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■はじめに■

 みな様こんばんは、期せずして岡田斗司夫、GACKTを倒した男となった兵頭新児です。まあ、一般的な視点からすれば「ブログ炎上」という現象に巻き込まれただけなのですが……。
 さて、今回は祝『第三世界の長井』単行本化。
 それを記念して、今回は「小説」です。
 去年の初め、旧ブログで『神聖モテモテ王国』という漫画について採り上げました
 これは今で言う「非モテ」問題に極めて鋭く切り込みつつも、いきなり連載が終了し早十年以上……という未完の大作です。
 本作にちりばめられている謎はいまだファンの語り草になる一方、あまりにも伏線が曖昧かつ多義に渡るため、定説めいたものはまだ出て来ていないようです。
 今回、その謎解きに、『モテモテ王国』最終回に挑戦してみました。
 言うまでもないことですが、今回の作は本来の『モモ王』ともながいけん閣下とも全く関係のない、兵頭新児による二次創作、「ぼくのかんがえた最終回」で、『ドラえもん』同人誌くらい、本編とは無関係であります。
 むろん当ブログのことですから「女災」問題に引きつけたストーリー展開になってはおりますが、恐らく作者であるながい閣下の中にあった構想も、これからそう遠く離れたものではなかったのでは……と想像しております。
 今回含め、三部作で『モモ王』の謎を解いていく予定ですが、原作をご存じない方は、以前の本作についてのエントリ(上の「採り上げました」からリンクしてるとこ)をお読みいただいた上でこちらに取りかかっていただくと、より楽しめるのではないかと思います。
 では、そういうことで……。

*     *     *

「フェミニストがモテる!」
 開口一番、ファーザーは叫んだ。
「まあ、そうだろうな。でもお前にはないじゃないか、ナオンを慮るような真心は。さっさとトンカツ食え」
 動じず、オンナスキーはたしなめた。
「えぇい、この非モテ論壇スキー! フェミニストとはナオン好きが自称するアレではないわ!」
「むしろナオン好きと定義づければ、お前は完全なフェミニストなんだが……」
「社会における伝統的な女性概念による束縛からの解放を唱え、女権獲得、女権拡張、男女同権を目指す、学問上の地位と国家中枢における地位を立派に確立したアレじゃよ!」
「田嶋先生とかか? でも、ああいうのもう古くないか? モテるとも思えないし」
「うるせーー! 男であるわしがナオンに媚びへつらって、学問や思想上の立場としてのフェミニズムに理解を示すところが進歩派インテリっぽくて、サブカル系ナオンにもうモッテモテよ!」

【フェミリカイザー登場】
あらまし:20XX年、心あるナオンたちはフェミニズム国家「にっぽん」を建国。それをよしとしない全世界の男との間に独立戦争、「ジェンダー大戦」が勃発した。フェミリカイザーはジェンダー大戦に投入された多目的機動歩兵であり、男性でありながらナオン差別の実態を理解する理解者なので社会のジェンダー規範を理解しジェンダーから解放されていたのでジェンダー大戦においてもナオン側について男どもを抹殺した。
 ジェンダー大戦に勝利し「謎の組織・男」を徹底的に殲滅。あらゆる富や資源を掌握し、労働からも解放されたナオンたち。
 フェミニズム国家「にっぽん」は、ナオンとフェミリカイザーだけによる理想国家、人類史上初のユートピア「神聖モテモテ王国」へと変わっていくはずであった――。
(事情があるのでこの辺でやめておく)

「既にモテモテ王国の趣旨が変わっているが……」
 いぶかるオンナスキーだが、ファーザーは構わずに言う。
「とにかくすぐに男殺しを敢行してフェミニストとして認めてもらうのじゃよ」
「フェミニストは男殺しを目的とはしてないと思うが……ナオンの気持ちを尊重する優しさをアピールするのはいいが、でも社会学とか、難しそうだしなあ……」
「フフフ……そこはキャプテンに仕込み済みよ……」
 ――キャプテンに?
 オンナスキーは思う。
 ――漫画家の時といい、モテモテ通貨の時といい、コイツどうもキャプテンとつるむことが多くなってないか?
