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【連載物語】『不思議堂【黒い猫】~阿吽~』 第二話第一章「レストラン龍宮」
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【連載物語】『不思議堂【黒い猫】~阿吽~』 第二話第一章「レストラン龍宮」

2022-02-06 18:20

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    第二話第一章「レストラン龍宮」

    著:古樹佳夜
    絵:花篠

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    ◆◆◆◆◆不思議堂◆◆◆◆◆

    その日も、吽野は不思議堂の文机に突っ伏していた。


    吽野「ああ、海の底の貝になりたい……」

    阿文「また始まった。そんなに仕事に詰まっているのか?」

    吽野「そうだよ〜。悪い?」

    阿文「悪いさ。毎回毎回、そんな暗い顔をしていたら、幸せが逃げていくぞ」

    吽野「作家の気持ちが阿文クンにわかるもんか!」

    阿文「はいはい」


    お茶を運んできた阿文は、文机に湯呑みを置いた。

    その湯飲みから、ずずっとお茶を啜り、吽野は唸る。


    吽野「あー海が見たい……。気晴らしがしたいんだよ〜」

    阿文「ふむ……じゃあ観光がてら、、海辺に行って、海鮮でもつつくか」


    阿文の思いつきに、吽野は目を煌めかせる。


    吽野「いいね!ちょうど原稿料も入ったところだし、たまには豪華なお刺身が食べたいなぁ」

    阿文「珍しい」


    今度は、阿文が目を見開いた。


    吽野「え? 何が?」

    阿文「出無精の先生が外出に前向きになるなんて」

    吽野 「行き詰まると遠出したくなるのは作家の習性だね」

    阿文 「編集者曰く、そういう作家は多いらしいな。みんな現実逃避が好きなのか」

    吽野「現実逃避をするから、いいものが生まれるんだ」

    阿文「もっともらしいこと言って。先生も売れっ子になってから大口を叩くんだな」

    吽野「ふん、余計なお世話だ。今回の食事代は、僕の原稿料だぞ」


    それもそうだな、と阿文は小さく頷く。

    これ以上の軽口を叩いて、吽野の機嫌を損ねてもいけないと思い直す。


    阿文「そうだな。じゃあ、先生の気が変わらないうちに、予約をとろうか」

    吽野「へー。もう目星の店でもあるの?」

    阿文「ああ。少し前から気になるとこがあってな。先生もきっと気に入るはずだ」


    阿文と吽野が出かけると察知して、猫のノワールが駆け寄ってきた。


    ノワール「にゃあ!」

    阿文「ノワール。お留守番になるが、美味しい魚の干物を買ってくる。許してくれるか……?」


    ノワールは少し阿文を一瞥し、仕方ないとでも言いたげに、


    ノワール「にゃあ!」


    と一声鳴いた。


    阿文「わかった。20匹だな」


    阿文の問いかけに、ノワールはそうだと頷いた。

    もう用は済んだと言わんばかりに、ノワールは踵を返して、

    不思議堂の奥に引っ込んだ。


    吽野「毛玉の言ってることがわかるの?」

    阿文「もちろんだ!」


    阿文は自信満々に言った。


    吽野「あ、そう……。まあ、いいや。阿文クン、予約の方よろしくねー」

    阿文「承知した」


    ◆◆◆◆◆海辺の街・夕方◆◆◆◆◆


    後日。昼過ぎには不思議堂を閉めて

    阿文と吽野はレストランに向かった。

    今日ばかりは吽野の足取りも軽い。

    これから待ち受けるご馳走のことを思えばと

    自然と笑みが溢れた。

    阿文に促されるまま、吽野は電車を乗り継ぎ、

    見知らぬ街を早足で歩く。


    吽野「ところでどんな店を予約したの? どんどん街の中心から離れてるけど」

    阿文「海辺に建っている洒落たレストランだ」

    吽野「ええ? てっきり日本料理の店かと思ってた」


    吽野は、子供のように口を尖らせる。

