この映画を見ると、今と全く違う日本が見えてくる。同じところももちろんあるが、目につくのはどうしたって違いの方だ。この50年間で、日本は大きく変わった。
だから、今この映画を見ると、この50年で日本は、あるいは世界はどう変わったのかが見えてくる。その違いを比べると、この50年の世相の移ろいというものも見えてくる。
つまり、「秋刀魚の味」を見ることは、日本の近代史を概観することにつながるのだ。この映画を見て、歴史の変遷を知ることができるのである。
そこで今回は、この映画を通して見えてくる、「日本近代史」というものを見ていきたい。
この映画は、そもそもが、「時代の変化」というのがテーマの一つである。戦後17年、戦争が終わった後、日本は「戦後」という世界を体験する。それは、何もない焼け野原から、バラックなどを建てつつ、社会を、生活を再建していった日々のことだ。
今では忘れられているが、この「戦後」という日々も、日本人にとってはつらい時期だった。明日をも知れぬ日々の中で、さまざまな混乱と無秩序が押し寄せる中、不安と戦いながらも、それらを何とか整理して受け止め、とにかく今を懸命に生きる――それが「戦後」という時代だった。
その「戦後」というものが終わったのは、1950年代半ばのこととされている。戦後の混乱がひとまず収束して、人々が秩序だった生活を取り戻した。1956年に発表された経済白書では、戦後の復興が終了したことを表現した「もはや戦後ではない」という言葉が用いられ、これは当時の流行語にもなった。
つまり「戦争」の後には「戦後」という時代があって、しかもそれははっきりとした区切りを迎えて終了したのだ。それ以降、人々は、「ポスト戦後」つまり、戦後の後の時代を生きるようになったのである。
そうして今から半世紀前の1960年代は、まさに「ポスト戦後」のまっただ中にあった。そこにおいて特徴的だったのは、人々の生活や文化が大きく変化していったことだ。