多くのMMAファイターをマネジメントするシュウ・ヒラタ氏が北米MMAシーンを縦横無尽に語りまくるコーナー。(この記事は9月4日にニコ生配信されたものを編集したものです)


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LFAだけが「UFCの登竜門」なんかじゃない

・平本蓮とRIZINの契約、井上直樹vs瀧澤謙太、PFLとベアナックルは美味しい?



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今日は月に1度のお楽しみ、シュウ・ヒラタさんのマシンガントークということで、シュウさんを今月もよろしくお願いいたします。

シュウ よろしくお願いします!

――まずはなんといってもシュウさんがマネジメントする木下憂朔選手のダナ・ホワイト・コンテンダーシリーズ勝利、そしてUFCの契約ゲットおめでとうございます!

シュウ これは本当に木下選手が頑張った結果ですよね。コンテンダーシリーズに初めて日本人が出て、しかも勝って契約が取れたことは日本の格闘技界にとってすごく大きいと思うんですよ。木下選手本人も言ってたように、これから同じの道を目指そうという選手が出てくれればいいなと思ってるんですけども。

――このタイミングでコンテンダーシリーズに入れ込めたのは運もありますね。そこはシュウさんの交渉術も大きかったんでしょうけど。


シュウ 今シーズンのコンテンダーシリーズは10 週にわたって開催されますが、木下選手が試合をした大会には10人出て、そのうちの8人がアメリカ人じゃないんですよ。ロシアやブラジルの選手が出てる。コンテンダーシリーズは2~3年ぐらい前から国際化してたんですけど、UFCってヘタしたら選手の20パーセントぐらいがコンテンダーシリーズ上がりになってるんですよね。

――本戦契約はまれになっているわけですね。

シュウ たとえば14勝無敗とか、昔だったら本戦契約できた選手が普通にコンテンダーシリーズに出てるのが現実ですね。

――8週目のコンテンダーズ出場10選手のプロフィールを眺めていたら合計84勝7敗。10人でたったの7敗ですからねぇ。修羅の国入国前の修羅の門が厳しすぎますよ!

シュウ こういうと語弊があるかもしれませんが、ある意味で業界ナンバー2の実力を誇ってるのは、もしかしたらコンテンダーシリーズかもしれないですよね。1試合契約ですから、負けてもすぐにカムバックロードに繋がる試合を探すこともできますから、選手も契約的に出やすいんですよね。

――あとドラマ性も惹かれますよね。ローカルでは無双戦績の30歳前後の選手が人生を懸けて戦うわけですから。このチャンスを逃したら、もう……という。

シュウ 本来ならば10戦ぐらいの若い選手の発掘が目当ての企画だったじゃないですか。今回の木下選手が出た回には、32歳の選手がいて。ダナ・ホワイトが「32歳の選手なんて本当は探してないけど……」って前置きしながら契約した。若くない選手でもチャンスが与えられる舞台にもなってるわけですよね。完全なファームシステムであり、入団テストみたいなもんです。
 これは前にも言いましたが、コンテンダーシリーズは本戦と差を付けるんで、ホテルのグレードも悪くて、UFCエイペックスにあるオクタゴンも見せてもらえない。たとえば日本だと試合前にケージチェックやリングチェックがあるじゃないですか。

――UFCはメインクラスの選手が大会中に会場入りするからケージチェックはしないんですよね。

シュウ はい。でもコンテンダーシリーズは第1試合から全員集合して会場入りして控室で待機してますから、チェックさせてあげてもいいはずですよね。なにしろUFCのオクタゴンを初めて触るわけですから。でも、いきなり入って試合をやれってことなんですよ。で、オクタゴンのケージってじつは2つサイズがあるんですね。フルサイズケージとセミサイズケージ。試合をするエイペックスのケージはセミサイズになんです。だから木下選手からしたら「思ったよりちっちゃいな」と思うかもしれない。あとUFCのケージってそんなに高さはないんで「あれ、低いね」と思うんです。そういうところで変に慌ててほしくなかったから、試合1ヵ月前に撮影だけのためにラスベガスに呼ばれたときに延泊してもらって、UFC PIで練習してもらったんです。あそこにはフルサイズとセミサイズのケージが置いてあるから、ケージの感覚をつかんでもらいかったんです。

――そのへんの配慮もマネジメントの仕事なんですねぇ。

シュウ ただ自分で手配したこと自体を忘れちゃって、試合後に木下選手に「どうだった? 初めてケージに入ってみて?」なんて質問しちゃって「シュウさん、PIで入りましたよ」って言われたんですけど(笑)。

――KOじゃなきゃ契約できないかも……というプレッシャーはあったんですか?

シュウ いや、そんなことはないですよね。だって過去にはKOしても契約できなかった選手もいますし、負けても契約できた選手もいましたから。ダナやマッチメイカーのショーン・シェルビー、ミック・メイナードがよくに口にするのは「キラー」という言葉。UFCが求めたり、探してるのはキラーな選手なんですよ。

――キラーって何を指してるんですか? 

