うみねこのなく頃に散 〜真実と幻想の夜想曲〜(通常版)

 ひとにはそれぞれ好みがあります。あるひとにとって理想的な作品もべつのひとにとってそうではないのは自然のこと。もちろんぼくにも好みの偏りがあり、「こういう物語を読みたいなあ」という漠然とした思いもあります。

 で、きのうSkypeで話しあって気づいたのですが、ぼくは「男女が互角にやり合う群像劇」を読みたいという欲望があるらしい。

 いままでも「もう少し女性キャラクターが活躍する話を読みたいなあ」とは思っていたのですが、それだけなら、当然、いろいろあるんですよね。でも、ぼくの好みとは少しずれている。

 ぼくはやっぱり「複数の男性と女性が互角に入り乱れて戦ったり恋したり憎みあったりする物語」を読みたいのだと思う。

 こう書いてもまだ、あれがある、これがある、と思い浮かぶひとはいるでしょう。しかし、じっさい、ぼくの好みにぴったり合う作品は少ない。

 『Fate/Stay night』はなかなかいい線を行っていると思う。アーチャー、ランサー、バーサーカー、ギルガメッシュといった男性陣と、セイバー、キャスター、ライダーといった女性陣がほぼ対等に入り乱れて戦っている辺り、非常にぼく好み。

 しかし、あれはやっぱり衛宮士郎を主人公とした「少年の物語」なので、群像劇としては一定の枷が嵌まっている気はします。そこが惜しいですね。

 『Fate』には『Fate/Zero』という物語もあるわけですが、こちらはより男性中心の物語で、ほぼ紅一点のサーヴァントであるセイバーもあまり格好良くは活躍しません。

 いや、十分、活躍してはいるのですが、あの作品で印象に残るキャラクターといえば、やはりライダーことイスカンダルなのではないでしょうか。そこがまあ、不満といえば不満です。

 つまりまあ、完全な男性主人公の物語にぼくの好みを満足させるものを求めることには無理がある。それなら、女性向けではどうか。

 ぼくはそれほどくわしくないのですが、コバルト文庫などには女性主人公で、壮大な物語を展開した作品もあると聞きます。あるいはそういった作品ならぼくの欲望を満たしてくれるかもしれない。

 でも、どうだろう、女性向けの作品だと今度は男性キャラクターが、同性の目から見て弱い印象になってしまう気がするんですよね。

 もっとも、少女小説と呼ぶのが適正かどうかはわかりませんが、小野不由美『十二国記』はほぼぼくの要求をほぼ完全に満たしているように思います。

 けれど、あの作品にはなんというか「色気」がない。徹底的にストイックなので、ぼくはもう少し恋愛したり愛憎が絡んだりするほうが好みなのですよね。

 女性向けの作品でいうと、よしながふみの『大奥』などはどうか。悪くない。むしろ素晴らしく性差を相対化できているとは思うのですが、ぼくはふしぎとこの作品のキャラクターに親しみやすさという意味での魅力を感じません。

 これは相性が悪いとしかいいようがないかもしれない。ちょっとここらへんは要分析ですが、とにかく『大奥』に対しては「キャラクターの魅力」をあまり感じないのです(客観的にはよくできた造形だと思うのですが……)。

 そういうふうに考えていくと、ぼくの欲求を満たす作品とは、男性向けでもなく、女性向けでもないということになりそうです。あるいは云いかえるなら男性向けでもあり、女性向けでもある、そういう作品を読みたいな、と思うのですね。

 たとえば『咲』なんかはかなりぼく好みです。でも、この作品にはほぼ女の子しか出て来ませんから、ぼくとしては物足りない。もっと老若男女が混じり合っている作品が好ましい。

 そういう意味では、『コードギアス』あたりはとても好きですね。この作品では男女がほぼ互角にやりあっているように見えるので、かなり理想に近いといえます。

 ただ、これもあくまで「ルルーシュという少年の物語」なので、その根幹を揺るがすキャラクターは排斥されることになる。

 ユフィことユーフェミアはそのキャラクターのひとりであったとぼくは考えていて、つまりはユフィが最後までルルーシュと互角に戦う『コードギアス』を見てみたいのです。

 田中芳樹や栗本薫の戦記もの、あるいはファンタジー小説はどうか。ぼくはこれらの作品のファンなのですが、やはりきわめて魅力的な男性陣と比べると、女性キャラクターが弱い気がします。

 ここらへんは時代的な限界かもしれません。たとえば『タイタニア』だと、四公爵のうちふたりくらい女性だと嬉しい感じ。

 『グイン・サーガ』なら、リンダとアムネリスとイリス(オクタヴィアではなく)が、それぞれ一国を背負ってナリスやイシュトヴァーンと戦いを繰りひろげてくれたらぼくとしてはとても満足だったと思います。ケイロニアの男装皇帝イリス! 非常に見てみたかった展開ですね。