『戦争とプロレス』を上梓したTAJIRIインタビュー!! 全日本プリレスを離脱した理由が見える!?(ジャン斉藤)

TAJIRI ありがとうございます。

――コロナや戦争が下敷きにあって、プロレスラーの旅行記なのに重厚な社会派作品で。

TAJIRI プロレスの本で社会派の本はあんまり受けないですよね(苦笑)。

――TAJIRIさんとしては社会派としてのゴールは考えていたんですか?

TAJIRI 自分の目の前に現れた興味のあることを書いていったら、こういう社会派になった……っていうだけで。この本、どうやったらもっとプロレスファンに伝わるんでしょうね。まだ暴露本みたいなほうが売れる傾向ってあるんでしょうかね、プロレス本って。

――TAJIRIさんの本はプロレスファンじゃない層でも読める本ですよね。旅行記としても面白いし、それでいていまの世界の情勢が知れる。そこに住んでる人の息遣いが伝わってくるっていうか。率直に思ったのは、TAJIRIさんは世界中を旅できて羨ましいなって(笑)。

TAJIRI ふと思ったんですけど、いまの若い子ってあんまり旅しないじゃないですか。旅自体に憧れてないのかなって。できたら外に出たくないっていう人のほうが多い。沢木耕太郎さんが『深夜特急』を書いたように、昔はみんな日本から出てみたかったじゃないですか。逆にいまは出たくない。

――ボクも2月ぐらいに取材を兼ねて東南アジア方面に行こうか調べたんですが、原油高騰のせいもあってサーチャージ代がめちゃくちゃ高くて断念したっていう。

TAJIRI いくらぐらいだったんですか。

――家族で3人でちょっとしたホテルで5泊7日の旅費だけで60~70万だから、なんだかんだ100万円は使うんじゃないかって。

TAJIRI 飛行機代は間違いなく上がってるんですよね。ホテルなんかはいくらでも安いところはあるんですけど……一昨日、シンガポールから帰ってきたばっかで。シンガポールでも物価がどんどん上がってるって言っていましたね。

――頻繁に海外に出ていることで、世界の情勢を感じたり考えたりすることも多くなりますよね。

TAJIRI コロナが明けてから海外のオファーが異様にあって。たったいまもタイからあったんです。昨日はオーストラリア。どこの国でもコロナ明けたら、みんな待ってましたとばかりにプロレスにお客が押しかけてるんですよ。逆に東京のプロレスって世界で一番寂しい感じがしますね、本当に。

――そう感じちゃいますか。

TAJIRI 後楽園に集客するのにあんなに苦戦してるのなんて、他の国から考えたらありえないですね。

――その理由って見えてますか?

TAJIRI ……言うとね、嫌われるんで(笑)。

――じゃあソフトに言うことも難しいですかね(笑)。

TAJIRI なんでしょうね……。ひとつは東京に住んでる人たちの特色も関係してるんじゃないかなって。なんか世界で一番ひねくれて見えるんですよねぇ。

――東京人はひねくれてる(笑)。ありとあらゆる娯楽が集中してるから、ちょっとやそっとでは喜ばなくなってるというか。

TAJIRI なんだろうなあ。全日本プロレスにはもっと客が来てほしいとこなんですけど、他団体はどうなんですかね。

――コロナ以降はどこもなかなか厳しいと思いますよ。全日本のレスラーってヘビー級が揃っててガツンガツンやってるイメージですけど、集客にはなかなか苦戦してる感じなんですね。

TAJIRI 一般論として、よくプロレスって、やたら身体がでかいことを売りにしてますけど、それって集客に関係あるんですかね。まったくないんじゃないかって気が最近してるんですけど。

――身体が大きくても迫力のないレスラーはいるってことですね。

TAJIRI だって後楽園の南側の真ん中へんから見たら、大きいもちっちゃいもあんまり関係ない。なら新日本になんであんな客が入ってんの?って話じゃないですか。でかい人なんかそこまでいないのに。

――東京の活気といえば、歓声禁止があるのかもしれないです。

TAJIRI ああ、それもありますよね。最近、後楽園ホールで試合するたび思うんですけど、あの後楽園ホールっていう空間自体がコロナもあって、くたびれ切ってる空気が漂ってる感じがするんですよ。

