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第156号 2015.11.24発行

「小林よしのりライジング」
『ゴーマニズム宣言』『おぼっちゃまくん』『東大一直線』の漫画家・小林よしのりが、Webマガジンを通して新たな表現に挑戦します。
毎週、気になった時事問題を取り上げる「ゴーマニズム宣言」、『おぼっちゃまくん』の一場面にセリフを入れて一コマ漫画を完成してもらう読者参加の爆笑企画「しゃべらせてクリ!」、著名なる言論人の方々が出版なさった、きちんとした書籍を読みましょう!「御意見拝聴・よいしょでいこう!」、漫画家キャリア30年以上で描いてきた膨大な作品群を一作品ごと紹介する「よしりん漫画宝庫」、読者との「Q&Aコーナー」、作家・泉美木蘭さんが無限に想像をふくらませ、とことん自由に笑える「日本神話」の世界を語る「もくれんの『ザ・神様!』」等々、盛り沢山でお送りします。(毎週火曜日発行)

【今週のお知らせ】
※「ゴーマニズム宣言」…多数の死者・負傷者を出す大惨事となったパリの同時テロは、確かに痛ましい事件である。しかしテロ以降のフランスの反応は、9.11テロ以降のアメリカとまるでそっくりである。イスラム国拠点への空爆、アラブの混沌を招いた「サイクス=ピコ協定」、フランスの植民地政策、EU加盟、移民政策、政教分離、格差問題…テロの発生は必然だった。「テロリストを殲滅せよ」という善悪二元論では解決不可能であることを、いい加減学ぶべきである!
※「ザ・神様!」…妻オトタチバナヒメの死、哀しみを振り払うように、宿命を全うすべく戦いに没頭したヤマトタケルは、大偉業を成し遂げつつあった。蝦夷の地から西へと引き返し、向かうは尾張で待つ婚約者ミヤズヒメの元へ…。今宵、遂に二人は…!?
※よしりんが読者からの質問に直接回答「Q&Aコーナー」!「共謀罪」の復活や自民党草案「緊急事態法」はどう思う?フランスでは自爆テロリストを「kamikaze(キャミカーズ)」と言われているそうですが、「自爆テロ」と「特攻」は何が違う?車中では音楽は何を聴いている?好きな鍋の種類は?最近好きな芸能人は?…等々、よしりんの回答や如何に!?


【今週の目次】
1. ゴーマニズム宣言・第152回「パリ、同時多発テロの必然性」
2. しゃべらせてクリ!・第116回「びっくり仰天!すべらない『しょんなバナナ!』の巻〈前編〉」
3. もくれんの「ザ・神様!」・第69回「ヤマトタケル物語・その10」
4. Q&Aコーナー
5. 新刊案内&メディア情報(連載、インタビューなど)
6. 読者から寄せられた感想・ご要望など
7. 編集後記




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第152回「パリ、同時多発テロの必然性」

 129人の死者と352人の負傷者を出す大惨事となったパリの同時テロは、確かに痛ましい事件である。
「私」的感情としては世界の都市の中でパリは特に好きだ。パリで無差別テロとはまったく許せない。パリに対して贔屓する感情になってるものだから、テロリストたちに対して腹が立つ。
 だが、「私」的感情に囚われて、思考停止するわけにはいかない。
 テロ以降のフランスの反応は、アメリカ9.11テロの時とまるでそっくりである。
 オランド大統領は、ベルサイユ宮殿に上下両院の全議員を招くという異例の形式で演説し、「フランスは戦争状態にある」と宣言した。そして、シリアで「イスラム国」の拠点とされる場所に対し、連日の空爆を行っている。
 9・11の時、当時のブッシュ大統領が直ちにこれを「戦争行為」と述べ、「対テロ戦争」の名のもとにアフガン戦争、イラク戦争へ突き進んで行ったのと、まったく一緒だ。

 アメリカが始めた「対テロ戦争」の結果はどうなったか?
 世界は未だ9.11テロ以降の後始末をやらなければならない段階にあり、解決の見込みは一切ない。
 テロの根絶などできるわけもなく、むしろイラクのフセイン政権を崩壊させてしまったがために、その無秩序の中からイスラム国が生まれてしまい、テロは世界中に拡散してしまった。
 その結果として、今回はパリでテロが起きたのである。
 この経緯が頭に入っていれば、ここで「戦争」を宣言して空爆を強化するというのは、アメリカの失敗の轍を踏む最悪の選択だと容易にわかりそうなものだが、もはやフランスも冷静な判断ができない状態になっているらしい。
 フランスはイラク戦争に反対したが、あの時も、もし自国が直接テロの被害を受けていたら、大量破壊兵器があろうとなかろうと関係なく、アメリカを支持していたのだろうか?

 オランドは今回のテロについて「シリアで計画し、組織され、ベルギーで準備された」と述べた。
 首謀者とされる人物はモロッコ系ベルギー人で、実行犯はシリアへの渡航歴がある過激派のフランス人や、シリアからの難民を装って入国したと見られる人物など「多国籍」のグループだったという。
 これも9.11の時とまったく同じなのだが、グローバリズムで国境の壁が低くなって、人の行き来がしやすくなっているために、テロリストが容易に侵入することができるのだ。
 特にEU加盟国のうち22カ国とその他4カ国で形成するシェンゲン圏では、国境管理が廃止され、出入国審査なしで行き来できるようになっている。だからこそ、国際手配されていたテロリストでさえ楽々とベルギーからフランスに入国できたのだ。
 また、イスラム国のメンバーには、シリアやイラクなどの支配地域から各国に送り込まれ、普通に市民生活を送りながらテロの機会を待つ「スリーピング・セル(休眠細胞)」がいるという。
 彼らは難民に紛れたり、偽造パスポートを使ったりして入り込んでおり、その実態はまったく不明で、いつどこで次のテロが起こっても不思議はない。
 さらなるテロリストの侵入を防ぎ、国を守るためには、まずはグローバリズムの理念を疑わなければならない。国境の壁は、低くしてはいけないのだ。

 EUではこの事態を受け、国境管理の強化を検討し始めたが、それは圏内の国境を撤廃するというEUの理念そのものを否定するジレンマに直面することになる。
 国家は国境を守らなければいけないものだ。国を守るためには、国境の警備を強化し、移民を制限しなければならない……と、これならフランスの極右政党・国民戦線の党首マリーヌ・ルペンの主張が正しいことになってしまう。
 だが、本気で国を守ることを考えるなら、これを単に「極右」「排外主義」と片づけるわけにもいかない。これは「愛国主義」とも言えることになるわけだ。


 そもそも、フランスはアラブに怨まれて当然である。