マル激!メールマガジン 2016年1月6日号
(発行者:ビデオニュース・ドットコム http://www.videonews.com/ )
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マル激トーク・オン・ディマンド 第769回(2016年1月2日)
2016年、われわれを待ちうけているもの
ゲスト:小幡績氏(慶應義塾大学大学院准教授)、萱野稔人氏(津田塾大学学芸学部教授)
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前年から引きずってきた難しい世界の情勢は、今年もますます難しくなりそうだ。
2016年最初のマル激はこの番組ではお馴染みの経済学者・小幡績氏と哲学者・萱野稔人氏を招き、今年1年、日本と世界がどこに向かっていくのかについて考えてみた。
今年2016年はオリンピック・イヤーであり、アメリカの大統領選挙の年でもある。今回の大統領選挙はオバマ大統領の2期8年の任期満了を受けての選挙となるため、新しい大統領が誕生する。そして、日本では5月に伊勢志摩サミットが、7月に参院選挙が予定される。政治的には非常に盛りだくさんの年だ。
世の中を大きく変えるチャンスの年となるはずだが、実際は重苦しい空気が拭い切れない。安倍政権が2017年4月の実行を公約した消費税増税の凍結を問う形でダブル選挙に打って出て、衆参両院で与党が大勝する可能性が高いからだ。それにもかかわらず、野党はいまだに足並みが揃わない。メディアは新聞が軽減税率という餌に食いついてしまったために、増税凍結を批判することが難しい。このままダブル選挙に突入すれば、野党協力もメディアのチェックもないところで、不戦勝に近い形で与党が大勝する可能性が極めて高い。
国外に目を転じると、経済面でも軍事面でもアメリカの影響力の凋落ぶりがより顕著になってきた。当面は中国の、そしていずれはそれにインドが加わる形で、世界の覇権の軸が大きく動き始めていることはもはや否定のしようがない。そうした中にあって、日本は今のところ、影響力が低下しているアメリカを軍事的・経済的に補完することで、中国と対峙し、国際社会における自らの地位を確保する外交路線を選択している。これについて萱野氏は、第二次大戦で日本は、ドイツが連合国に勝つと考え、ドイツ側に付いた結果、国民に大変な災禍を招くこととなったことを忘れてはならないと警鐘を鳴らす。
一方で、小幡氏は安倍政権はまた「GDP600兆円」や「1億総活躍」などの日本経済の強化策を打ち出すが、今のところ成長戦略に実効性のあるものは見られないため、2016年はアベノミクスの副作用が顕在化する年になる可能性が高いと指摘する。実質所得が増えていない大多数の国民の生活はより困難になっていると小幡氏は言う。
2016年、われわれの前に横たわる難問とそれを解決する手段、そこに辿り着く経路を、経済学者の小幡績氏、哲学者の萱野稔人氏とともに、神保哲生と宮台真司が議論した。
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今週の論点
・アメリカの覇権が低下し、バランス・オブ・パワーの時代に
・覇権の行方と、注視すべきロシアの動向
・安倍政権への警鐘になるのは唯一「株価が落ちて行き詰まる」こと
・社会がよくなければ人生は暗い、という発想を捨てる
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■アメリカの覇権が低下し、バランス・オブ・パワーの時代に
神保: 2016年最初のマル激ということで、今回は少し大きく、ロングレンジな話をしたいと考えています。ゲストをご紹介する前に、宮台さんから何かありますか。
宮台: 基本的に停滞局面で、先進各国では停滞にどう適応するのかということが非常に大事な時代です。柄谷行人さんが面白いことを言っていました。帝国主義的時代と自由主義的時代は絶えず交代しており、ちょうど帝国主義的時代にカントが出てきて、自由と恒久平和についての議論をした。しかし、同時代にそれが実現することはなくて、その後、覇権国家の出現により、つまりナポレオンがヨーロッパに覇権を広げることによって、初めてカント的な発想が展開した。これをヘーゲルは「理性の狡知」と呼んだ。しかし、それも覇権国家が衰退することによって長くは続かず、覇権を巡る争いが絶えない状態になる。そして実はそれが帝国主義の時代になるのだ、という議論です。その意味では、今は帝国主義的な時代なのだと。この見取り図は、非常に大掛かりな図としては面白い。
また見田宗介先生がずっと前から言っているのですが、どのような生物にも爆発的に個体数が増える時期があって、その後プラトー(一時的な停滞状態)のステージに入る。しかし、9割の種はこのプラトー段階にうまく適応できずに死滅するのです。そして、人類は明らかに第一期から爆発的増加の第二期を経て、現在は第三期のプラトーの時期に入っている。
柄谷さんが指摘する帝国主義と自由主義の循環という時間的なサーキュレーションとして考えられる部分と、見田先生が言うような時間的な軸で考えられる部分と、この両方で今を捉えると面白い。いずれにしても、僕らが若い頃に思っていたような、未来が明るいとか、天井知らずの成長であるとか、政府的な新しいステージがやってくるという意味での政治は永久にやってこないということです。