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■はじめに■
 
 第三回、最終回です。
 ここからご覧になった方は、第一回目からお読みになることを強く推奨します。
 兵頭新児による二次創作、「ぼくのかんがえた『モテモテ王国』最終回」です。
 これはあくまで一個人の「ぼくのかんがえた」であって、閣下ご本人とも小学館とも完全に無関係です。
 さて、それではそういうことで。
 
*     *     *

「――で、いっちゃん」
 知佳さんが、少し改まった様子で尋ねてくる。
「これから、どうする?」
「どうするも何も、ここまでいきなりいろいろと知らされて……」
 オンナスキーはいまだ「世界のからくり」、そして自らの出自を知った衝撃が醒めやらず、呆然となっていた。
「そうね……ごめんなさい、でもこれからあなたには判断をしてもらわなきゃいけないの。このままモテモテ王国に留まるか、地上へ戻るかを――」
「え……?」
 唐突に二択を迫られ、オンナスキーはあんぐりと口を開けた。
「モテモテ王国に留まれば、今のファーザーさんのようにようにモテモテになれる。ただし、ファーザーさんとは別れることになる。
 地上に戻れば、ファーザーさんや大王さんたちとの今まで通りの生活に戻る。ただ『デビル教団』の一員扱いになるので、もう『ナンパ』する対象の女の子たちは町に『配置』してもらえなくなり、男性ばかりでダラダラ過ごす日々になる――」
「デビル教団?」
 またわからない話になってきた。そりゃ、確かに大王たちはデビルと名乗っていたけど、それって……?
「大王さんもね、いっちゃんみたいな人だったの。トーマスさんのように女を獲物みたいに扱うことも、男を道具みたいに扱うこともよしとせず、女を獲得する戦いから降りた――」
 言われてみれば、大王は何だかナオンに興味がない。
 まるで小学生の子供みたいに、その行動は幼稚で無邪気だ。
「私は、使徒の人たちと遊んでいる大王さんの姿も、何だか楽しそうに見える。まるでいっちゃんとファーザーさんみたいで……」
 楽しそう。
 ブタッキーにも同じことを言われた。
「ぼくたちは……楽しそうなのか?」
 オンナスキーの自問に、ファーザーが乗っかる。
「しかり。自分では何もできないずっこけメガネを優しく善導するわしの姿に、腐女子たちはファー様萌えよ!」
「お前は黙ってろ」
 と、知佳さんが尋ねてくる。
「大王さんがいっちゃんのアパートにいるって知って、私が慌てたのに気づいてた?」
「え? え~~とぉ……」
 大王やファーザーを知佳さんの目から隠そうとそれだけに手いっぱいで、そこまでは気が回っていなかった。
「私たちの間ではね、大王さんってタブーだったんだ……プロジェクトを真っ向から否定して、使徒の人たちとただひたすら遊び続ける生活を選択したんだから――言ってみれば私たち女を、真っ向からふっちゃった憎らしい人」
 そう言って、知佳さんはまた寂しげな笑みになる。
「大王さんたちは実は、ジェンダー大戦を生き延びた、数名の男の赤ん坊の一人だったの。レプリカではない、最後の男性の一人。プロジェクト・ファーザーの前身、M2計画では、女たちの手によってそうした旧型男性を理想の男性に育て上げることが試みられたけど、それは失敗。旧型たちのリーダー格である『利通』は武力をもって『第三世界』と呼ばれる男性たちの中立的自治体を築き上げた。男の人たちは今も、そこで戦いを繰り広げているの。戦うべき相手もいないまま、宇宙人だの悪魔だのの役になりきって、戦争ごっこを続けているのよ」
「それが、デビル教団……だから、あいつらはあんなヘンな技術力を……?」
 ため息混じりに頷く知佳さん。
「それはファーザーさんも同じ。壊れたLSMである彼も、デビル教団の兵力の一部を奪取したりして、彼らにマークされていた。結局、女を放り出して、戦争ごっこに興じ続けているのよ――」
 しかしふと、オンナスキーは疑問に思う。
「でも、トーマスは……?」
 トーマスはデビルと関係が深いように見える。が、知佳さんの話では、トーマスも父親ロボット。ならば、彼らの敵のはずだ。
「トーマスさんは当初、使徒の一人としてデビル教団に紛れ込んでいたの。大王さんの気ままな行動を許容する代わり、監視として置いていたのよ。
 上層部も大王さんたちをいっちゃんから引き離したかったわけだし、大王さんを追い出し、ファーザーさんと入れ替わる隙を、うかがってもらっていたの。
 けど、私は見ていて思ったんだ、いっちゃんもファーザーさんも、大王さんたちの仲間になった方が幸福じゃないかって……。
 でもその独断専行は上層部の怒りを買い、逆にトーマスさんの活動を活発化させた――」
 なるほど、知佳さんが自分たちの同居を認めてしばらく後、トーマスはぼくたちの前に姿を現した――。
「でも、ここまで来たからにはいっちゃん自身が決めないと。ここへ残るか町田へ戻るか……」
「――って、いまだショックから立ち直っていないのに、そんな究極の二択を迫られたって……」
「わかってる……すぐに決めろとは言わないわ。しばらくここでゆっくりしていって。でも、真実を知った以上、いつまでも安穏としてはいられないということは、理解しておいて」