    海辺とは聞いていたが、予想よりも遠く、腹も減ってきていた。


    阿文「少し前、店を訪れたモガさんが教えてくれたオススメの店なんだ」

    吽野「モガ……ああ、あの外国かぶれね」


    吽野は、帽子を被ったパンツスタイルの女性を思い浮かべた。

    自分たちの着ている着物とは似ても似つかない、最新のスタイルだ。


    阿文「外国かぶれなんて、お客さんにひどい言い草だな」

    吽野「どんどん世の中が変わっていく。人の装いや流行も。日本らしさなんてお構いなし。なんだか忙しいなぁって思っただけさ」

    阿文「彼女に予約を取ってもらったんだ、感謝した方がいいぞ」


    口の悪い吽野に、阿文は苦言を呈した。

    そんなことは意に介さず、吽野は言葉を続けた。


    吽野「今から行く店って、そんなに予約が大変なの?」

    阿文「そうらしい。店主が一人で切り盛りしていて、客は一日に一組限定。だから、コネを使わないと予約自体が難しかった」

    吽野「へぇ……そうまでして、阿文クンがオススメする店か。どんな店だろう」

    阿文「楽しみにしていてくれ。メニューがかなり変わっているらしい」

    吽野「変わったメニュー? 海鮮なんでしょ……?」

    阿文「実は、人魚の肉を使った料理をふるまってくれると、噂なんだ」

    吽野「に、人魚だって!? 嘘でしょ?」

    阿文「さあ、真偽の程は、定かじゃない」

    吽野 「もしや、先日書庫で人魚の肉の話をしたから……」

    阿文 「ああ。きっかけこそ偶然だが、あの日から人魚の肉とはどんなものか興味が湧いてしまって」

    せっかく美味しいものを食べられると思っていたのに。

    そんな奇妙なもので喜ぶはずもない。

    吽野は思わず口をぱくぱくさせた。

    ところが、阿文は好奇心からに微笑んでさえいる。

    吽野とは対照的だ。

    吽野は呆れて、やれやれと深くため息をついた。

    完全に阿文のペースに巻き込まれてしまったようだ。


    そうこう話すうちに、空はすっかり暮れてしまった。

    気づけばどんどん市街地から遠ざかっている。

    あたりは暗く、潮騒と風の音がやけに耳に響く。

    海風は冷たく、吽野は身震いする。


    吽野「崖の上に灯りが見えるよ」

    阿文「あれがレストランだ」

    吽野「大きな洋館だね。あんな崖の上にポツンと一軒だけ……」


    吽野は足早に建物に近づいていく。


    吽野「看板が見える。えー……と」

    阿文「『レストラン・龍宮』」


    ついに、二人は建物の前に到着した。

    立派な木の扉に取り付けられた、

    小洒落た鉄のドアノッカーは、獅子の形をもしている。

    それを阿文は数回叩いた。

    少し間を置いて、木の扉が開く。

    二人を出迎えたのは、随分と背の低い男だった。


    【続】

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    ■『不思議堂【黒い猫】~阿吽~』 連載詳細について

    https://ch.nicovideo.jp/kuroineko/blomaga/ar2060929


    ■本作『阿吽』のご感想・ファンアートなどは 

    #あうんくろねこ をつけて

    ツイッターでツイートいただけますと幸いです。

    ■本章は、2022年2月放送

    浅沼晋太郎・土田玲央『不思議堂【黒い猫】』生放送の

    ch会員(ミステリにゃん)限定パート内にて、

    浅沼店主と土田店員が生朗読を行う予定です

    ぜひ、物語と一緒にお楽しみください

    (※朗読は、本章の全編ではない場合がございます)

    [本作に関する注意]------------------------------------------
    本作(テキスト・イラスト含む)の全部または一部を無断で
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    『不思議堂【黒い猫】』店舗通信
    更新頻度: 不定期
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