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上西充子氏:馬脚を現し始めた安倍政権「働き方改革」の正体
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上西充子氏:馬脚を現し始めた安倍政権「働き方改革」の正体

2018-02-21 23:00

    マル激!メールマガジン 2018年2月21日号
    (発行者:ビデオニュース・ドットコム http://www.videonews.com/
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    マル激トーク・オン・ディマンド 第880回(2018年2月17日)
    馬脚を現し始めた安倍政権「働き方改革」の正体
    ゲスト:上西充子氏(法政大学キャリアデザイン学部教授)
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     安倍政権が目指す「働き方改革」の危険性については、この番組でもかねがね指摘してきた(マル激トーク・オン・ディマンド第843回(2017年6月3日)『安倍政権の「働き方改革」が危険な理由』ゲスト:竹信三恵子氏[和光大学現代人間学部教授])。
     安倍政権は一貫して労働者を保護するための労働法制の規制緩和を目指してきた。2015年にも「高度プロフェッショナル制度」の導入や「裁量労働制」の拡大などを目指して法案を提出したが、野党から「残業ゼロ法案」と叩かれ、世論の反発を受けるなどしたため、成立を断念している。
     しかし、今国会に提出された「働き方改革」関連法案は、過去に実現を目指しながら挫折してきた労働者保護法制の規制緩和はそのまま踏襲しておきながら、労働側の長年の「悲願」ともいうべき残業時間の上限規制という「アメ」を含んでいるため、過去の「残業ゼロ法案」や「ホワイトカラーエグゼンプション」のような一方的な規制緩和という批判を巧みにかわすような立て付けになっている。実際、安倍首相も今国会を「働き方改革国会」と位置づけた上で、所信表明演説で、「戦後の労働基準法制定以来、70年ぶりの大改革」、「我が国に染みついた長時間労働の慣行を打ち破る」などと大見得を切っている。
     しかし、労働法制に詳しい法政大学の上西充子教授は、「上限規制」という言葉に騙されてはならないと警鐘を鳴らす。確かに残業について罰則つきの上限が設けられているが、残業の上限を基本的には月45時間と定めておきながら、例外的に月100時間までの残業が認められ、年間の残業時間の上限も720時間まで認められる。毎日最低でも5時間の残業を前提とするこの上限値で長時間労働の打破と言えるかどうかも、よく考える必要があるだろう。
     しかし、今回の法改正の最大の問題点は「残業時間に上限を設ける」ことで労働側に一定の配慮を見せるかのような体を繕いながら、実際は「高度プロフェッショナル制度(高プロ)」の導入や「裁量労働制」の対象拡大によって、事実上、残業時間の上限自体を無力化させる制度変更が含まれている点だと上西氏は指摘する。高プロや裁量労働は、事実上勤務時間自体に定めがないため、残業が無制限に許容される恐れがある。この対象が拡大されれば、労働基準法上の残業の上限規制など何の意味も持たなくなる。
     しかも、今回、労働組合側は長年の悲願だった「上限規制」が導入されることと引き換えに、事実上の上限規制の抜け穴となる高プロの導入や裁量労働の拡大を含む法改正に同意してしまっている。他にも、今回の働き方改革は「同一労働同一賃金」「働き方に左右されない税制」などの文字が並ぶが、その中身は「同一労働同一賃金」の方は非正規雇用者の雇用条件の改善よりも正規雇用者の待遇の低下を、「働き方に左右されない税制」はサラリーマンの所得控除の縮小を意味しているなど、見出しと内実がかみ合わない両義性を含んでいることを、上西氏は指摘する。
     正社員と非正規労働者の待遇に不合理な格差があったり、過労死自殺が後を絶たないような現在の日本の労働環境に改革は必須だ。しかし、その問題意識を逆手に取るような形で、一見労働者の側に立っているかのようなスローガンを掲げながら、実際は労働者の待遇をより厳しいものに変えていこうとする現在の政権のやり方には問題が多い。
     そもそも首相が戦後の大改革と胸を張る「働き方改革」は誰のための改革なのか。今国会の審議で明らかになってきた安倍政権の「働き方改革」の実態と、それが働く者にとってどんな意味を持つのかなどについて、上西氏とともにジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。

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    今週の論点
    ・安倍政権の常套手段――きれいな看板の裏で進む真意とは
    ・他人事に見える「高度プロフェッショナル制度」の落とし穴
    ・際限なく広がる可能性のある「裁量労働」の範囲
    ・日本の労働環境に処方箋はあるのか
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    ■安倍政権の常套手段――きれいな看板の裏で進む真意とは

    神保: 今回は、正直に言ってわれわれがきちんと取り上げてこなかった、労働法制の問題です。一度、竹信三恵子さんをお招きして、「安倍政権の『働き方改革』が危険な理由」として議論しましたが、今回はいよいよ、働き方改革国会だと。世の中的にはあまり大きく取り上げられていないように見えますが、中身に気をつけないとヤバいものがたくさん入っていると思いましたので、今回のテーマを設定しました。本当は、誰もが他人事ではなく、大きな関心事になっていいものですね。

    宮台: 関心の集まり方として、就職できるかどうか、正社員になれるだろうか、給料が上がるだろうか、ということが優先項目になっています。いまの学生たちは売り手市場であっても、「仕事がきつくても正社員になれるなら」となりやすい。大学生の半分が安倍政権支持だというのは、もちろん就職率や景気が大きいところですが、彼らは必ず「いつまでもこうとは限らない」と言う。だから、できるだけこの状態を長続きさせてくれる安倍政権が必要なのだと。「景気がいい」というのがカッコつきだとしても、学生たちには背に腹は代えられないという、不安の意識と表裏一体なんです。

    神保: 今回は国会審議を入り口に議論しますが、なぜ日本の労働問題がいまのような位置づけになっているのか、本当に変わってきているのかいないのか、というところまで話すことができればと思います。ゲストをご紹介します。法政大学キャリアデザイン学部教授の上西充子さんです。さっそくですが、冒頭から話しているように、「働き方改革国会」とまで言っているのに、世の中で働き方の議論にそれほど注目が集まっていないように見えるのは、どんな理由からでしょうか。

     
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