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プロ3戦全勝でROAD to UFCの切符を勝ち取った“伝承者”中村倫也インタビュー(聞き手/ジャン斉藤)

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岡見勇信が語る世界に勝つ方法「中村倫也にGSPの姿が見えた」




――
6月から開幕するUFC契約を懸けたトーナメント「ROAD to UFC」の出場が発表されました。3戦でUFCの道が開けた実感のほどはいかがでしょうか。

中村 実感というか、ずっと戦いの中にいる感じで……結局ホントにいちばん上に到達するまでは気が休まるってことはないので。「次の試合が早くも始まったな」ぐらいです。

――
すべてはUFCに繋がっている、と。

中村
 はい。気が休まる感じはしないし、UFCチャンピオンになるのは大変だなと思いながら。こういったチャンスを逃して待つという立場ではないので。

――
アメリカのコンテンダーズだとワンマッチで査定するじゃないですか。今回はトーナメント形式なので長い戦いとなりますね。

中村
 でもまあ、みんな条件一緒なんで。トーナメントじゃなくても、ケガするタイミングによって、結局ベルトも取れないし。トーナメントの中で選手としてコンディション管理とか、総合力が試されると思うんですけど、そういうのは得意かなって。

――
そこはレスリングでの経験が活きてくるということですか。

中村
 レスリングもトーナメントですけど、1日でやっちゃうので。なんていうか、世界選手権に出るための日本選手権で勝って、日本選手権に出るための学生選手権で……という意味では結局はトーナメントなので。作り方は一緒かなっていう気もしてるんですよ。

――たしかにこういう企画がなくても、UFCを目指すために試合を重ねていきますもんね。

中村
 目に見えてはないけど、トーナメントみたいなもんなんで、結局一緒だなっていう感じです。今回はやりがいがあるというか。どう勝ち上がっていけばUFCにたどり着けるのかが、いまいち見えてなかった中で、3つ勝てばオッケーなのでやりやすいですね。

――『パウンドストーム』のカエタノ戦に勝てば「ROAD to UFC」に……という先を見据えていたところはあったんですか?

中村
 そういう考えはないまま戦いに臨んだというか。カエタノがコンテンダーズ出場が確実視されているという情報はあったんで。そのカエタノ選手に勝てば、少なくともUFCの目には止まるだろうなって思いはありましたね。でもまあ過度な期待をすると、もし決まらなかったときに沈んじゃうので……期待はしてなかったですね。

――
『パウンドストーム』には何人かの対戦候補がいたそうですけど、中村選手とはカエタノ戦でかまわないと。3戦目の中村選手とは相当キャリア差がありましたが……。

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中村
 キャリアの差ってなんなのかなってあらためて考えて。パンチを当てた感じの嗅覚というか、そこで畳みかけられるかどうか、スタミナの配分だったりだと思うんですけど。

――能力的に測れるものではないと。

中村
 そうですね。お互い目的が一緒な連中同士で潰し合うわけですから、呼吸や目線、表情を読み取りながら、どこを攻められればイヤなのかを考えてやるのはアマチュア競技も一緒なんで。そこをうまく活かせばキャリア差もあんまり感じないだろうなと思ってました。

――レスリングのキャリアも活かせるわけですね。

中村
 そのへんは高谷(裕之)さんやコーチといった先人たちの言葉を聞きながら、自分の中でうまく合わせてますね。たとえば頭の中のシミュレーションで勝った負けたを繰り返して。頭の中は無限に戦えるので。

――刃牙のvs巨大カマキリみたいです!(笑)。頭の中でイメージトレーニングを繰り返してるんですね。

中村
 そこは常日頃、いかに細かく意識して練習しなきゃいけないですけど。

――
現実で身体を動かせないと妄想で終わっちゃうということですね。

中村
 身体と心をしっかり運ぶってことは絶対に必要になってきますね。

――
LDH martial arts取締役でもある岡見(勇信)さんがいうには、今回のカエタノ戦はコンディションが相当よくなかったそうですね。

中村
 ケガもあって正直めちゃくちゃでしたね。練習もできなくて……でも、そういう状態でも戦えたので「ちゃんと作っていけばUFCのトップと戦えるんだろうな」と心の中で思ったので、試合後のマイクでそう言っちゃって。ボクはもともとビックマウスではないんですけど(笑)。

――「確信したことは絶対これでUFCのトップに立てるということです」というマイクですね。それぐらい手応えがあったと。

中村
 そうですね。それまではある種、洗脳されたというか、練習といえばガッチガチに身体を動かすことだと思い込んでいて。27年間、自分で自分にそう言い聞かせてやってきて。でも、コンディションの問題で身体が強制的に動けないってなったときに、いままでとは別方向のやり方もできると。自分の可能性にいろいろ気づけたなって。

