マル激!メールマガジン 2025年10月29日号
(発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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マル激トーク・オン・ディマンド (第1281回)
最高裁判決で違法とされた生活保護の引き下げは国の責任で一刻も早い正常化を
ゲスト:小久保哲郎氏(弁護士、いのちのとりで裁判全国アクション事務局長)
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 生活保護基準の引き下げが最高裁で違法と判断されたにもかかわらず、政府が判決内容を誠実に履行しないために、今も各地の裁判所で訴訟が続いている。
 全国で提訴されていた生活保護基準引き下げを問う裁判で、最高裁は今年6月、基準引き下げにいたった厚生労働大臣の判断には裁量権の範囲の逸脱、または濫用があり、生活保護法に違反しているとして、生活保護基準引き下げ処分を取り消す判決を出した。
 この裁判は、2013年に行われた生活保護基準の改定で、これまでにない平均6.5%、最大で10%の削減という大幅な削減が行われ、多くの受給者が窮乏したことを受けて、全国で1,000人を超える原告が引き下げは違法として国を訴えていた。そのうち名古屋と大阪の訴訟が最高裁に上告され、今年6月、最高裁は生活保護基準引き下げ処分を取り消す判決を下していた。
 しかし、最高裁判決が出たにもかかわらず、違法状態は続いており、その後も同様の裁判が各地で続いている。名古屋地裁・金沢支部、名古屋高裁(三重訴訟)では原告側が勝訴しているほか、仙台高裁(青森訴訟)と東京高裁(金沢訴訟)でも今後判決が下される予定だ。
 2013年の生活保護基準引き下げは、第2次安倍政権発足直後に行われた。しかし、この時の引き下げは、厚生労働省が政権に忖度して恣意的に引き下げたものだった。その前年から生活保護バッシングが起こり、当時野党だった自民党は政権公約の1つに生活保護の給付水準の10%削減を挙げていた。
 これまで生活保護基準の変更は社会保障審議会生活保護基準部会の検証を踏まえて行われてきたが、このときは厚労省が独断で削減に踏み切った。生活に必要な食費、光熱費として支給される生活扶助費は、これまで消費水準をもとに決められており、物価を考慮したことはなかったが、このときは「デフレ調整」という名目で、リーマンショック前後の3年間の物価下落から算出された。
しかも、計算には総務省が出している一般的な消費者物価指数ではなく、厚労省が独自に計算した指数を用いており、テレビやパソコンの下落率を過大に評価するなど低所得世帯の消費実態とは合わない計算方法を用いたため、総務省の消費者物価指数の2倍以上の下落率となっていた。
 全国訴訟の事務局長で、日弁連で貧困問題対策に取り組む小久保哲郎弁護士は、当事者が声をあげられないことを見越して、もっとも弱い立場の人を標的にしていると憤る。引き下げを違法と断じられながら、官僚組織が原告側に謝罪もせずに司法を軽視した行動をとっていることは問題だと小久保氏は語る。
 確かに、憲法が保障する「健康で文化的な最低限度の生活を営む」ための最低保障ラインを決めるのは難しい。現在、厚労省は最高裁判決後の対応をどうするか専門委員会を開き検討をしているが、当初、訴訟に加わった原告たちへの対応はきわめて不誠実だったという。一方で、来年度以降の生活保護基準自体の検討も始まっており、一刻も早く事態を収拾して違法状態を解消する必要がある。
 生活保護基準は、さまざまな社会保障制度と連動する。数字合わせのような恣意的な基準変更では制度の信頼自体も問われる。小久保氏は、当事者にスティグマを与えるような生活保護という用語ではなく、海外の制度などにあるように生活保障という考え方に変えるべきだと主張する。
 生活困窮の当事者に寄り添い続けてきた小久保氏と、社会学者の宮台真司とジャーナリストの迫田朋子が議論した。

