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【連載物語】不思議堂 黒い猫【阿吽】~ふたりの陰陽師編~ 第一話【黒の陰陽師】/後編
2023-09-18 12:17season2~ふたりの陰陽師編~第一話『黒の陰陽師』後編
著:古樹佳夜
絵:花篠
前編はこちらからお読みいただけます◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
吽野と阿文、そして満月は、
不思議堂の裏手にある暗い夜道を進んでいた。
月は南に向かって宙空に昇り、雨雲の隙間から上弦を覗かせている。
「あ〜あ。俺のネギマ……」
吽野はガックリと肩を落とした。歩きながら、飲み足りないとばかりに、
ブツクサと文句を垂れるのである。そんな相棒を、阿文は肘で小突いた。
「なんでもないならそれでいい。その時は、また店に戻って一杯やろう」
宥める満月に向かって、吽野は特大のため息を吐いた。
「ねえ、なんでそんなに急ぐのさ」
「別に急いじゃいない。お前こそ、さっさと歩けよ」
「んなこと言ったってぇ……」
上背のある満月の歩幅は大きい。投げやりにそぞろ歩くだけの吽野など、
すぐに置き去りにす -
【連載物語】不思議堂 黒い猫【阿吽】~ふたりの陰陽師編~ 第一話【黒の陰陽師】/前編
2023-07-13 21:30season2~ふたりの陰陽師編~第一話『黒の陰陽師』前編
著:古樹佳夜
絵:花篠
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梅雨明けを目前にひかえた六月の末。
肌にムシムシとした湿気を感じながら、
吽野と阿文は商店街を並んで歩いていた。
馴染みの赤提灯の店で、焼き鳥でも食べたいと、吽野が駄々を捏ねたからだ。
「いつまで経っても、先生は浪費癖が抜けないな」
「別にいいじゃん。今日は不思議堂の上がりもあったでしょ」
「売り上げは店の維持に使うんだ。店の老朽化も激しいし、やはり天井の雨漏りが――」
「わかったよ。じゃあ、今日はネギマだけにする」
阿文は特大のため息をついた。
「嘘ばかり。飲み出したらそれだけじゃきかないくせに」
「じゃあ、阿文クンも飲むといい。下戸じゃないでしょ」
阿文は吽野の背中を思わず叩いてやりたくなった。
とはいえ、この自堕落な相方を正すことは難しい。 -
【連載物語】不思議堂【黒い猫】~阿吽~/朗読短編【呪いのゲーム】
2023-06-20 22:27朗読短編『呪いのゲーム』
著:古樹佳夜
絵:花篠
本編生朗読のアーカイブは「令和5年5月記」でご覧いただけます!
吽野:浅沼晋太郎
阿文:土田玲央
チャーリー:浦和希
御宅:梅田修一朗
アーカイブ前半 https://www.nicovideo.jp/watch/so42235756
アーカイブ後半 https://www.nicovideo.jp/watch/so42236203
◆◆◆◆◆不思議堂◆◆◆◆◆
阿文 「ただいま〜」
吽野 「おおお〜〜! ちゃんと映ってんじゃん!」
阿文が買い物から帰ってくると、居間から吽野の声がした。
阿文 「どうした。何を騒いでいるんだ」
吽野 「じゃーん! 見てよ、これ!」
阿文 「これはまた……ずいぶん懐かしい。レトロなブラウン管テレビだな」
吽野 「ついに! 不思議堂にもテレビを導入してみたんだ」
吽野はテレビのリモコンを連打し、次々チャ -
【連載物語】不思議堂【黒い猫】~阿吽~/朗読短編【桜川】
2023-06-20 22:06朗読短編『桜川』
著:古樹佳夜
絵:花篠
本編生朗読のアーカイブは「令和5年4月記」でご覧いただけます!
吽野:浅沼晋太郎
阿文:土田玲央
少年:木島隆一
アーカイブ前半 https://www.nicovideo.jp/watch/so42132040
アーカイブ後半 https://www.nicovideo.jp/watch/so42132048
◆◆◆◆◆道・夕方◆◆◆◆◆
夕方、吽野と阿文は大きな袋を両手にぶら下げて、
不思議堂への帰路についていた。
吽野 「ぐぬぬ! 米、醤油、砂糖、塩……!」
阿文 「大丈夫か、先生」
吽野 「大丈夫なわけないだろ! 俺の細腕は万年筆しか持てないんだ!それなのに、なんだって、こんな、重いものばかり買い込んだの!一度に無くなったわけじゃないでしょうに!」
阿文 「先生が買い出しの誘いを何度も断るから、買う物が溜まって一気に買う羽目になる」
吽 -
【連載物語】不思議堂【黒い猫】~阿吽~/朗読短編【春の奇術師】
2023-05-04 20:51朗読短編『春の奇術師』
著:古樹佳夜
絵:花篠
本編生朗読のアーカイブは「令和5年3月記」でご覧いただけます!
