マル激!メールマガジン 2015年12月9日号
(発行者:ビデオニュース・ドットコム http://www.videonews.com/ )
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マル激トーク・オン・ディマンド 第765回(2015年12月05日)
日本の国防政策は誰から何を守っているのか
ゲスト:田岡俊次氏(軍事ジャーナリスト)
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安保法制が成立したことで日本は従来の専守防衛政策から一歩踏み出し、世界地図の上でより大きな軍事的役割を担うこととなったとされる。
しかし、安保法制の国会の審議では、法案の中身やその合憲性をめぐる議論に長い時間が割かれたものの、そもそも日本の自衛隊に、そのような役割を担うだけの実力や装備が備わっているかどうかについては、ほとんど検証が行われてこなかったのではないか。
そこで今週のマル激では、日本の自衛隊の本当の実力と、現在進行中の「防衛計画の大綱」(大綱)「中期防衛力整備計画」(中期防)の下で進む自衛隊の武器や兵器の装備の実態を、軍事ジャーナリストの田岡俊次氏に聞いた。
安保法制を受けて、日本の自衛隊がこれまで以上の役割を担う能力を有しているかどうかについて田岡氏は、憲法の制約がある日本は攻撃的な兵器を持たないため、現実的には難しいとの見方を示す。現在、大綱や中期防の下で整備が進められている防衛装備の強化は、抑止力の向上を前面に掲げている。しかし、そもそも抑止力とは、相手に攻撃を思いとどまらせる能力のことだ。日本の自衛隊にそれだけの反撃能力が備わっていない以上、これは根本的に誤った発想だと田岡氏は言う。また、アメリカとより緊密な連携を図ることで、在日米軍が抑止力になってくれるとの希望的な考え方も、米中がますます緊密の度合いを強める中で、無人島をめぐる紛争で、核兵器を大量に持つ中国に対してアメリカが本気で軍事介入するなどということはありえないと田岡氏は言う。抑止力の強化と日米間のより緊密な連携、そして中国を意識した島嶼防衛能力の強化といった現在日本が進める防衛計画そのものが、かなりピンボケなものというのが田岡氏の評価だ。
田岡氏は1機で何百億円もする高価なおもちゃを揃えて悦に入る前に、日本はまず国防と安全保障についての基本的な議論をすべきだと主張する。いたずらに危機を煽れば、本来は存在しないはずの脅威が現実のものとなりかねない。「安全保障の要諦は敵を作らないこと」を前提に、日本の国防を考えるべきだと田岡氏は言う。
日本の自衛隊の実力と、目下、防衛予算を増額しながら安倍政権が進める最新式防衛装備の評価、そして日本の国防の真の課題などについて、ゲストの田岡俊次氏とともに、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。
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今週の論点
・対米関係においても、防衛力という意味でも意味のない国防政策
・日本に広まってしまった「抑止力」の間違った解釈
・報道に乗らない防衛の本質
・田岡流防衛政策と、アメリカの欺瞞
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■対米関係においても、防衛力という意味でも意味のない国防政策
神保: 安保法制の議論には時間を割いてきましたが、憲法との兼ね合いがあって大きな話になりがちでした。しかし、問題があろうがなかろうが、法律が通ってしまった以上、それを前提に予算が要求されるし、運用も始まる。僕などは忸怩たる思いがあるのですが、そこで問題点を指摘しても、その存在を受け入れているという前提の議論をしているかのようになってしまい、既成事実化に手を貸しているのではないか、という思いもあります。ただ、そうは言っても、防衛費は5兆円を超えるとされ、中身も見ていかなければいけない。宮台さん、本題に入る前に何かありますか。
宮台: 安保法制が通ったわけですが、結局、有事の際にイニシアチブがどこにあって、何をどこまでできて、できることによってどういう帰結が生じうるのかという分析をすることが非常に重要です。そういう意味で、今回の話はとても大事になってきます。
神保: ゲストをご紹介します。軍事ジャーナリストの田岡俊次さんです。田岡さんも、この既成事実化云々という議論には、言いたいことがあるようですが。
田岡: 「軍事問題を論じると認めたことになるのではないか」というお話でしたが、例えば原子力発電所の危険性を論じても、原発を認めたことにはなりませんね。安全や平和ということについても同じだと思います。軍事問題をきちんと詰めていくことは、安全や平和について考えることになるでしょう。