その頃ぼくは、秋葉原にあるインターネットやゲームのコンテンツを開発する会社にいた。就業時間は10時から19時までだったので、会社が終わった20時の待ち合わせにしてもらった。
会社の最寄り駅は、地下鉄銀座線の末広町だった。そこから、ダイヤモンド社のある原宿(明治神宮前)駅までは、末広町から表参道まで銀座線、そこから千代田線に乗り換えて1駅の、だいたい30分ほどだった。
だから、1時間もあれば十分到着する計算だった。しかし、当日会社を出るのが少し遅れてしまって、結局ダイヤモンド社には5分ほど遅れて到着した。
ダイヤモンド社に到着すると、正門は既に閉まっていたので裏門から入った。裏門の守衛さんのいるところで、用紙に訪問先と担当者名を記入すると、中へ入れてくれた。そこからエレベーターで3階まで上がると、降りたところにある内線電話表で、担当の加藤さんの番号を探した。
すると、ほどなくして見つかったので、ぼくはそこで内線電話をかけた。すると、加藤さんが出た。
そこで加藤さんがどう応対したのか、詳しくは覚えていない。しかし加藤さんは、気軽な調子で応対すると、「今行きますから待っていてください」と言った。
それでぼくは、「ここまで来たら、もう嘘ではないだろう」と思った。この時ようやく、この話が本当なのだということを確信できたのだった。
それから、加藤さんが現れた。加藤さんの第一印象は、あまり覚えていない。しかしながら、年齢がそう離れていないということで、ちょっとホッとした。年上なら、あれこれうるさく言われそうで嫌だったし、年下なら、こっちがなめてしまいそうでやっぱり嫌だった。
ここで正直に告白すると、ぼくは当時、編集者という人種を心の底から不信に思っていた。だから、たとえ運命のメールをくれた加藤さんとであっても、その関係は「厳しい戦い」になるであろうと覚悟していたのだ。