――それ、格闘技でも思うことがあります。客席を潰して入場ゲートを設置してたりして、後楽園ホールという会場の魅力が損なわれていて。後楽園である必要が……。

TAJIRI これ、何かで読んだんですけど、どっか幽霊の名所に最近、幽霊が出なくなったんですって。それがなんでかっていうと幽霊にも賞味期限や寿命があって、300年か800年か忘れたんですけど、時間が経つと幽霊も消えるらしくて。世の中に存在するものってなんでもあるんじゃないですか、賞味期限が。

――要は「あそこに幽霊がいるんだぜ」っておびえる側も、何十年も噂になってみんなが足を踏み入れたりすれば神話ではなくなるし、飽きがくるってことですよね。

TAJIRI そういうところがあるんじゃないですかね、もしかしたら。あとコロナ以降はどこの団体も苦戦してるじゃないですか。「今日も入んねえんだろうな」と思われるところって、やっぱりそうなっていくんじゃないですかね。だって人のつらい気持ちばっかりがたまっていくわけじゃないですか。

――運気ってやつですね。会場に行ったからには熱気があるものが見たいのがお客さんの心理ですから。行ってみて寂れてたら、また行こうかなっていうふうにはあんまり思わないですよね。

TAJIRI だって90 年代の後楽園なんか、どの団体を見たって楽しかったじゃないですか。ユニバーサルやW☆INGにしても。

――後楽園に行けば何か面白いものが見られるというワクワク感があったという。

TAJIRI ボクが博多の大学生だった頃、「後楽園ホール、いいなあ」って憧れがあったんですけど。いまも地方のファンにそう思われてるんですかね。

――年がら年中配信もあるし、プロレスに触れる機会が多いから幻想が……。コロナから徐々に回復していってるところもありますけど。

TAJIRI そうなんですよ、世の中から幻想がどんどんなくなっちゃって。面白くないなって思ってて。

――幻想の話に通じますけど、この本で面白い表現だなと思ったのは、「イギリスには何もない」が「アメリカには何もなかった」と。アメリカには何か探ってみたい幻想があるということですよね。

TAJIRI イギリスに何にもないのはもうわかりきってるんですよ。WWEの頃からイギリスはしんどいだけだったんです。アメリカとそんなに文化的に変わりはないし、何か建物の形がちょっと違うぐらいで、あんまり面白くない。

――建物の形がちょっと違うぐらい(笑)。

TAJIRI しかもいつも雨が降ってて。だけど、この本でも触れましたが、今回のイギリスは面白かったです。WWEのときは会場とホテルに行くだけだから一緒なんですよ。今回はいろんなところに寄ることで、いろんな国の姿をあらためて知ってるような感覚もあるんですよね。

――旅慣れてるTAJIRIさんでも、そういうもんなんですね。

TAJIRI WWEなんてパックツアーですから。空港に着いたらバスに乗ってください、ホテルに着きました、会場に着きました、ご飯もあります。自分で何もやらなくていいんですよ。

――この本の度は、自分勝手に自由に歩いてるから意外性があったということですね。

TAJIRI みんないろんな名所に連れていこうとするけど、行きたくないんですよ。
一昨日までいたシンガポールでもアンドリューってやつが人工物があるところにやたら連れていきたがって。「人工のすげえ滝があるんだけど」って、そんなもん見たくないわけですよ、こっちは(笑)。ゆっくりしていたいのに。

――WWEって海外だけが完全パックなんですね。

TAJIRI そうです、海外に行くときはですね。国内は自分で移動するわけですけど。

――国内のときは大変じゃなかったですか。

TAJIRI 大変だったと思うんですけど、当時は若かったんで。いまはもうとてもできないです。それこそロサンゼルスから6時間かけてニューヨークに着いて、車で2時間かけて会場行って試合して、終わったら自分で運転して帰るとか、そんなのばっかで。それを4日間連続でやったりするんですよ。

--めちゃくちゃ大変ですねぇ。団体で管理しようと思わないんですかね。

TAJIRI そこはアメリカの昔からの伝統なんでしょうね。バスでみんなで巡業するのは世界で日本だけですね、たぶん。それも相撲から来てるんですかね。一緒に行かないと来れない奴がいっぱいいそうですもんね(笑)。メキシコのCMLLなんかは、会場が辺ぴ過ぎてとても自力でたどり着けないようなときは会社がバスを出してましたね。

――この本でも4時間ぐらい車に押し込められて行かなきゃなんない辺境の地に着いたら、どこからともかくウルティモ・ドラゴン校長がひとりでさっそうと現れた描写がとにかくかっこよくて(笑)。

TAJIRI 浅井(嘉浩)さんはエレガントじゃないといけないと思うんですね。

――すごくわかります(笑)。

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