シュウ どういう意味かというと、工藤諒司選手がPFLで戦ったイギリスのブレンダン・ラウネーン選手がいます。彼はコンテンダーシリーズに出て勝ったんですけども、契約できなかったんです。それはなぜか。3ラウンド最後の1分を切った時点で、テイクダウンを仕掛けて安全策を取った。そこが評価されなかったんですよ。実際にあれがダメだってダナやショーンに言われてました。それがUFCの評価なんですよ。最後の30秒だったらテイクダウンにいかないで、最後の最後までフィニッシュを狙うか、アゴを引いて、おでこでパンチを受ける覚悟で打ち合わないといけないんですよ。それがキラーなんです。

――日本にもプロレス格闘用語に「殺し」という言葉があるんですけど(笑)。やるか、やられるかの緊張感って伝わりますよね。コンテンダーシリーズのレベルだと勝つだけでも大変ではありますけど……。

シュウ 木下選手も試合後に言ったんですけども「いままでやった選手の中でいちばん強かった。ぶっちゃけ少しナメいてた」と。過去の試合映像を見た感じだと、そんなに強く感じないし、打撃もちょっとヘタくそだなと思ったらしいんですけども。実際に戦ったら強い。
 木下選手はパンクラスのランキング1位で、もしかしたらチャンピオンになるかもしれない位置にいたわけですよね。その選手が「いままで一番強い相手だった」ということは、少なくともコンテンダーシリーズで契約を取れるかどうかのギリギリは、パンクラス、DEEP、修斗の中量級チャンピオンレベルなんですよ。

――正直、日本人ウェルター級であの選手に勝てる選手はそんなにいないですよねぇ。

シュウ そうですよね。ボクは勝ったときこそ選手に水を差すのが役目だと思ってるから、木下くんには「悪いけど、今日勝ったのは最低レベルの選手と思ったほうがいいよ」って伝えました。これからはもっと強い相手との試合がずっと続く。右も左も上も下も強豪ばかり。茨の道が始まるってことですから。だって次の対戦相手は木下くんのことをガンガン研究してくるんですよ。ということは弱点狙いに対抗しなくちゃいけない。たとえばバスケや野球の世界でも、毎シーズンごとに何かしら新しい武器を備えてくるじゃないですか。大谷翔平だって100マイルのシンカーを突然投げるわけですよ。

――あれは秘密兵器過ぎますけど(笑)。野球は毎シーズン微妙にフォームを変えるくらいですもんね。

シュウ MMAもそれだけ毎年進化してる。つまり木下選手も次の試合では新しい武器を備えなくちゃいけないんですよ。そうしないと相手がビックリしないじゃないですか。映像どおりだったらで戦いやすいですよね。たとえばテイクダウンの入り方ひとつにしても、パターンを増やさないといけないんですよ。

――今回の相手は青田買いというか、のびしろ込みでピックアップされた選手っぽいですもんね。

シュウ そうですね。これまではミドルでやってて今回ウェルターが初めての試合なわけですから。でも、20歳なんですよ。

――とても20歳の風貌には見えない(笑)。

シュウ 最近井上直樹くんにギャーギャー言ってるんですよ。彼はもう25歳ですからもう正念場だと。木下くんが21歳で、その対戦相手は20歳。若くて強い奴がどんどん出てくるんで、ボーッとしていたら取り残されちゃうよと。

――井上直樹選手のケガはどういう状況なんですか?

シュウ ヒザのケガが完璧に治るまでに時間がかかってまして。組みも含めたフル練習も「今月からできるかな?」みたいな感じですけども。そこからつくり直しを考えたら、年内に試合できるのかなとか思っちゃいまして。けど、それももしかしたら厳しいかも?という状況なんです。だから、ボクは焦りのメールを送ったわけですよ、直樹くんに。

――なぜか堀口恭司のRIZIN復帰戦の相手は井上直樹なんじゃないかっていう説が流れてまして。

シュウ ヘルシーだったら100パーセントやりますよ。UFC復帰を目指すためには最高の相手じゃないですか、堀口選手は。だけど、ボクがスコット・コーカーだったら、RIZINではやらせないですよね。

――アメリカン・トップチームもいきなりはやらせないですよね。そのへんのいろんな事情が絡み合っての金太郎戦だとは思うんですけど。

シュウ 大きなディールになる有名外人選手は呼べない状況だったら、相手は限られてるじゃないですか。ケガしてる選手もいるし。そうすると、けっこう妥当なのかなと思いますけど。もちろん戦績だけをたら、「なんでアイツなんだ」っていうファンの意見もわかりますけども。でも、それはRIZINにかぎらず、ONEの中量級もそうじゃないですか。選手の駒が少ないから、なかなか試合が組めないっていう事情もあるんですよね。