――
ある意味、逆境の中に身を置いたからこそ、自分のいろんな可能性が試せたという。

中村
 逆境を受け入れたときに自分の新しい道が切り開けた気がしますね。

――
試合でいえば、唯一危なかったのはパンチでカットしたところですね。

中村 相手はリーチがあって変則的な打撃だったんで、ちょっと読みにくいなっていう事前の印象はあったんですけど。右の打撃を警戒してたんですけど、左もコンパクトにカウンターを打ってくると思わなくてビックリしましたが、そこもシミュレーションでもらった打撃なんで「俺、前ももらってるよ?」って(笑)。

――
頭の中で(笑)。

中村
 そういうケースを想定していたってことですね。

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――
逆にポジティブなイメージばっかりしてるとよくないってこともあるんですか?「俺、パンチをよけてるよ?」みたいな。

中村 もともとボクはポジティブなイメージをたくさん作ってくるタイプで。ネガティブなイメージを作ると、そっちに寄せられちゃうから。でも現実では起こることなので。頭の中でパンチもいっぱいもらっとこうと思って。

――
カットで止められる不安はありませんでした?

中村
 その心配はありましたね。ありましたけど、それを考えながら試合すると余計なことが1個増えるん
で。とりあえず考えないようにしようと。傷口をチェックされたときにドクターから「最後までできないかもね」みたいに言われて。

――
あ、けっこうギリギリだったんですね。

中村
 そうすると決着つけるしかないのかなと思ったんですけど。カエタノ選手はいままでのキャリアでTKO負けはなかったので、仕留めきるのは難しいかなと思って。それプラス相手が明らかに傷口をパンチで狙うだけの戦い方になって。もう1発もらったらホントに負けると思ったので、傷口に意識を置きながらの戦いになっちゃいました。それで思っていたより行けなかった、パフォーマンスを出しきれなかったっていう。

――中村選手がテイクダウンしたら、下から首を抱えてホールドしてきたじゃないですか。何か仕掛ける気配もなかったんですが、あれはどういう狙いだったと思われますか?

中村
 うーん、わかんないですけど……セコンドがポルトガル語で叫んでて、カエタノ選手が角度を変えてグッと締めてきたんですよ。それで極まる態勢ではないんですけど、締められることで血は出てくるので。そこを狙って動いてた感じですね。

――
要はドクターストップ狙いってことですね。

中村
 ヴァンフルーチョークを取りに行こうと思ったんですけど、力んだときに血が吹き出たんですよ。これはマズイと思ってヒジとヒザで崩していく方向にしましたね。

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――
流血を気にしながらも内容的には完勝でした。

中村
 なんとか、ですけど。やっぱりキャリアがあるって、こういうことなんだろうな……みたいなことはわかりました。さっきも言ったパンチが当たったときの嗅覚なんですかね。やっぱり効いたときはバレるんすよね。効いたか、効いてないかを読み取る力。目や呼吸、あと身体の軸のブレを見たり。

――
そこが一瞬で判断できる。

中村
 経験がないととぎ澄まされない。それがだんだんキャリアを重ねると行っていいとき、悪いときがわかってくるようになるのかな。そういうキャリアのある相手と、こういう神経戦を経験できたのはよかったです。

――
「ROAD to UFC」の前に外国人相手にフルラウンド戦えたのは、すごく貴重な経験ですね。

中村
 試合で打撃も初めてもらったというか。「どうなるかな……」と不安はあったんですけど、実際にもらって「あっ、大丈夫だ」と(笑)

――
打撃の耐性も確認できたと(笑)。3戦やってみて自分の強いところ、足りないところを確認できたと思うんですけど、足りないところはどこになりますか?

中村
 ボクシング、サブミッションともにゴールに向かって組み立てる力がまだ全然弱いなと。

――
中村選手のデビュー戦はハイキックでKO、2戦目は試合早々飛びヒザを仕掛けてきた相手をパンチで打ち落とし、そのままパウンドで勝ち。

中村
 フィニッシュしてますけど、その場の動きでしかない。そうじゃなくて、ちゃんと明確に組み立ててゴールに向かっていく力ですね。UFCのトップって、5ラウンドマッチでもめちゃくちゃ早いペースで試合するじゃないですか。それはゴールが明確だから、そこに向かって迷いなく全力で走れると思すよね。ボクの場合はまだまだそのイメージが弱いんで……。

――
ゴールまでの道のりを構築中ってことですね。

中村
 あと、どうにでも戦えそうだなって思っちゃってるが、ゆえに……

――
それもおそろしい話です!

中村
 ハハハハハハ。これってひとつ決めて戦い続けることをしないといけないなと。

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