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郷原信郎氏:河井夫妻逮捕で問われる検察の本気度と「政治活動」再定義の是非
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郷原信郎氏:河井夫妻逮捕で問われる検察の本気度と「政治活動」再定義の是非

2020-07-08 20:00
    マル激!メールマガジン 2020年7月8日号
    (発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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    マル激トーク・オン・ディマンド 第1004回(2020年7月4日)
    河井夫妻逮捕で問われる検察の本気度と「政治活動」再定義の是非
    ゲスト:郷原信郎氏(弁護士)
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     東京地検特捜部は2020年6月18日、河井克行前法務大臣とその妻案里参議院議員を公職選挙法の買収容疑で逮捕した。安倍政権の発足以来、政治が絡む事件に手出しができずにいた検察がようやく重い腰をあげたと、巷ではこの逮捕劇を歓迎する向きが多いようだ。
     確かに、2人区とはいえ長年与野党で議席を分け合ってきた参院広島選挙区で、安倍首相に批判的だった現職の溝手顕正参院議員に対して、あたかも刺客をさし向けるかのような形で首相側近の妻を2人目の候補として擁立し、その候補に党から溝手氏の10倍にあたる1億5,000万円もの活動費が支出され、夫婦でそのカネをばらまくような選挙運動が行われたことが広く報じられる中、それが典型的かつあからさまな選挙買収事件だったと理解されるのも無理からぬところだろう。
     しかし、検察官として公職選挙法や贈収賄事件を捜査した経験を持つ郷原信郎弁護士は、この事件は世の中が思っているほどクリアカットな選挙買収事件ではないので、今後の成り行きは注視する必要があると警鐘を鳴らす。
     報道では克行氏が中心となり、かなりあからさまな買収が広範囲で行われていたかのような情報が流布されているが、ご多分に漏れずこれは記者クラブメディアが検察のリークを垂れ流しているだけなので、100%真に受けてはならない情報だ。
     郷原氏は克行氏が党から支出された資金を広島県内の有力な首長や市議会議員らに配りながら妻案里氏の応援を依頼して回った時期は実際の参院選の4か月以上も前に始まっており、その多くはこれまで政治の世界で「地盤培養行為」と呼ばれる「政治活動」の範疇に入るものだった可能性が高いと指摘する。
     公職選挙法は「特定の候補者を当選させる目的で選挙人や選挙運動者に金品を供与」することを禁じているが、選挙とは直接関わりのない形で地元の有力な政治関係者にカネを渡し、支持層の拡大や応援を依頼することは合法であり、実際にそのようなことは今も広く行われているという。
     今回も具体的に票の取りまとめの依頼があったとか、具体的に票を買いたいという申し出があったという話があれば別だが、河井夫妻がカネを方々でばらまきながら「案里をよろしく」と支持を依頼して回った程度の話であれば、これまでの基準では買収とはならなかったと郷原氏は言う。その上で、今回広島地検が公職選挙法の買収容疑で逮捕に踏み切った以上、検察はこれまでの「地盤培養行為」と「買収」の境界線を踏み越える決断を下したと見るべきだろうと郷原氏は言うのだ。
     まずは河井氏の事件を理解する上で、検察のリークの垂れ流し報道だけを見て事件の概略を理解したつもりになってはまずい。その上で、今回の河井氏の行為が従来の政治活動と選挙運動の境界線を本当に超えていたのかどうかを見極める必要がある。また、もし今回は境界線を越えていなかったとしても、明らかに既存の境界線がおかしいとすれば、それは検察の一方的な解釈変更によってではなく、法改正によって動かされるべきものではないか。
     河井氏逮捕で検察はどこまで本気でやるつもりなのか。政治活動と選挙運動の境界線を動かすところまで踏み込む覚悟があるのか。仮にその覚悟があるとしても、それを検察が一方的に行うことが許されるべきことなのか。また、それで裁判に勝てるのか。さらに、政治には自分たちに不都合となる法改正を期待できない時、それが検察の解釈変更によって実現することを期待することは許されることなのか。市民社会にとってリスクはないのか、などについて、公職選挙法や政治資金規正法に精通し、今回の河井氏の事件についても多くの発信を行っている郷原氏と、ジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。

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    今週の論点
    ・違法な「買収」なのか、黙認されてきた「地盤培養行為」なのか
    ・「悪しき慣習の排除」にとどまらず、政治活動を制約する可能性
    ・政権と対立する検察幹部の意向
    ・首相官邸への強制捜査はあり得るか
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    ■違法な「買収」なのか、黙認されてきた「地盤培養行為」なのか

    神保: マル激ではこれまで度々、検察の問題を取り上げてきました。7月18日に関連の議論をまとめた、マル激としては12冊目の本が光文社から出ることもあり、ここのところ原稿の直しも含めて、あらためて検察の問題を多くやっています。今回は検察の問題であると同時に、政治の問題でもありますね。

    宮台: 黒川問題で、とりわけ検察と政治の関係がクローズアップされました。

    神保: 今回は河井事件というものをめぐり、そういう切り口で議論をしたいと思います。法律の解釈など含め、重要な争点がいくつかありますが、最初に宮台さんから何かありますか。

    宮台: 日本人はやはり近代司法を知らないから、岡っ引き根性になりやすいです。つまり、「悪い奴は引っ括ってしまえ」でカタルシスを得て、また日常に戻るという感じになります。 
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