――話を戻すと、ダナは木下選手にかなり期待をするコメントを寄せていますね。

シュウ 厳しいことを言っちゃえば、ダナはあれくらいのリップサービスは毎週やってますからね。

――ホントに厳しい(笑)。

シュウ そうやって厳しいこと言っちゃいますよ、ボクは。

――たしかに今年のコンテンダーズ回の目玉はレスリングエリートのボー・ニッカルや、17歳のラウル・ロサス・ジュニアですよね。

シュウ そうやって目玉は他にいるんですよ。

――その木下選手は練習拠点をさっそくアメリカの移すんですよね。

シュウ 元サンフォードMMA、いまのキルクリフファイトクラブです。佐藤天選手がいるところですけども、試合前から移籍は決めてました。じつをいうと、木下選手はABEMAのMMA留学で決まってたんですよ。だからコンテンダーズがなくてもアメリカに来る予定だったんですけど。今回はUFCと契約できてビザもあるから完全移住できるんです。ビザの関係で途中で日本に帰ってくる必要はないんですよね。


――来年のコンテンダーシリーズに向けて日本人選手も目標ができましたね。

シュウ コンテンダーシリーズは毎年夏にやりますから、4月や5月ぐらいには出場が決まるわけです。そこまでにいい戦績を残していれば出場の可能性があるってことですよね。それプラス、PFLのチャレンジャーシリーズが来年の2月からある。ボクはそこを目指してもいいんじゃないかと思うんですね。MLBでいえばヤンキースに行けないんだったら、レッドソックスでもいいじゃんみたいな感じですよ。もったいないですよ、稼げる場所がいっぱいあるのに。UFCを目指してそれがダメだったら、ぶっちゃけ他の団体でチャンピオンになったほうがいいですよ。そこでいい戦績を残してUFCを狙ってもいいですし。ヤンキースに入れないからって、拘ってAAやAAAとはならないですよね?

――ファームにこだわる意味ないですね。

シュウ 日本でいえばMLBと契約できないからといって、社会人野球には行かないじゃないですか。でも、UFCにこだわりすぎてチャンスを逃している日本人選手はいますし……そこまで下げちゃダメだし、本当に気付いてほしいです。日本人に強い選手はいっぱいいると思うんですけど、そういう勘違いがホントにもったいないと思って。

――たとえばPFLでいえば、あまり実態をよく知らないから現実味がないんだと思いますね。

シュウ ボクのところにいろんな人からお叱りのDMがくるんだけども(笑)。たとえば「PFLなんかで小銭稼いでるよりはいいだろ」みたいな内容。「PFLが小銭って言える?」と思いますよね。

――優勝したら100万ドルだし、ファイトマネーもUFC並ですよ! UFC以外にもいろんな選択肢があるっていうことですよね。

シュウ そうなんですよ。ジャンさんとかマスコミの方にこういったら失礼かもしれないけど、日本人選手が出ない海外の大会は取り上げないじゃないですか。
だから、こちらの市場がすべて正確に伝わってないということですよね。

――PFLに関していえば、シュウさんの配信がいちばん詳しいし、熱がありますね(笑)。

シュウ いまの時代は翻訳機能も優れてるわけだし、調べようと思ったらなんでも調べられるじゃないですか。ジムのオーナーやコーチも調べればいいだけのことであって、マスコミばっかりのせいじゃないと思うんですよね。ボクはなるべく選手に1円でも多く稼いでほしいですから。そのためにはいろんなことを必死で調べますよね。

――次の話題です。RIZINがハワイで記者会見を開きまして、シュウさんがマネジメントする平本蓮選手がメイウェザーの通訳として大暴れしました(笑)。

シュウ ボクのところにも多くのファンから「何をやってるんだ!」「すごくかっこ悪い」とかDMでお叱りの声をいただいております(笑)。

――ガハハハハハハハハ!

シュウ 前にも言ったことありましたけど、マネジメントといってもボクは選手に好きなようにさせてるんですよね。

――団体との交渉や練習先の確保、試合の際に付添なんかはするけども。

シュウ この記者会見のくだりに関しても、初めはZOOMでRIZINさんとも話してて。最後の最後の細かいことは平本くんの好きなことやりゃあいいよって投げたんですよ。正直に言います。なんであの通訳がいまの世代の子に受けるのか、正直ボクはわかりません(笑)。

――ジェネレーションギャップ(笑)。 

・マネジメントから見た平本蓮セルフプロデュース
・神龍誠の今後
・ROAD toUFCのバンタム級トーナメントがシャッフルされたズンドコな理由
・アジアの○○でUFC開催へ?
・ニューヨークの平田樹と山本アーセン
・「朝倉未来選手のことは嫌いではないです」……などなど16000字の大ボリュームインタビューはまだまだ続く

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