毎度毎度同じような書き出しで恐縮ですが、雨隠ギド『終電にはかえします』を読みました。

 百合漫画です。ぼくはわりに百合ものが好きで、小説やら漫画やらいろいろ読んでいるのですが、あまりおもしろいと思うものには巡り会いません。しかし、これは良かった。

 何とも云えず、良かったですね。一読した後も、くり返しくり返し読み返し、楽しんでいます。数本の短編が収録された短篇集なのですが、どの話もそれぞれに魅力的でした。

 160ページほどの内容で720円というのは、少々高いようにも思えますが、まあ部数があまり出ていないのだろうから仕方ないのかなあ。とにかく個人的には値段に見合うだけの作品だったと捉えています。

 それでは、何がそれほど良かったのか? これはむずかしいところで、そうだな、何が良かったのだろう。

 収録作はいずれも云ってしまえば他愛ない話で、特別に壮大だったり、感動的だったりするわけではありません。たとえば萩尾望都の「半神」がすばらしいというのとは、わけが違います。しかし、それはそれとして、やはり染み入るような魅力があるのですね。

 百合ものは、たいてい物語そのものはそう壮大な話ではない。まあ、『魔法少女まどか☆マギカ』みたいに宇宙スケールに拡大してゆく場合もありますが、それは極端な例外で、ほとんどは主人公たちの関係性に主眼が置かれているのだけれど、この漫画はこの話はその関係性が良く描けていたということなのかもしれません。ちょっとよくわからない……。

 以前から語っていますが、ぼくは百合漫画のバラエティにちょっと不満があります。それぞれに趣向を凝らしていることには違いないのだけれど、それにしても、他愛ないラブロマンス、ないしラブコメディに偏っている気がしてならない。

 いや、そういうものだと割りきって楽しむものだということはわかっているのですが、もう少し、エンターテインメントとして波乱に富んだ物語も読んでみたいな、と。

 まあ、ぼくが知らないだけで、さまざまな作品があるのかもしれません。もしそうなら、教えてもらえれば読みますが、どうなんだろう。

 百合とは少し違う、むしろレズビアン小説と云うべきなのかもしれませんが、サラ・ウォーターズの『荊の城』などはすばらしい出来でしたね。あの水準のものをもっと読みたい。あれは『このミス』の首位を取ったりしているレベルなので、とてもむずかしいだろうとは思いますが――。