マル激!メールマガジン
大沢真理氏:日本の次の総理を決める選挙でアベノミクス継承の是非を問わずにどうする
マル激!メールマガジン 2024年9月18日号
(発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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マル激トーク・オン・ディマンド (第1223回)
日本の次の総理を決める選挙でアベノミクス継承の是非を問わずにどうする
ゲスト:大沢真理氏(東京大学名誉教授)
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岸田首相の後継を決める自民党の総裁選が9月12日に告示され、27日の投開票に向けて選挙戦が始まった。15日間という異例の長い選挙期間が設けられ、その間9人の候補者が討論会や立会演説会などで盛んに政策論争を交わす設定になっているが、ここまでの政策には疑問を禁じ得ない。それは、誰もアベノミクスの検証の必要性を口にしないまま、それぞれに勝手な経済政策を主張しているからだ。
今の日本にとって最大の懸案事項は、世界の先進国で唯一30年間、まったくといっていいほど経済成長ができず、生産性の向上も実現できなかったために、日本の国際的な地位がつるべ落としのように低下していることだ。しかも、最新の政府調査では生活が苦しいと感じている人の割合が半数を超えている。自民党はこの先もアベノミクス路線、すなわち新自由主義路線を継続するのか、それとも岸田首相が提唱はしたものの結局実現できなかった再分配路線に舵を切るのかは、この先の日本の針路を占う上でも最も重要な選択肢になるはずだ。
今年7月に公表された最新の国民生活基礎調査では、「生活が苦しい」と答える人の割合が59.6%に上った。国民の生活苦の原因は、賃金が上がらないことと物価の上昇が止まらないことだ。この30年間、アベノミクスによる円安のおかげで大企業は空前の利益を記録してきたが、その果実の大半は株主配当や内部留保に消え、労働者には還元されずに来た。しかも、その間も非正規雇用の割合が増え続けたため、実質賃金は低下し続けてきた。
東京大学名誉教授の大沢真理氏は、2016年以降の実質賃金の低下は消費税増税や円安の影響で物価が上がったことによるものだが、デフレだった2016年くらいまで、本来は上がるはずの実質賃金が下がってきたのは、雇用が非正規化したことが大きいと指摘する。ここ数年はアベノミクスによる円安で、輸入に頼っている食料品やエネルギーの価格はますます高騰し、国民の6割もが生活困窮を訴える状況になった。
そもそもアベノミクスとは「大胆な金融政策・機動的な財政政策・民間投資を喚起する成長戦略」の3本の矢から成るものだと喧伝されてきた。しかし大沢氏はこのスローガンには偽りがあると指摘する。
大沢氏の考えるアベノミクスの正体とは、雇用の非正規化の拡大や消費税増税、円安によるインフレで賃金を低下させた一方で、国民負担の逆進性を強める低所得層や中間層に対する「負担増と給付減」、とりわけ社会保障費の給付減に力点が置かれていた。
第二次安倍内閣の最初の骨太の方針にある、「健康長寿、生涯現役、頑張る者が報われる社会の構築」、「社会保障に過度に依存しなくて済む社会」とは、「病気になるな」、「要介護になるな」、「頑張らない者は見捨てる」と宣言したものだったと大沢氏は言う。そして、実際に安倍政権はそれをことごとく実現した。
第一の標的に上がったのが、セーフティネットの中でも最後の砦ともいうべき生活保護だった。安倍政権は「生活保護費の1割削減」をスローガンに掲げ、生活保護の受給の手助けをする市民団体には警察の捜査を入れてまで、生活保護の削減に取り組んだ。
地域保健体制の脆弱化の加速もアベノミクスの一環で推進された。コロナ禍で日本のPCR検査数が一向に増えないことが度々問題視されたが、これは地域衛生研究所の職員数が削減される中で起きるべくして起きたことだった。
そうした中で、日本の中間層は没落し生活困窮者が急増した。
そうした国民生活の現状に目を向け、これまでの「アベノミクス」路線を継承するのか修正するのか、修正するとすればどのように修正するのかが、自民党の総裁選で最も先に問われるべきことではないか。小泉構造改革に始まりアベノミクスでとどめを刺した感のある新自由主義的な切り捨て経済政策が、失われた30年の間に日本に何をもたらしたのか、それをふまえて日本は今どのような選択をするべきなのかなどについて、東京大学名誉教授の大沢真理氏と、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。
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今週の論点
・政治改革を謳えば国会議員票が逃げる自民党総裁選のからくり
・総裁選のもう1つの争点としてのアベノミクス継承の是非
・アベノミクスは日本社会をどう変えたか
・格差を是正する政策を打ち出している候補は誰か
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■ 政治改革を謳えば国会議員票が逃げる自民党総裁選のからくり
神保: 9月12日に自民党の総裁選が始まり、候補者が9人もいて色々なテレビなどに出ています。岸田さんの思いとしては、自分では選挙に勝てないので引きずり降ろされる前に辞めるということもあるのですが、自分が何かをしようとしても自由にすることができないという長老支配のような三頭政治に嫌気がさしていました。
特に政治資金規正法に関しては国民の期待値と党内の期待値が180度違い、国民から見れば0点のようなことしかできていなくても党内ではやりすぎだと言われました。自分から率先して派閥を解消することで派閥の勢いを削ごうとしたというところまでは良いのですが、それによって派閥をベースとしないもう1人の実力者である菅義偉さんの力がものすごく強くなってしまいました。派閥として動くと怒られるのですが、派閥にいない人を束ねること自体には問題ありません。
今回のメンバーを紹介しますが、まず菅さんが本命として小泉進次郎を推しています。国民的人気があるので本命として使いたいということですが、決選投票に持ち込みその時に他の候補についた票をコントロールできれば勝つことができます。今は石破さんが党員の支持を二分していますが、ここにきてトーンダウンしていることに僕は若干いらいらしていて、改革的なことを言いすぎると彼を支援している20人の推薦人や彼についていっている人がうるさいんです。
ただ、トーンダウンはしているのですが、石破さん、小泉さん、高市早苗さんでトップ3はだいたい決まっています。
上川陽子さんはなかなか20人にいかなかったところで菅さんが人を出してあげたので、菅さんの息がかかっている候補だと言えると思います。加藤勝信さんもまったく同じ立場です。小林鷹之さんには事実上甘利さんがついています。林芳正さんはほとんどの推薦人が宏池会で、宏池会の正規候補として出ている状態です。したがって菅さんや甘利さんといった実力者の息がかかっていない存在は石破さんと林さんくらいです。河野太郎さんは神奈川のよしみということで小泉さんにつく可能性が高く、林さんは決選投票で石破さんにつくかもしれません。
あとは全て小泉さんについています。すごいのは、小泉さんが老人ホームでおばあさんと談笑したり子どもと野球をする映像などをPR会社などを入れて撮ったりしている一方で、菅さんがポストなどをたくさんオファーしていることです。菅さんのところで政治家とのやり取りがあり、官僚も小泉政権ができる前提で進めています。しかしこれは事実上、小泉政権ではなく菅政権なんです。
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