マル激!メールマガジン 2015年12月1日号
(発行者:ビデオニュース・ドットコム http://www.videonews.com/ )
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マル激トーク・オン・ディマンド 第764回(2015年11月28日)
TPPで日本の農業は安楽死する
ゲスト:山下一仁氏(キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)
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TPPに反対する人たちの多くは、関税が引き下げられることによって日本の農業が壊滅的な打撃を受けることを懸念しているという。
しかし、かつて農水省の担当官としてGATTウルグアイラウンド交渉に関わり、農業貿易に詳しい山下一仁氏は、それはまったく杞憂で、TPPそのものは日本の農業にほとんど影響を与えないと言い切る。それは甘利明経済財政相をはじめとする日本政府の交渉官がうまく交渉を進めた結果と見ることもできるが、同時に山下氏はそのことで、日本の農業は絶好の改革の機会を逃してしまったと残念がる。
TPPは日本の農業にとって、世界と競争できる農業に脱皮するための千載一遇のチャンスだった。しかし、アメリカを含むTPPの交渉参加国は日本の複雑な農業保護の仕組みを十分に理解できていなかった可能性があると山下氏は言う。そのため、TPPの合意文書の文言を見る限り、一見関税の引き下げなどに同意しているように見えるが、実質的には日本の農業の保護体質、零細な兼業農家を保護することで競争力を落としている体質は温存されることになった。その結果、今後も日本の農業人口や農地面積は減り続け、このままでは日本の農業は安楽死の道を歩むことになるというのが、山下氏の指摘するところだ。
結局、自民党政権は来年に参院選を控え、JAを始めとする農業票離れが怖かったのだ。 TPPで僅かに市場開放が進んだ部分については税金を投入することで非効率な零細兼業農家が守られる。そして、現在の農産物の高い市場価格は維持される。その上にその「対策費」と称して、多額の税金が使われる。これでは市民は3重苦を負わされるだけだ。しかも、そのために日本の農家は衰退の一途を辿ることになり、究極的には国民の食料安全保障も脅かされることになるというのだから、4重苦と言っていい。
こうした問題への山下氏の処方箋は明快だ。まずは関税や障壁を取り払い、世界で戦える農業を目指す。それでもどうしても競争できず、影響を受ける分野に対しては、農業の特殊性に配慮し、政府の直接支払いによる所得補償を行う。そのことで、全体として農産物の価格は下がり、消費者も恩恵を受ける。
TPPで日本の農業はどう変わるのか、あるいは変わらないのか。日本の農業が抱える構造的な問題を解決するためにどうすればいいのかなどを、ゲストの山下一仁氏とともに、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。
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今週の論点
・日本農政の問題が温存される、TPP合意
・何を持って「100点満点」の交渉か
・消費者のメリットは一顧だにせず、集票を目的にした農政のビジョン
・ばら撒き農政が変わる、2つの希望
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■日本農政の問題が温存される、TPP合意
神保: 今回のテーマはTPPです。非常に広範囲に及ぶ交渉なので、全体でどうこうと言う前に、まずは個別に見ていきたい。とは言え、その上でもう少し大きな話として、自由貿易や規制緩和をどう考えるか、ということにも及んでいきたいと思います。11月5日にニュージーランド政府がTPPの合意文書を全文公表しました。英文で非常に長く、全体を把握するのに難儀しているところですが、いずれにしてもすべて情報が出てきたところで、まず取り上げたいのは「農業」です。
宮台: マル激でもいろいろな形で扱ってきました。故宇沢弘文先生をお招きした際には「社会的共通資本」という考えからTPPを考察しました。また別の回では日本のコメ生産のほとんどの部分はごく少数の農家がつくっていて、戸数でカウントするのは意味がないのだ、という話もやってきました。つまり「農家を保護する」というときに、誰を一体保護するのだという問題です。
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