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今週の論点
・なぜ生活保護は引き下げられたのか
・生活保護の減額を違法と断じた最高裁判決の後も各地で続く訴訟
・受給者の実態
・「生活保護」から「生活保障」へ
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■ なぜ生活保護は引き下げられたのか
迫田: 10月21日(火)の午後3時を過ぎたところですが、先ほどの国会で高市早苗総理大臣が誕生しました。今晩に内閣が発足する予定ですが、片山さつきさんが財務大臣内定という報道もありました。先週のマル激は経済政策の話で、格差が広がらないようにという議論がありましたが、今日は社会保障について考えてみたいと思います。

宮台: まず国会には何の関心もありません。今のところ国会の議論を聞く限り、どの政党が与党になろうがなるまいが同じ穴のムジナで、基本的には財政がどんどんショートしていく中で、何を削り何に重点化すれば良いのかという枠組みの中でしか物を話さない人たちです。

迫田: 自民党と維新の連立政権ということにもなっていて、そういう意味では社会保障をウォッチしていかなければならないと思っています。今日は全国で提訴されていた生活保護基準引き下げを問う裁判について取り上げます。今年6月、厚生労働大臣が行ったことが法律違反であるという判断が出ましたが、その後の動きがぎくしゃくしていて、まだ全国で同じ裁判が続いているという変な事態になっています。
一体どうなっているのか、この先同じようなことが起こらないかどうか、司法・官僚・政権など、どこをウォッチすべきなのかといったことで、この問題を取り上げます。ゲストは、弁護士で全国訴訟の事務局長をされている小久保哲郎さんです。まずは新しい政権が誕生することについて何か感想はありますか。

小久保: これから協議をしていく対象なのでまだ決めつけるわけにはいきませんが、高市さんは安倍派と言われていて、今回の基準引き下げは第2次安倍政権が復帰した際に掲げた「生活保護費10%引き下げ」を強行したものです。かなり無理なことをやって最高裁で違法判決が確定したのに、ここに来て後継者とされる高市政権が誕生したということについては不安がありますが、しっかりと向き合って話をしたいと思っています。

迫田: 全国で行われていた、生活保護基準引き下げのおかしさを問う裁判で、今年6月には最高裁が違法と判断しました。最高裁の判決は、これは生活保護法に違反していて、また厚労省の裁量権の逸脱、濫用であるということで減額処分を取り消すように命じています。この裁判の結果をどのように受け止めていますか。

小久保: 生活保護の基準は本来、生活保護法に基づいて厚生労働大臣が設定すべきものですが、当時は自民党の公約に従う形でかなり無理なことが行われました。それを正せるのは司法しかなく、司法がその役割を果たしてくれるかどうかが問われていた裁判でした。裁判所がきちんと違法判断をしたという意味では司法がその役割を果たしたと言えますし、非常に嬉しかったです。

迫田: 安倍政権は民主党政権から政権を取り戻す際に多くの公約を掲げましたが、その中の1つに「生活保護基準の10%引き下げ」というものがありました。10%引き下げに合わせるような削減措置が行われた結果が今回の裁判で違法とされたものです。
2013年から2015年の間、全体で670億円が削減され、そのうち580億円分は「デフレ調整」とされていますが、そのデフレ調整のやり方が非常に恣意的で、厚労省は基準部会の検証を踏まえずに独自に物価下落を考慮して削減しました。90億円分については「ゆがみ調整」とされ、一応生活保護基準部会の基準を踏まえてはいるものの、なぜそのような金額になったのかが分かりません。その結果、平均6.5%、最大10%の削減となりました。

小久保: 生活保護基準は昭和58年から水準均衡方式で消費水準に基づいて決められてきました。物価を考慮したことは後にも先にも一切ないのですが、この時に初めて物価を考慮しました。その間デフレで物の値段が下がっていたので、同じ保護費でたくさんの物が買えただろうという理屈でデフレ調整を行ったのですが、その計算の仕方が非常に恣意的でした。

迫田: 最高裁では、厚労省の官僚がうまく数字を合わせるというような作業をしたという判定になったということですね。

小久保: 厚労省の数理職採用の西尾さんという課長補佐が計算したのですが、厚労省の新人を勧誘する雑誌や出身高校の同窓会報などで、「計算してあるべき姿に近づけていくことにやりがいがあった」というようなことを書いていて、数字合わせをしたということを自ら吐露している状況です。