吸血鬼ハンター6 D―聖魔遍歴

 いま、Kindleストアで菊地秀行の『吸血鬼ハンター』シリーズが210円から250円という安価で売られている。先日まで『グイン・サーガ』がセールしていたが、今度は『吸血鬼ハンター』か。なんともなつかしい話である。

 ぼくは中高生の頃、このシリーズの熱狂的ファンだった。最近はいささか内容がマンネリ化したせいもあって読んでいないが、それでも大好きなシリーズであることに変わりはない。

 いまのライトノベルの源流にあたる作品であり、そして、そこらのライトノベルがまるで歯が立たないほど面白い物語である。嘘だと思われるなら、シリーズ初期の作品を、どれでもいい、一冊呼んでみるといいだろう。そこに、西暦12000年代の狂乱の世界を見いだすことができるだろう。

 個人的にはいいかげん完結させてほしいシリーズでもあるが、果たして大量の伏線が回収される日が来るのかどうかは定かではない。まあ、基本的には一冊単位で完結しているので、シリーズ全体の構成についてはあまり気にせず読むのがいいだろう。

 あるいはDの流浪の旅は作者が亡くなるそのときまで続くのかもしれず、あまり謎を考えても意味がないと思われる。

 物語の舞台は、西暦12000年代とも、それより先とも思われる超未来の地球である。この時代、世界を支配しているのは、人類ではなく「貴族」と呼ばれる吸血鬼たちだ。

 しかし、その貴族たちの支配もようやく終わりを告げようとしており、人類がふたたび惑星の覇権を取り戻そうとしている時代でもある。

 ただ、各地に貴族たちは生きのこっており、それぞれに強大な力を振るっている。そんななか、荒野がつづく「辺境」を旅しているのが凍てついた美貌と最強の力を持つ「吸血鬼ハンター」のDだ。

 かれの仕事は貴族を見つけ出して狩ること。しかし、D自身、そのひとならぬ美貌を見てわかる通り、どうやら貴族の血を引いているらしいのだ――というところから壮大な展開が幕をあける。

 菊地秀行作品らしく、基本的には「なんでもあり」の冒険活劇なのであるが、この作品をほかの作品と区別しているのはその悲劇性である。