 知佳さんに釘を刺され、いったん、オンナスキーは広間を出て庭をぶらつくことにした。
 しかし……あいつが壊れたロボットだとして、ぼくがあいつと別れたとしたら、その後はどうなるんだ?
 考えあぐねるオンナスキーの下へ、ファーザーの声が聞こえてきた。
「ボケーッ!! わしは光あふるる快男児じゃよ!? モテモテ王国の王位の、唯一の正当後継者じゃよ~~~~!?」
「うるさい、早くこっちへ来い!!」
 ファーザーをナオンたちから引き剥がしているのは、警官たち。
 そう、町田に「配置」されていた警官と同様、モテモテ王国のナオンたちに使役される意志のないロボットだ。
 余計なことでもしたのか、それとも元々養育ロボットであるファーザーには本来モテモテ王国に足を踏み入れる資格がないからなのか、どうやら大広間から追い出されたらしい。
「こんなところでのたくっておったか、月面でも学ラン(オンナスキーのこと)」
 ひょこひょこと、ファーザーがこちらへ歩み寄ってくる。
「コイツ……」
 何も考えていないようにしか見えない、ファーザーの間抜け面を、オンナスキーは凝視した。
「ぼくがお前と出会った時、お前のことを父親だと思い込んだのは、元からそういう暗示をかけられていたからで、お前とは本来、縁もゆかりもなくて……」
「そそそそそそそんなことはないですよ? オンナスキーどん?」
「知佳さんが言うには、お前の中には過去の記録や理想の男性像、そしてモテるためのマニュアルがインプットされている。お前がズボンをはこうとしないのは、そうしたマニュアルに書かれている『女はまずやれ、そうすれば女はこちらに惚れる』との記述を間違った形で実行しているから。そしてお前が語るヘンな設定も、そうしたデータが混乱したまま、ランダムに出て来ているのだと――」
「ふむぅ、メタ展開がモテるのじゃよ?」

【仮面ファーザーディケイド(コンプリートフォーム)】

 仮面ファーザーはモテるために改造手術を受け怪人たちと戦うが他の仮面ファーザーと敵対するファーザー大戦の予知夢にうなされて並行世界を渡り歩いて毎回いろんなコスプレをする様がもうナオンにモッテモテで平成ファーザーはイケメン俳優の登竜門となったという。
 しかし最強モードはゴテゴテしているだけで大体カッコ悪いのでマニアには不評でこんなのライダーじゃないと言われ昭和組を毎回映画で噛ませ犬にしてマニアには叩かれ敏樹が料理ばかりのホンを書きマニアには不評でサブカル雑誌が勘違いな持ち上げ方をしてマニアには叩かれ(略)

【仮面ファーザーディケイドOP レッツゴーファーザーキック】

迫るGACKT イケメン俳優
ライダーマンになったはいいが 変身はしなかったので許せぬ
ナオンのニーズを満たすため
ゴーゴーレッツゴー マシンにほとんど乗らないので許せぬ
ファーザーキック ファーザーパンチ
オープニングでヒーローの名前が出ないので許せぬ
特訓もせずに新モード登場
最強形態は仮面ファーザーディケイドスーパーシルエットモードブレイザータイプインフィニティーヴァージョン(以下400字続く)