 あいつ、どうもファーザーを自分のペースにはめる才能があるみたいだ……。
 戸惑いつつも、ファーザーと連れ立って、オンナスキーは町に出た。
 と、待ちあわせでもしていたのか、すぐに仲よく歌うキャプテンとヘビトカゲの背中が見つかった。
「「える~える~えるはらぶのえる~♪」」
 と、そこにタイミングよく、ナオンが通りかかる。
「やあ、ヘビトカゲ。ミソジニーってすごく悪いなあ……許せないぞ」
「わあ、トーマス様はすごくいい人ですタイ」
「ねえヘビトカゲ。ミソジニーとは女性嫌悪のことで女性嫌悪は女性差別だから許せないんだ。君たちの中にもミソジニっ子はいないかな? 友だち同士で注意しよう――そんなことよりそこのレディ、元気かい?」
 と、一通り小芝居が終わると、脈絡なくトーマスはナオンへと向き直る。
「え? あの……何ですか?」
 困惑するナオン。
「ぼくたちは自然とかレディを守るためうごめいているトーマス団さ。でもレディと自然とを同一視することはステロタイプなジェンダー観で差別なのでしておらず、それどころかレディが自立して働き、男に金を貢ぐライフスタイルに理解を示すいい団さ。やあ、レディがAVで稼いできてくれたギャラが楽しみだなあ」
「コイツ……最低だ!」
 トーマスへの嫌悪を隠さないオンナスキー。
「えぇ~~い! わしらがフェミニストぶりを発揮してモテる予定であったナオンを横取りしたから許せぬ!!」
 ファーザーが錯乱し、トーマスに殴りかかる。
「ミソジニーは悪じゃがナオン好きな男もミソジニーなのでやはり男が許せんのじゃよ~~!!」
 ドッ
 ファーザーのパンチがトーマスの腹部に決まる。
「フ、このような白人に負ける者はあんまりいねーのよ。さあ嬢ちゃん、わしはミソジナスな感情を一切抱いたことのない宇宙人ですが、どうしますか?」
 ドヤ顔でナオンへと向き直るファーザーだが……。
「当然逃げた」
 オンナスキーが言う。
「ぎゃわーー!! ミソジナスでないことにかけてはご近所でも評判なわしなのに~~~!!」
「お前がいかにナオン嫌悪の感情を抱いていなくても、まずほとんどのナオンがお前嫌悪の感情を抱いていると思うが」
 オンナスキーが言い捨てる。
「帰るぞ。晩飯を食おう、トンカツ」
 が。
 その時、オンナスキーとファーザーは、まさに今、ここを通りかかったメガネ男と鉢合わせた。
「ブタッキー……相変わらずモテてるぞ」
 オンナスキーの言葉通り、その男――ブタッキーは女子高生を二人連れていた。
「や……ヤツはブタッキー!! ミソジニーとモテの融合体!!」
 怒り狂うファーザー。
 ――ミソジニーとモテの融合体?
 ふとオンナスキーは思う。
 コイツの言うことなんて基本的に九割は聞き流しておくべきなのだが、しかし。
 でも、今の表現は一理ある。
「た……確かにブタッキーのヤツ、見る限り自分にまとわりつくナオンを疎ましがってる様子だが――」
 つい漏らしてしまったオンナスキーの言葉に、ファーザーが頷く。
「ふむう……しかりじゃよ! ブタはオタでありオタはその全員がミソジニーであるから、許せぬ。ブタッキー殺しの大義名分も得られて嬉しくなってくる」
「でもお前もオタネタばかりだし、少なくともアイツはナオンにモテてるじゃないか」
「えぇ~~い、うるせ~~~~!! 鍵信者の東君もオタはホモソーシャルでマッチョで許せぬとか言っておるのじゃからいいのじゃよ!!」
「バカ、やめろ!!」
 ブタッキーに殴りかかろうとするファーザーを、羽交い締めにして止めるオンナスキーだが……。
「やあ、レディたち」
 気絶していたトーマスが、いつの間にか息を吹き返していた。
「これはキャプテン」
 にやり、とほくそ笑み、ファーザーが彼へと耳打ちする。
「キャプテン、あそこにいるニキビ面こそミソジニーにもかかわらずナオンとよろしくやる許せぬ輩、ブタッキー」
「何だって、それは間違いなくミソジニーかい?」
「間違いないんじゃよ、ヤツはナオンに囲まれながら『ナオンなんかどうでもいい』という仏頂面を崩さぬのじゃよ」
「よし、なるほど、それはミソジニーでしかも非道く悪い」
「さっそくフェミニストとしての正義の怒りを表現してみせるのじゃよ」
「よぉぉ~~し、バトルパ~~ンチ!
