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小林良彰氏:参院選でわれわれが選んだもの
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小林良彰氏:参院選でわれわれが選んだもの

2016-07-20 20:00

    マル激!メールマガジン 2016年7月20日号
    (発行者:ビデオニュース・ドットコム http://www.videonews.com/
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    マル激トーク・オン・ディマンド 第797回(2016年7月16日)
    参院選でわれわれが選んだもの
    ゲスト:小林良彰氏(慶応義塾大学法学部教授)
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     この選挙で日本の有権者が選んだものは、ただの「現状維持」だったのか。参議院選挙は与党勝利で幕を閉じた。自民党は6議席を上積みし、追加公認などを加えると参院で121人の単独過半数を得ることとなった。自公明党も5議席上乗せし、おおさか維新の会などのいわゆる改憲勢力としては戦後初めて、衆参両院で憲法改正の発議に必要な全議席の3分の2を超える結果となった。
     与党、とりわけ自民党の勝因について、2000人を超える有権者を独自に世論調査した政治学者の小林良彰・慶應義塾大学教授によると、圧倒的に多くの有権者が景気対策や年金、社会保障問題などの経済問題を優先課題にあげていたという。野党が与党の攻撃材料として強く押し出してきた安保法制や憲法改正の問題は、関心がないわけではないが、日々の生活の苦しさや将来不安の方が有権者にとっては遥かに優先課題だったことがうかがえる。
     その点、経済政策については、自民党は野党の訴える政策を巧みに取り入れ、野党の戦略を無力化することに成功した。結果的に有権者からは、優先課題の経済政策で自民党と野党の政策の区別がつきにくくなり、「ならばよりリスクの小さい与党に」という結果になったと見られると小林氏は言う。
     小林氏は選挙の勝利が白紙委任を意味するわけではないと、警鐘を鳴らす。安倍首相がそれを見誤れば、リスク回避目的で今のところ自民党に集まっている消極的な支持が、一気に雲散霧消する可能性もある。また、同じく有権者側も白紙委任状を渡したわけではないことを認識し、引き続き辛抱強く政治を監視していく姿勢が求められる。
     与党が圧勝し、野党陣営でも組織選挙が目立った参院選だったが、新しい政治参加の形が見えてきた選挙でもあった。上智大学の三浦まり教授によると、この選挙ではこれまで政治に積極的に参加してこなかった市民層の多くが、独自に政治との回路を開拓していたと指摘する。こうした一般市民層の政治参加が進み、とりわけ野党がその勢力との合流に成功すれば、政治に健全な競争が生まれ、政治に緊張感が戻ることが期待されるところだ。
     今回の参院選でわれわれが選択したものは何だったのか。また、野党には何が欠けていたのか。今回の選挙における有権者の行動分析や各党の政策と選挙結果などを参照しながら、ゲストの小林良彰氏とともに神保哲生と宮台真司が議論した。

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    今週の論点
    ・リスク回避の与党支持
    ・深刻な“民進党アレルギー”
    ・野党は何を主張すべきだったか
    ・若年層の政治参加と、メディアの矜持
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    ■リスク回避の与党支持

    神保: 先週、参院選直前に、今回の選挙で問われているものは何なのか、というテーマで議論しましたが、結果は与党の勝利でした。宮台さんは今回の参院選をどう見ましたか。

    宮台: まったくダメでしたね。問われるべきものが問われなかったのは、やはり民進党も含めて野党がクズだったから、というふうに思います(笑)。まず、改憲勢力が3分の2をとるかどうかというのは虚偽問題です。つまり、公明党よりもはるかに過激な改憲勢力が民進党のなかに存在するのですから。この議論で覆い隠されてしまった問題は何かというと、やはり3.11問題だと思います。つまり、東日本大震災からの復興に、僕たちの社会の未来の姿を見通せるかどうかがかかっていた。任せてブーたれる政治から、引き受けて参加する政治に進むのか。あるいは中央依存的な経済から、自律的な経済圏を作るのか。それに成功するかどうかが、日本の将来を決めると議論してきました。
     しかし、アベノミクスで言う第3の矢、成長戦略にかかわるところですが、復興と言っても護岸と大規模堤防のようなものに還元され、従来の枠組みを焼き直しただけになってしまった。そのなかで、下からの民主主義でもいいし、自律的経済圏でもいいけれど、なぜそういった論点を野党が出せないのか、ということです。そういう発想の貧しさが、若い人たちを政治のディスカッションにエンロールすることができない原因になっている。年長世代は沈みかけた船のなかで座席争いをすることができますが、若い世代には新しい船が必要です。どういう社会であれば、自分たちが幸せになれるのか。民進党は民主党時代にやりかけていたはずの――「新しい公共」という概念のベースにもなっていた、“個人を支える民間”を支える行政、という議論がまったく出せなかった。そういう問題意識自体が消去されていると言ってもいいでしょう。

     
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