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中井治郎氏:夫の私が妻の姓を選んでわかったこと
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中井治郎氏:夫の私が妻の姓を選んでわかったこと

2022-01-19 20:00
    マル激!メールマガジン 2022年1月19日号
    (発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/)
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    マル激トーク・オン・ディマンド (第1084回)
    夫の私が妻の姓を選んでわかったこと
    ゲスト:中井治郎氏(社会学者、龍谷大学社会学部非常勤講師)
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     日本は1996年に法務大臣の諮問機関である法制審議会が、夫婦が別姓を選択できる制度の導入を答申して以来、強制的な夫婦同姓を定めた民法750条は、国連の差別撤廃委員会から繰り返し勧告を受けたり、多くの違憲訴訟が提起されるなどしてきた。しかし、政治の動きはいたって鈍く、最高裁も現行法の下での夫婦同姓の合憲判断を繰り返したため、法制審議会の答申から26年が経った今も、日本では厳然たる夫婦同姓制度が続いている。
     一方で世界に目を向けると、夫婦同姓制度を維持している数少ない国の一つだったタイが2005年に、オーストリアとスイスが2013年にそれぞれ選択的夫婦別姓を導入したことで、世界で夫婦に同姓を強いている国は日本だけになってしまった。
     先の総選挙では、日本記者クラブで開催された党首討論会において「次期国会で選択的夫婦別姓を認める法案の提出」への賛否を問われた際、自民党の岸田総裁を除く全党の党首が、これに賛成の意思を表明した。自民党だけが依然として選択的夫婦別姓に否定的な態度を続けている状態だ。
     自民党内では夫婦同姓制度が日本の伝統的な結婚や家族制度を維持する上で欠かすことのできないものであると主張する保守勢力が政策決定に強い影響力を持っているため、選択的夫婦別姓の導入に向けた議論は進んでいない。現在は保守派の重鎮でもある高市早苗政調会長を中心に、旧姓を通称として使い続けることに法的な根拠を与えるための法改正に向けた議論が進んでいる。これは結婚を機に主に女性が苗字を変えなければならないことによって生じるデメリットを抑えつつ、戸籍上の夫婦別姓だけは何が何でも認めないという考え方が根底にあるものだ。戸籍上の同姓制度が日本の家族制度を支えていると本当に考えているのだろうか。
     社会学者の中井治郎氏は、自身が次男であり妻が3人姉妹の末妹だったことから、2019年に結婚した際、それほど強いこだわりもなく妻の旧姓を名乗る選択をした。しかし、いざ戸籍名を妻の姓に変えてみると、不都合なことがとても多いことに気づかされたという。
     中井氏は結婚後も社会的には旧姓の中井を使い続けている。つまり「中井治郎」という名前は現行法の下では「通称」ということになる。当初、中井氏としては、戸籍に関わる問題以外は妻の姓を名乗ることにそれほど大きな影響はないと考えていたそうだ。しかし、税金関係や健康保険、銀行口座、パスポートなどにはいずれも戸籍名を書かなければならず、それが中井氏が通常使っている名前と同一人物であることを証明するのが容易ではないことに、後になって気づかされたという。
     また、中井氏の親族内、とりわけ結婚して中井姓を名乗ることになった女性の親族の間に、中井氏が中井姓を捨てることに対する反対論が強かったことが、中井氏にとっては意外だったという。むしろ男性の親族の方が、中井氏の決定に理解を示したそうだ。中井氏は女性親族から、男性は元々苗字を変えなくてもいいという特権を持って生まれているのに、なぜみすみすそれを放棄しなければならないのかと言われ反対されたのだという。
     世界の趨勢や世論の動静も、一律に夫婦に同姓を強制することが難しくなる中、自民党が現在検討している通称利用の法制化は妥当な解決策といえるのか。長らく選択的夫婦別姓が導入できなかったのは、党内の保守派の影響力が強いからだが、自民党内には別姓の容認論、推進論も根強く残っている。岸田政権が脱安倍を果たし真に自前の政権へと脱皮する上で、この法案の扱いが大きな試金石となるだろう。恐らく今年7月の参院選でも選択的夫婦別姓導入の是非は自民党と他の野党とを分かつ境界線になる。日本では結婚に際して96%が男性の姓を名乗っているという実態に鑑みて、日本が女性に大きな犠牲を強いる現在の強制的な夫婦同姓制度をいつまで続けるのかが注目されている。
     結婚に際して自身が妻の姓を名乗る選択をしたことで、苗字を変えることのさまざまな負担や、通称と戸籍上の名前が異なることの弊害を身をもって経験している中井氏と、日本の選択的夫婦別姓をめぐる現状やその実態について、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。

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    今週の論点
    ・妻の姓を選択するとき、なぜ女性親族が反対したのか
    ・「苗字」の歴史と、いまだに「入籍」という言葉が使われる理由
    ・姓を変えることの不都合――女性にハンディキャップを押し付けている現状
    ・保守陣営が不安の埋め合わせのために維持している夫婦同姓
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    ■妻の姓を選択するとき、なぜ女性親族が反対したのか

    神保: 今回は選択的夫婦別姓、もしくは夫婦別姓同姓問題というものを取り上げます。というのも、僕はこれを岸田政権が本当に脱安倍にかかれるか、ということの試金石になっていると見ているんです。選択的夫婦別姓は当然だろう、という声が強いのに、安倍政権で非常に力を持っていた自民党内の保守派、その代表格として高市早苗さんが現在、政調会長として入っていますが、そこが頑として動かない状況。今回はこの問題をきちんと整理しようと考え、ゲストに社会学者で龍谷大学社会学部非常勤講師の中井治郎さんをお招きしました。
     『日本のふしぎな夫婦同姓 社会学者、妻の姓を選ぶ』という本をお出しになっており、副題の「社会学者」というのは、中井さんご自身のことです。2019年に結婚されて、日本は同姓にしないと入籍できませんから、奥様の方の姓に変えられたと。民法上、いまはどちらの姓にしてもいいことにはなっていますが、96%が男性の方に合わせており、実質的に女性が名字を放棄しなければいけないという法律になっているなかで、そうした選択をされたということです。本を読むと、親族からは反対されたと書かれていますね。

    中井: そうですね。僕自身が次男であることが大きく、特に差し支えないだろうと高を括ってしまっていました。妻の方は3人姉妹で、最後の独身の女の子だったので、苗字を変えてしまうと、向こうの家の姓がなくなってしまう、というところで。妻に言われたわけでなく、最初から「治郎さんが変えるのは大変だしね……」と、最初から諦めていたような感じだったことに、なにかカチンと来てしまったんです。そこで、勢いで「それなら自分が変えるよ」と、思いつきで決めたのですが、思ったより大変だった、ということを本に書いています。
     
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