マル激!メールマガジン 2018年11月28日号
(発行者:ビデオニュース・ドットコム http://www.videonews.com/
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マル激トーク・オン・ディマンド 第920回(2018年11月24日)
平和条約をめぐる日ロ両国の思惑と日本として譲れない一線
ゲスト:小泉悠氏(軍事アナリスト)
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 日露両国が平和条約締結に向けて、北方領土問題の決着に手を着け始めたようだ。
 安倍首相はプーチン大統領が提案してきた「1956年の日ソ共同宣言を基礎とする」ことに同意しているようなので、北方領土問題に関して日本はこれまで貫いてきた4島一括返還路線を放棄し、2島返還、もしくは2島+アルファに舵を切ったとみられる。
2島返還は日本にとってはこれまでの主張からの大きな譲歩になる。また、ロシアにとっては実効支配を続け、それなりに投資も行ってきた領土を日本に明け渡す以上、何らかの皮算用があるはずだ。軍事アナリストでロシアの政治・軍事情報に詳しい小泉悠氏は、領土問題を解決し、日本との平和条約締結を実現することのロシアにとっての最大のメリットは、それがアメリカに対する牽制になることだと分析する。
首脳間では仲がよいかのような印象を受ける米露両国だが、実際は現在の米ロ関係は最悪の状態にあると小泉氏は言う。特にヨーロッパ側では、拡大したNATOとロシアの国境には双方ともに軍備を集結させており、その様は冷戦期を彷彿とさせるほどだ。
 そのロシアにとって、アメリカ陣営の最も弱いリンクが日本なのだと小泉氏は言う。クリミア半島への侵攻に対する国際的な制裁についても、米欧諸国が厳しい制裁を科しているのに対し、日本の対露制裁は遙かに弱いものにとどまっている。また、あまり一般には知られていないことだが、実は日本とロシアの軍事交流も盛んに行われている。
 ロシアと日本が領土問題を解決し平和条約を結ぶなどして、2国間関係がより緊密化すれば、ロシアにとってそれはアメリカの支配網に楔を打ち込む意味を持つとロシア側が考えている可能性が高いと、小泉氏はいう。
 また、ロシアは日本との関係をより緊密にすることで、中国を牽制する効果も期待していると小泉氏はいう。ロシアは依然として強い大国意識を持っており、中国がロシアを差し置いて世界の超大国になっていくことに、少なからず不快感を覚えている。米中の覇権争いが激化する中、両国の間でバランスに腐心することが必至な日本との関係を改善しておけば、東アジアにおけるロシアの存在感は自ずと大きくなる。
 しかし、その一方で、日本と平和条約を結ぶことが、直ちにロシアに何らかの大きなメリットをもたらすわけではないことは、ロシア側も十二分に理解しているはずだと小泉氏は指摘する。経済協力や投資についても、日露間に平和条約がないことがその足枷になっているとは思えないところがある。また、ロシアの領土を日本に返すことはロシア国内でも決してポピュラーではなく、実は2島返還の「引き分け」は、プーチン大統領にとっても一定のリスクがあることなのだ。
 だとすると、そこは要注意だ。プーチン大統領が突如として「無条件で平和条約交渉を進めよう」と言ってきている背後には、何か別の計算なり、皮算用がある可能性が高いからだ。
 平和条約攻勢に出たプーチンは何を取ろうとしているのか。ロシアが何か条件を出してきた時、日本にとって譲れない一線とはどこなのか。ロシア情勢に詳しく、9月19日から23日に掛けて内閣府が主催した北方領土ビザなし訪問団の一員として国後島と択捉島を訪問してきた小泉氏と、ジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。

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今週の論点
・二島返還、ロシアの思惑はどこに?
・ロシアから見た日本 “アメリカの腰巾着”だが、伝統文化にはリスペクトも
・「主権は引き渡さない」というロシアの戦略
・日本に残された時間は少ない
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■二島返還、ロシアの思惑はどこに?

神保: 今回は日露交渉、北方領土問題について、どうも急展開があったようだということで、それが本当に起きているのかどうかも含めて議論していきたいと思います。

宮台: 少なくとも、安倍が前のめりになっていることだけは、みんな知っていますね。

神保: ロシアとの平和条約を実現すれば、任期の長さに加えて、さらに戦後の総決算をした総理として、歴史に名を残すことになります。ただ、ロシア側にも計算があるでしょうし、日本側の話は、ちょっとしょぼいものになる可能性も高いです。宮台さんが言われたように、安倍さんは功を焦っているような感じもあり、ロシア側が何を考えているのか、という話も聞いていきたいと思います。
ゲストはロシア情勢に詳しい、軍事アナリストの小泉悠さんです。さっそくですが、ここに来て急にこの問題が動いている感じで、早ければ年内にも動きがあり、来年には仮調印、という話まで聞こえてきています。ロシアウォッチャーとして、いまの状況をどうご覧になっていますか?