「ここが『モテモテ王国』の世界かにゃー。大体わかったんじゃよー」
 壊れたロボット――知佳さんはコイツのことを、そう形容した。
 やっぱりそうだ、本人は何にもわかっていないのだろう。
「おい、しっかりしろ! モテモテ王国に来てまでナンパをする必要はないだろ!?」
「通りすがりの宇宙人だから覚えておくといいんじゃよー。早くナオンたちにくすぐったいことをしてみたいにゃー」
 相変わらずのファーザーに、オンナスキーは失意する。
「ダメだ……やっぱりコイツは壊れたロボットなんだ――」
 もしもぼくが本物の人間であれば、町田に執着したかも知れない。例え両親は死んでしまっていても、そこにはぼくの生きた歴史があり、ぼくを知っている人も近くに住んでいるかも知れない……。
 でもぼくはレプリカ。人工的に作られた存在だったんだ。
 あの町はレプリカを養育するシミュレーションのための町。
 町を歩くナオンたちも警官たちもヤクザたちも、ぼくのようなレプリカや、ファーザーと同じロボット。言わばぼくたちを育てるためのプログラミングを施されたNPCだ。
 あそこにあるのは、壊れたロボットと共に暮らし、NPC同然のナオンたちに声をかけ続けたという、どうでもいい想い出ばかり。
 そんな町に、執心する理由なんてない。
「……いっちゃん、考えはまとまった?」
 気配を察してか、知佳さんが歩み寄ってくる。
「あの……ぼくが月に残ったとしたら、コイツは廃棄とかされないんですか?」
 そう言って、オンナスキーはファーザーを指差す。
「それは人道上、ちょっとね……LSMとは言っても、有機体である以上、微妙な存在だから。『本人の自主性を重んじる』というタテマエの下、町田の町に送り返して、そのまま放置、でしょうね……」
 それだけ聞いて、オンナスキーは決意を固めた。
「ファーザー……長らく世話になった」
「……………」
「ぼくはここに残る。お前はすぐ町田に、あのアパートに戻してもらえるそうだ」
「アパートと言えばトンカツですよ坊主。ふたりして早くおうちへ帰ってトンカツを食っちゃうですよ?」
「ここでお別れだ、ファーザー」
「トンカツを食ったらナオン狩りですよ、オニャノコスキー?」
「ぼくはもう深田一郎だ……お前はまた、別のオンナスキーを見つけてくれ」
 ――そうして深田一郎は、モテモテ王国に残った。

 ……。
 …………。
 ………………。
「うわー、ここがいっちゃんが育った町なんです?」
「育ったって言っても……ぼくには壊れた養育ロボットが宛がわれてたから……」
「へぇぇ~~じゃあいっちゃんにとって想い出の町ですね!」
「いや……だから壊れたロボットに育てられた、イヤな想い出の町だから……」
 数年後。
 ナオンたちを侍らせて、一郎は久し振りの帰郷を果たした。
 相も変わらずNPCの徘徊する、シミュレーションの町。しかしそれ故に、町並みは年数を経てもあの頃と寸分、変わってはいなかった。
「へぇぇ~~じゃあ懐かしいでしょうねえ!」
「いや……イヤな想い出は懐かしくなんかないから……」
「ふ~~ん。あ、おなか空かないです?」
「そうですね、何か美味しい店とか紹介してください!」
 そんな噛みあわない会話を続けていると。
 ふと、見知った陰が、向こうから歩いてきた。
「あなたは……」
 あれは……確かファーザーが怖れていたナオン。
「あんた……オンナスキーだっけ?」
 そう声をかけられ、一郎は戸惑う。
「そう呼ばれるのも久し振りです……あなたは……何て名前でしたっけ?」
「あいつには『レンガさん』って呼ばれてたな――いやゴメン、あんたがあの頃のマー君にそっくりだったから、何か懐かしくて」
 ――まるで家庭を持った父親のように、今の一郎は貫禄をつけ、そう、あの頃のブタッキーそっくりになっていた。
「そう……ですか。でも今となっては、あいつの気持ちもわかります」
「そっか……あいつもね、ここが好きでよく来ていたんだ。あんたたちの様子をこっそりうかがうのが楽しかったみたいでね……」
「そうか……だからあいつ、ぼくたちのことを『楽しそう』と……」
「あんた……『ホモソーシャル』って言葉、知ってる?」
 レンガさんがふと、尋ねてきた。
「え……? そう言えば別れる直前のファーザーが言っていたような、いなかったような――」
「そう……『ホモソーシャル』っていうのはね、男性を殲滅する直前くらいの時期に、フェミニストたちが言い出した言葉なんだ。男同士、ホモでもないのにホモみたいに連帯して、富や権力を独占している。だから、女たちにはそれが回ってこないんだ、けしからんって――」
「そんな……」
 どっちかと言えば同性同士でつるみたがるのはナオンの方じゃ……と言いかけて、レンガさんもナオンだと気づき、一郎は口をつぐむ。
 そしてレンガさんはふと、独白するかのように言った。
「女たちは男から全てを奪い尽くした。
 ジェンダー大戦に至って、その生命すらも奪い尽くした。
 ――でも、最後まで手に入れられなかったものがたった一つ残った」
「え……?」
「いや……きっとあんたも、マー君と同じになるよ。何度もお忍びで、この町に来るようになる」
「ははは……かも知れないです。でも、あなたは何故?」
「ん? あたしはレプリカのメンテに。一応、技術者だから」
「なるほど、あのNPCたちのボスみたいなものですもんね」
 ――そう、いつだったか錯乱したファーザーが「レンガさんはヤクザたちのボス」と言っていたが、それも満更でたらめではなかったのだ。
 しばし、昔話に花を咲かせる両者だったが――。