 バトルパンチは、説得力のある必殺技である――が。
 よたよたとふらつきながらブタッキーへと殴りかかろうとするキャプテン。
「ちょっとあんた!」
「マー君に手を出すと許さないよ!」
 女子高生二人が、トーマスの前に立ちふさがり、その腹を鞄で一撃する。
「れ……レディたち……ほくそ笑んで……ごらん……?」
 ピシュー。
 今の一撃が効いたか、ファーザーのパンチが存外に効いていたか、トーマスは嘔吐した。
「な……何!?」
「もう最低っっ!!」
 逃げていく女子高生二人。
「ナオンも逃げた。さあ帰るぞ」
「ならん、護衛機二機を失った今こそがブタを抹殺するまたとない好機じゃよ!!」
「バカ、まだそんなこと言ってんのか!!」
 その時。
「あの、君たち」
 どういうわけか、ブタッキーがもめる二人へと話しかけてきた。
「君たち、よくこの辺にいるよね」
「あ? ああ、まあ……」
 戸惑いながらも、曖昧に頷くオンナスキー。
「あの……ずっと思ってたんだ、君たち、いつもなんか楽しそうで、いいなあって――」
 ブタッキーの言葉に、オンナスキーは驚きを隠せない。
「ええっ!?」
「おのれ! ナオンをパージして男同士の関係を重視しようとはホモソーシャルじゃよ! ホモソーシャルはナオン差別だと上野先生もおっしゃってるのじゃよ~~~!!」
「お前、少し黙ってろ」
「ミソジニってホモソーシャってなおかつナオンにモテるから許せぬ!!」
 しかしファーザーの暴言に気分を害するでもなく、ブタッキーは言う。
「あのさ……別に女なんていいじゃないか、いくらでもいるんだから」
 ぱりんッ。
 怒りのあまりか、ファーザーの赤色灯が割れる。
「ブタが許せぬ!!」
 が。
「ん? いとこさん?」
 ファーザーの口から思わぬ人の名前が出て来たことに、オンナスキーはあんぐりと口を開けた。
「ば……バカ、知佳さんがこんなところにいるか、彼女、普段は北海道だ!」
「うぉぉぉぉ~~~~~! ナオンに対して清純な下心を持つのみでミソジニーでもホモソーシャルでもないわし、参上じゃよ~~~!!」
 ドッ
 高速移動しようとするファーザーを、オンナスキーが殴り飛ばす。
 が、そんな二人へと、ブタッキーが思わぬ言葉を発した。
「知佳さん? 知佳さんに会いたいのなら、駅に行けばいいじゃないか」
 あんぐりと口を開けるオンナスキー。
「駅って……そりゃ、北海道に行こうと思えば電車に乗ることになるだろうが……いやそれよりあんた、知佳さんを知ってるのか?」
 しかしブタッキーは、ことなげに頷く。
「あぁ、言ったろ、女なんていくらでもいるって。駅に行けばわかるさ」
「いや、だから……着の身着のままで北海道にまでなんて行けないし、そもそも交通費だってないし……」
 戸惑うオンナスキーの言葉に、しかし今度はブタッキーの方がおかしな顔をした。
「北海道? 君の言う駅って何なんだ? そんなところへ行く駅があるのか?」
「な……っ! 何言ってんだ、そりゃ北海道へ直通の路線は通ってないけど……」
 しかしブタッキーは真顔で問うてくる。
「君さ……駅に行ったこと、ある?」
「う……」
 言葉につまるオンナスキー。
「駅」というものがこの世にあることは知っている。
 行ったことだってきっと、あるはず。
 でも、今の彼にはその記憶がなかった。
 最寄りの駅が町田駅だという知識はあるけれど、学校も病院も町内にあるし、今の生活では電車に乗る必要がなかった。
 昔、きっと駅を利用したことはあるはずだけれど、その記憶は、頭にはなかったのだ。
 記憶喪失がまだ治っていないのか、それとも――。
「ほら、行こう。知佳さんに会いたいんだろ?」
 ブタッキーは駅の方へと歩き出した。
「ま……待てブタ公! 貴様だけいとこさんと会うことは許せぬ!!」
 ファーザーも、その後を追っていく。
「あ、バカ、待て!」
 やむを得ず、オンナスキーもその後を追った。
 考えれば、以前もこんなことがあった。
 北海道にいるはずの知佳さんを、ファーザーが見たと言っていたことがあった。
 知佳さんは――何を隠しているのだろうか……?

