藤のよう『せんせいのお人形』が面白い。12月に入ってから発見した今年のベスト候補。未読の人にはぜひ読んでほしい珠玉の作品です。
タイトルからおおよそ予想できると思いますが、ある男性がそれまでネグレクト虐待を受けていた少女をひき取って育てるお話。
わりあい平凡でありふれた筋立てではあり、第一巻を読んだときは「悪くはないな」といった程度の評価だったのですが、物語が真価を発揮するのは第2巻からで、その後はいろいろな意味で素晴らしい展開が続きます。
いやあ、これはほんとに凄い。ぼくの心の琴線に触れまくり。ひさしぶりに「見つけた」という気がします。
それでは、どういうところが面白いのか? それは何といっても、長いあいだ大人から一切何も受け取らず、まともな教育を受けることもなく生きて来た女の子が、「学ぶ」ことの意味を見いだしていくそのプロセスにあるでしょう。
おどろくべきことに、彼女はだれかから教えられることなく、自分自身でその価値を見つけ出していくのです。それまで小学校の知識すらろくになかった子供が、しかし乾いたスポンジが水を吸い取るように知識を吸収していくさまはまさに圧巻。
ぼくのようなふつうに教育を受けた人間が、まさにそれゆえに気づかずにいる「学び」の価値を思い知らされる描写です。「学ぶ」ことが本来、どんなに楽しいか、面白いか。
多くの人にとってだれかから強制されることでその価値を減じてしまっている「勉強」の意味が伝わって来る過程はほんとうに読ませます。それは彼女を拾った男をもおどろかせる「変身」、あるいは「羽化」なのです。
上記した通り、「男が女の子を拾って育てる」というテーマの作品は数多くあります。最近のライトノベルや漫画に限っても、『ひげを剃る。そして女子高生を拾う。』と『社畜と少女の1800日』といったタイトルがすぐに思い浮かぶところです。
可憐な少女を自分の手で育てるとか、まっさらな女の子を教育するということには、何かしら隠微な「ロマン」があるのでしょうね。
『せんせいのお人形』の場合、あきらかにオードリー・ヘップバーンが主演したクラシック映画の名作『マイ・フェア・レディ』を意識していると思います。さらにいうなら作中に話が出て来ることからもわかる通り、石像に恋をしたピグマリオンの神話が下敷きになっているのでしょう。
ピグマリオン神話とは、こういう話。