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マクガイヤーチャンネル 第35号 【持衰と伊藤計劃とProjectitoh】
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マクガイヤーチャンネル 第35号 【持衰と伊藤計劃とProjectitoh】

2015-10-05 07:00

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    マクガイヤーチャンネル 第35号 2015/10/5
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    おはようございます。なんだか毎週放送しているような気がするマクガイヤーです。


    前回の放送「Projectitohと伊藤計劃」は如何だったでしょうか。

    会員限定放送はコチラ : http://www.nicovideo.jp/watch/1443799820

    朗読が長すぎた気もするのですが、最後にはしまさんに「読んでみたい!」と言わせることができて、満足です。皆も読んでみると良いよ。



    今月の放送のお知らせです。

    まず、10/8(木) 20時より、「最近のマクガイヤー10月号」と題しまして、最近面白かった映画や漫画について、久しぶりにまったりと一人喋りでお送りする予定です。

     『孤独のグルメ 第2巻』の違和感

    『GONIN サーガ』と石井隆と根津甚八

    『アルティメット・スパイダーマン(アニメ)』

    『ドラクエX』とトリクルダウンとピケティ

    『マッドマックス(ゲーム)』

    『バクマン。(映画)』

    等々について話すことになると思います。

     

    次に、10/24(土) 20時よりニコ生マクガイヤーゼミをお送りします。

    テーマは、いつもTwitterで応援してくれている桜庭銃太郎先生のリクエストに応えて

    「『食人族』と科学からみたカニバリズム」

    になります。

    映画『食人族』や、生物学と人類学の視点からみたカニバリズムについて語る予定です。

    『食人族』ブルーレイ発売や11/28に公開される『グリーン・インフェルノ』と合わせてお楽しみ下さい。



    その他に、今後、豪華ゲストをお呼びしての特番も企画中です。

    お楽しみに!




    さて、今回のメルマガですが、時間が足りなくて前回のニコ生でできなかった話を書こうかとおもいます。

     

    みなさんは「持衰」というものをご存知でしょうか?

    持衰というのは、古代――魏志倭人伝の時代、日本から中国に航海する時、航海の無事を祈るために禁欲生活を送る、一種の生贄やスケープゴートのような人のことです。

    魏志倭人伝の時代というと、だいたい三世紀から前ですね。この時代の航海技術は未発達であり、日本から中国に渡るのは命がけでした。どんなに努力しても運しだい、という面があったのです。

    だから、航海の無事を神様というかスピリチュアルでオーラの泉的ななにかにお願いする必要がありました。ただ、神様といっても他人ですので、無料で人間のお願いを聞いてくれるわけではありません。スピリチュアルでオーラの泉的ななにかも、人間の都合よく働いてくれるわけではありません。なにかを神様に差し出したり、工夫したりする必要があったのです。

     

    そこで用意されたのが持衰です。

    持衰に選ばれた男は、航海の間ずっと服を着替えず、体を洗いません。だから髪はぼさぼさで虱まみれ、服は垢まみれになります。また、肉を食わず、女性とも接触できません。勝手な想像ですが、童貞ならなおのことよかったのかもしれません。

    いずれも、「穢れ」の無い状態――生まれたままに近い状態で船に乗せるためなのですが、なぜ穢れの無い人間が必要なのでしょうか。これには二つの理由が考えられます。

    一つは、神様はできるだけ穢れの無い状態を好むからです。

    無事航海が達成できた場合、持衰には大金やご馳走などの褒美が与えられます。しかし、航海中に悪天候に遭うと持衰は殺されます。神様に持衰の命を捧げて、嵐や台風をおさめてもらうためです。

    もう一つは、穢れの無い持衰が船内に漂う穢れを吸い取ると考えられていたからです。もし嵐や台風に出遭ったら、持衰を殺して海に捨てれば船内の穢れは完全に無くなる――というわけですね。

     

    いずれにしても、持衰というのは安全な航海のために自分の命を差し出したり、穢れを引き受けたりする、職業としての生贄なわけです。この持衰は色んな人の中から選ばれるとか、持衰専門の一族がいたとか、色々な説があります。



    で、伊藤計劃ことはてなid:Projectitohは、はてなダイアリーの中で、自分はある種の持衰なのではないか、というエントリを書いています。

    以下引用。

     

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    エントリ URL : http://d.hatena.ne.jp/Projectitoh/20080810#p2

    某社某さんと打ち合わせをしたときに出た話。

     

    わたしが入院しているときに限って世間では大事が起こる。

     

    中学の時、正月に喘息で呼吸が止まり、ICUに入れられて、やっと退院したら街がやたら静かで、帰ってから前日に昭和天皇が崩御したことを知った。

    いまわたしが付き合っている病のそもそものはじまりのとき、大手術を終えて入院しているときに、世界貿易センタービルに旅客機が突っこんだ。

    わたしが薬を入れるために入院しているとき、いつのまにか安倍さんがやめていて、首相が福田さんになっていた。

    そしてこの前には、わたしが入院しているあいだに、秋葉原が大変なことになっていた。

     

    そこから某さんと出した結論は、

     

    おれはある種の持衰なのではないか

     

    ということだった。

     

    要するに、

     

    退院している間は世間の禍をたっぷり吸収するので、世界は平和である。

    その禍がたまって病になり、入院しておれ様の持衰としての機能が失われると、とたんに大事件が起こるのである。

     

    そこから何故か話は本格的な企画の話になり、現代に於いては、我々が目指している読み手である子供らは、それこそ持衰のように時代の禍を「引き受ける」ことしかできない、困難な世界に生きているのではないか、という至極まじめな話になり、いや、エヴァも実際には持衰の話だ、ガンダムと違って人柱的性格の強いエヴァは「持衰もの(新ジャンル)」である、使徒という正体不明で理不尽な禍を引き受ける持衰としてシンジはいるのである、という展開を見せ、果てはそんな子供たちに希望を与える小説として「持衰くん」が立ち上がり掛けている。要するに、決断主義がどうこう言われているけれど、決断がなければ抑も誰も死ななくて済んだとも言えるわけで、秋葉原の彼は決断してしまったわけだ、という話になり、現代の子供たちに語るべき物語は決断とか小さな共同体とかそういう大きな話ではなく、要するに「向き合う」方法であるべきなのではないか、という結論に達し、これでようやく「持衰くん」という物語を語る思想的準備が整ったわけだが、なんでここまでアホみたいなおれの病気ジンクスでシリアスにアホな方向で盛り上がれたのか、今以てそのテンションの出所は不明である。

     

    まあ、多分これもストレスから来る一時的な躁状態だと思われ。

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    当然、伊藤計劃はこれを冗談というか馬鹿話として書いているわけですが、伊藤計劃が亡くなった今となっては、複雑な思いを抱いています。

    番組でもお話しした通り、伊藤計劃がブレイクしたのは死んだ後からです。伊藤計劃の死は様々な形で利用されました。

     

    たとえば、大森望は「伊藤計劃以後」というプロレス的なアングルをSF界に持ち込みました。「伊藤計劃の死を利用していると言われても構わない(何故なら、忘れ去られるよりましだから)」と本人は語っています。 

     
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