 ……。
 …………。
 ………………。
 どこまでもどこまでも天高くそびえる塔を見上げ、オンナスキーは言葉を失っていた。
「どうして……こんな……そもそもこんなものがあったら側を通りかかった時に気づくはず……いや、アパートからだって見えるだろうに……」
 ――ブタッキーとファーザーを追って、「駅」にまでやって来たオンナスキー。
 彼の「知識」では、そこにはJRの町田駅があるはずだった。
 が、その「駅」に鉄道の路線は見当たらず、ただ「駅」の上空へと高い高い塔が伸びていた。
 しかしブタッキーには、そんな彼の様子こそが信じられないようであった。
「とにかく乗ればわかるよ」
「乗ればって……何に?」
「エレベータだろ」
 当たり前のように言い、ブタッキーは駅の構内に入る。
「あ……」
 それを追い、ファーザーとオンナスキーも構内に足を踏み入れ、そして――。
「あ……知佳……さん……?」
「どーーーですかいとこさ~~~ん!」
 改札の辺りに立っていたのは間違いなく知佳さんであった。
「あ……い、いっちゃん……久し振り……元気?」
 困ったような顔で、知佳が笑う。
「どうして……ここに?」
「えっとぉ……」
 知佳さんの焦りの表情。
「そ、それよりいっちゃんはどうしてここに?」
「え? それは……あいつに連れて来られて……」
 ブタッキーを指すオンナスキー。
 そこで知佳さんも初めてブタッキーの姿に気づき――。
「………………っっ!?」
 尋常じゃない、驚きの顔を見せる。
「そっか……来ちゃったのか……」
「? 俺はいつも来てるけど?」
 相も変わらず女性に対してはつっけんどんな態度のブタッキー。
「あれ? あなた、女の子たちは?」
 知佳さんの問いに、ブタッキーはファーザーを指差しながら、興味なさそうに返す。
「ん? 何かあの人が追っ払った」
「なるほど……アクシデントが重なったのね……光学迷彩を施してまで、いっちゃんたちには存在を隠していたのに……」
 頭を抱えながら何やらつぶやいていたが――。
「いえ、これはいい機会かも知れないわ」
 急に真顔になり、知佳さんはオンナスキーに向き直る。
「いっちゃん――モテモテ王国に、行きたい?」
「え……?」
 いとこから「モテモテ王国」という単語が発せられたことに、オンナスキーは言葉を失う。
「モテモテ王国って――あの、それはあいつの妄想内にある……」
 ぼーっとしているファーザーを指差すオンナスキーだが、知佳さんはゆっくりと首を横に振った。
「うぅん……あるのよ、モテモテ王国は――そしてこの軌道エレベータは、モテモテ王国行きの交通機関――」
「な……なんじゃってーーーー!? わしは闇を抜けてモテの国へ!? 夢が広がる無限の宇宙へ行くというのじゃろか!?」
「お前は少し黙ってろ」
 わけがわからなくなりながらも――オンナスキーは考える。
 確かに、町田にこんなSFめいた設備がある時点で、もう何があっても不思議じゃない。「モテモテ王国」が実在したっていいのかも知れない。
 しかし――。
 考えのまとまらないオンナスキー。
 しかしそんな彼の決意を促すかのように、知佳さんは言った。
「どうする? 本当はね、これは不測の事態。このエレベータは光学迷彩で隠されているし、秘密を知る彼――ブタッキーさんには女の子たちを監視役につけて、あなたたちに秘密を知らせないよう、計らってあった。それがアクシデントの重なったせいでこうなってしまったというわけ。だから、あなたに薬物処理を施して、この小一時間の記憶を消すという選択も考え得るわ。でも、私はもう、何もかもをあなたに話して、あなたの自主的な選択に委ねた方が――という気もしているの。どうする……?」
 オンナスキーは今一度眼前にそびえる高い高い塔を見上げて――そして、決意した――。