「ま……待つんじゃよ~~~! ナオンが好きな男君!!」
 びくりとなって、一郎は振り向いた。
 見れば……そこにはファーザーと、そしてその隣には見知らぬ男が――。
「あいつ……!!」
「ままままま待ちたまえオンナスキー様!!」
 ――足早に立ち去ろうとする見知らぬ少年を、ファーザーは「オンナスキー」と呼び、追いかけていた。
「そうか……相変わらずなんだ……」
 つぶやく一郎を、レンガさんがからかう。
「あはは、寂しそうじゃん、いっちゃん」
「ば……バカな! あいつも元気でよかったな、と思っただけです!!」
「そう? マー君もいっつも、寂しそうにしてたよ?」
 と、その時。
「うるさい、ボクはナンパしに来たんだ、何がナオン狩りだ!!」
 まとわりつくファーザーを足蹴にしながら、その二代目「オンナスキー」が言い捨てた。
 ―――――!!!
 その言葉に、衝撃を受ける一郎。
「あれ? ねぇ、どうしたのいっちゃん!?」
「ねえねえ、何かあったの!?」
 ナオンたちが騒ぐが――一郎の耳には入っていなかった。
 ――そうだ……なんで気づかなかったんだ……あいつは、ファーザーはいつも「ナオン狩り」をしていた。
 ぼくは「ナンパ」がしたかったのに、あいつは「ナオン狩り」だった。
 そしてその「ナオン狩り」の目的は――モテモテ王国の建国。
 そうだ……モテモテ王国に入国したぼくが、何故満たされなかったのか――ずっとわからなかった。
 でも、それは簡単なことだったんだ……。
「ナオン狩り」によるモテモテ王国の樹立。
 そもそもぼくの目的は、そんなことじゃなかったのだから。
「ナンパ」することでナオンと巡り会い、ぼくは――「恋愛」がしたかったんだ。でも、不特定多数のナオンに「モテモテ」になること、それは――恋愛ではない……。
「ままままま待ちたまえ女好き君!」
「コンビニで弁当を買って帰ってメシにするぞ!!」
 歩いて行く「オンナスキー」を追うファーザー。
「いや、コンビニ弁当はならんのじゃよ、トンカツじゃよ!」
「お前、いっつもそれだな……ボクは料理なんかできん!」
「待ちたまえ、我が国のトンカツ不足が深刻化しておるのじゃよ! トンカツは食われるためにこの世に存在しておるのじゃよ~~!!」
「あいつ――!!」
 絶句して、一郎はその場にくずおれる。
 そんな彼を残し、ファーザーと「オンナスキー」は仲よく(?)この場を立ち去っていった。
 恋愛がしたかったぼくと、モテモテ王国の建国がしたかったファーザー。
 そこが「草食系男子」とか「オタク」とか呼ばれる旧型に近いぼくと、できそこないとは言えDQNの再現を目的として作られたあいつとの間の、深くて暗い溝だったんだ――。

 ――かつて、少年たちは社会に出る前のモラトリアムの時期、仮宿に集い、青春を謳歌した。
『マカロニほうれん荘』から『めぞん一刻』に至るまで、昭和の一時期、そうした青春期を題材とした漫画が盛んに描かれた。
 青春時代の仮宿としての下宿住まい。そこにおける、おかしな同居人たちとの非日常的な毎日。
 しかし平成に入り、ぼくたちからは「就職」→「結婚」といったルートは喪われた。
 にもかかわらず青春期の終わりは非情にも訪れ……ぼくたちは何もかもを失って、社会へと放り出された。
 他の男たちとの連帯を捨て、他の男たちを敵に回して、女に貢ぐ道しか――。
 それが、「神聖モテモテ王国」。
 民主主義がその限界を露呈したある時期、人々が望んだ新しい政治体制――。
 大いなる千年王国。
 男なら誰もが夢見た愛と徳による絶対王制。
 しかし――それで本当にオンナスキーは、幸福になれたのだろうか……?
 だから、つまり、要するに、これは――「ジェンダー大戦」を経た後の、そんな「全てを喪った後」の、ぼくたちの物語、だったのだ――。