、権利ではなく義務の拡充だ
神保: 6月19日の改正公職選挙法施行で、国政選挙では今回の参院選より18歳から選挙権が認められるようになりました。この18歳選挙権と日本の現状、というのは非常に面白い論点だと考え、テーマに設定したのですが、宮台さん、最初にポイントはありますか。
宮台: 今度の選挙は安倍を選ぶか、9条護憲を選ぶか、みたいな構図になっており、反安倍勢力は争点隠しを問題化しています。僕は安倍さんはよくないと思うけれど、9条護憲という立場にも反対です。マル激でも沖縄論のなかでずっと議論してきましたが、いざというときにどこかから暴力を調達しなければならず、結局アメリカの暴力に依存することになる。そのためにはアメリカの侵略戦争や、米軍基地が沖縄にあるということも容認するという、非常にでたらめなエゴイズムに基づいています。憲法改正にはもともと2つの方向性があり、つまりアメリカの暴力にすがり、侵略戦争にもついていくしかないようなものか、アメリカの暴力を当てにしないで前に進んでいけるようなものなのか、と問うてきましたが、誰も聴かなかったでしょう。最近、小林よしのりさんが漫画でそのことを主張しているけれど、やはりみんな聞かない。マッカーサーは「日本は、まだ12歳の少年だ」と言いましたが、僕たちは今、何歳になっているのでしょうか。
神保: 後退している可能性ありますね。
宮台: ただでさえ大人が幼児化しているなかで、選挙権に関する議論がどういう意味を持つか考えていただきたい。
神保: むしろ選挙年齢を上げろ、という議論があってもおかしくありませんね。さて、選挙権の引き下げは政治とのかかわり方を根本的に考える上で全面的にいいことだと言われてきましたし、僕もそれを真に受けている部分がありましたので、今回は考えさせられるところがありました。ゲストをご紹介します。精神科医で、筑波大学医学医療系教授の斎藤環さんです。斎藤さんは、基本的に18歳選挙権には反対の立場を表明されており、明確に反対という人は初めて見ました。
斎藤: 確かに、他にいないですね。