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広瀬佳一氏:ロシアのウクライナ侵攻で変容するNATOの機能と対露パワーバランス
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広瀬佳一氏:ロシアのウクライナ侵攻で変容するNATOの機能と対露パワーバランス

2022-06-08 20:00
    マル激!メールマガジン 2022年6月8日号
    (発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/)
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    マル激トーク・オン・ディマンド (第1104回)
    ロシアのウクライナ侵攻で変容するNATOの機能と対露パワーバランス
    ゲスト:広瀬佳一氏(国際政治学者、防衛大学校人文社会科学群教授)
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     NATO(北大西洋条約機構)は元々西ヨーロッパ諸国が共産主義国ソビエト連邦の軍事的脅威に対抗するためにアメリカを中心に1949年に構築された軍事同盟だった。その後ソ連陣営は1955年にNATOに対抗する軍事同盟となるワルシャワ条約機構を発足させ、世界は本格的な冷戦に突入していった。そのため、1991年にソ連が崩壊し、それに伴いワルシャワ条約機構も消滅した瞬間に、NATOはその役割を終えていてもおかしくなかった。いや、もしかするとそこで役割を終えるべきだったのかもしれない。
     NATOの自分探し、すなわち自らの存在意義を再発見し再定義する作業が始まったところに、お誂え向きの危機が発生する。舞台は旧ユーゴスラビアだった。
     1990年代に旧ユーゴスラビアでボスニア戦争、コソボ紛争などが相次いで勃発し、未曾有の人道危機や難民の大量発生という事態に直面したことで、NATOはこれまでの軍事同盟としての機能に加え、「危機管理」という新たな機能を見出すことになった。そして、2001年にアメリカで同時テロが発生すると、NATOはアメリカに対する攻撃をNATO全体への攻撃と見做し、これに反撃することを定めたNATO条約5条を歴史上初めて発動し、テロとの戦いにもコミットしていくことで、また新たな役割を見出していった。
     そしてその間、NATOは、旧ソビエト圏に着実に勢力を拡大していった。1999年にポーランド、チェコ、ハンガリーが揃ってNATOに加盟したのを皮切りに、バルト3国、ルーマニア、ブルガリアなどの旧ワルシャワ条約機構加盟国が続々と加盟し、NATOはいよいよヨーロッパ全域にその勢力を拡げていった。一時はロシアをNATOに加えてはどうかという議論まであったほどだ。
     ところがロシアでは2000年にエリツィンの後を継いで大統領に就任したプーチンが2005年頃から権力を完全に掌握し、専制主義的な色彩を強めていく。2000年代に東欧や中央アジアの旧共産圏諸国で相次いで起きた「色革命」と呼ばれる民主化革命の背後にアメリカの影を見ていたプーチンの目には、NATOの東方拡大が民主化運動の拡大とダブって見えたようだ。
     防衛大学校教授で欧州の安全保障に詳しい広瀬佳一教授は、プーチンにとってNATOの拡大は、軍事的な脅威よりも民主化圧力が自分の眼前に迫ってくることの脅威の方が大きかったのではないかと指摘する。ロシアという大国を事実上専制君主よろしく独裁的に治めているプーチンにとっては、NATOの軍事力よりもそれが体現している理念の方が怖かったという指摘だ。
     いずれにしてもNATOの東方拡大を脅威と感じ始めたプーチンは、2008年頃から対抗策に出る。NATO入りに傾いていた旧ソ連圏のジョージアへの軍事介入(南オセチア戦争)を皮切りに、2014年のクリミア併合と東部ウクライナ・ドンバス地方への侵攻など、ジョージアとウクライナのNATO入りだけは絶対に認めないという姿勢を明確に示し始めた。そして、それでもウクライナのゼレンスキー大統領がNATO入りを諦めない姿勢を見せると、遂に2022年2月24日、ウクライナへの軍事侵攻という暴挙に出てしまった。
     ウクライナ戦争の帰結がどうなるかは依然として不透明だが、仮にこの戦争でロシアが有利な和平条件を勝ち取ったとしても、それは一時的なもので、長期的にロシアの国力や国際的プレゼンスが大幅に低下することは避けられないだろう。今や韓国とほぼ同レベルのGDPしか持たないかつての超大国が、長期の低迷期に入ることは確定的だと考えられる。しかし、その一方で、ロシアが依然としてアメリカと肩を並べる核兵器の大量保有国であることに変わりはない。
     こうした状況の中で欧州は今後どのような安全保障体制を構築していくことになるのか。ロシアの国力が弱体化し、もはやロシアが現実的な脅威とは言えない存在になっても、ウクライナとベラルーシを除き欧州のほぼ全域を勢力下に収めたNATOという軍事同盟は依然として必要なのか。核兵器の保有量は言うに及ばず、国土の大きさや1億4千万人を超える人口、そして歴史的な経緯などから、ロシアを除いた欧州の安全保障はあり得ないと語る広瀬氏は、今回のウクライナ戦争でNATOと日本の関係も大きく変化したと語る。
     なぜロシアはウクライナ侵攻に踏み切ったのか、ウクライナ後の欧州の安全保障と欧ロ関係はどうなっていくのか、日本にはどのような影響が出るのかなどについて、広瀬氏とジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。

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    今週の論点
    ・NATOの“自分探し”はウクライナ戦争で果たされたか 
    ・ロシアを刺激するアメリカのネオコン
    ・プーチンの大ロシア主義的発想と、ヨーロッパ・アメリカの温度差
    ・日本はこれを奇貨として対米追従を改められるか
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    ■NATOの“自分探し”はウクライナ戦争で果たされたか

    神保: 今回はヨーロッパの安全保障について、きちんと話をしようと考えて番組を企画しました。ゲストは防衛大学校教授広瀬佳一さんです。広瀬先生は多くの本を書かれていますが、今回は『現代ヨーロッパの安全保障 ポスト2014:パワーバランスの構図を読む』という本が非常に役立ちました。マイダン革命、クリミア併合以降のヨーロッパの安全保障について書かれており、しかしNATOの拡大などについては1990年代に遡って変遷も押さえられています。執筆後のウクライナ侵攻により、その内容はどれくらい古くなってしまいましたか。

    広瀬: もちろん今の戦争自体に触れてないという点では少しマイナスですが、この本のテーマとして、2014年がひとつのターニングポイントなのではと。要するに2014年のロシアの動きの結果、今回の戦争が起きたのだと解釈すれば、まだそれなりの意義があると自負してはいます。

    神保: なるほど。その時に起きたことが、構図としては今と共通している。 
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