吽野:浅沼晋太郎
阿文:土田玲央
奇術師・天蛙:河西健吾
アーカイブ前半 https://www.nicovideo.jp/watch/so41987185
アーカイブ後半 https://www.nicovideo.jp/watch/so41987200
◆◆◆◆◆居酒屋◆◆◆◆◆
吽野 「は〜〜! 美味しいお酒だねぇ、阿文クン!」
吽野は勢いよくジョッキを飲み干した。
宵の口、行きつけの居酒屋は活気付いている。
阿文 「どうした先生。もう酔っ払ったのか」
吽野 「ふふふ、いやー、それがさ〜」
珍しく上機嫌な吽野に阿文は目を光らせていた。
度を越して呑んでしまっては明日の原稿が上がらない恐れがある。
そんなことなど気にもとめずに、吽野は懐に手をつっこんだ。
吽野 「この金のカエ -
無料公開中【連載物語】『不思議堂【黒い猫】~阿吽~』第一話
2023-05-04 15:10著:古樹佳夜絵:花篠吽野:浅沼晋太郎阿文:土田玲央★第二話はこちらhttps://ch.nicovideo.jp/kuroineko/blomaga/ar2115953-------------------------------------------◆第一話第一章「大江山よりの便り」下町の風情漂う商店街。最奥に不思議堂がある。
ボーンボーンと
真向かいの時計店の振り子時計が夕暮れ時を告げた。
裏手の飲み屋から、ガヤガヤと酒呑たちの笑い声が
聞こえてくる頃だが、そんなことなどお構いなしで、
吽野は一心不乱に売れない冒険小説を執筆していた。
吽野「裏の飲み屋、楽しそうだな……それに引き換え、俺は机に齧り付いて、何してんだろうねぇ……」
吽野の集中は完全に切れてしまった。
吽野「あ〜ダメだ……。阿文クン……」
阿文「時計屋から聞こえただろう。今は五時」
吽野「そうじゃなくてぇ、お茶ちょうだい -
無料公開中【連載物語】『不思議堂【黒い猫】~阿吽~』第二話
2023-05-04 15:05
著:古樹佳夜
絵:花篠吽野:浅沼晋太郎阿文:土田玲央★第三話はこちらhttps://ch.nicovideo.jp/kuroineko/blomaga/ar2115955------------------------------------------第二話序章「次なる演目は」
◆◆◆◆◆不思議堂◆◆◆◆◆
吽野「う〜〜〜ん……」
吽野は文机に向かって、頭をガリガリと掻いていた。
後ろから、心配した阿文が声をかける。
阿文「先生、何を唸っているんだ。お腹でも壊したのか」
吽野「お腹は壊してない。今ね、舞台の題材を思案中なんだ〜」
阿文「ほう、舞台か」
吽野「次回は二人芝居の予定だよ」
阿文「二人だけ? 他の役者を呼んでも良さそうだが」
吽野「予算の問題だよ。出演は俺と阿文クン」
阿文「ええ、また僕も出るのか」
吽野「不満げだね」
阿文「うーん、本当に僕でいいのか? 僕は、演技に関しては -
無料公開中【連載物語】『不思議堂【黒い猫】~阿吽~』第三話
2023-05-04 15:02著:古樹佳夜絵:花篠吽野:浅沼晋太郎阿文:土田玲央★第四話はこちらhttps://ch.nicovideo.jp/kuroineko/blomaga/ar2115964----------------------------------------------------
第三話第一章 文豪の集い
◆◆◆◆◆不思議堂◆◆◆◆◆
吽野「寝癖直んないな……ま。いっかぁ」
吽野は前屈みになりながら
右手で前髪をいじり、ぶつぶつ言っていた。
阿文「おや、先生が鏡台の前で髪を整えている。まるで猫みたいだ」
部屋に入ってきた阿文はくすくすと笑った。
足元をすり抜けたノワールが、目を細めて、細く鳴いた。
ノワール「ニャー〜」
阿文「ははは。確かに、ノワールの言う通りだ。猫だったらあんな寝癖はつけてない」
吽野「悪口が丸聞こえなんだけど」
阿文「おっと、気づかれた」
吽 -
無料公開中【連載物語】『不思議堂【黒い猫】~阿吽~』第四話
2023-05-04 15:00著:古樹佳夜絵:花篠吽野:浅沼晋太郎阿文:土田玲央
★第五話はこちらhttps://ch.nicovideo.jp/kuroineko/blomaga/ar2149215-----------------------------------------------------
第四話序章「狛犬」
◆◆◆◆◆不思議堂◆◆◆◆◆
その日、吽野は上機嫌で、阿文に話しかけた。
吽野「阿文クン、春だね」
阿文「ああ。そうだな」
店内の片付けをしていた阿文は、
手を止めることなく受け答えした。
吽野「春といえば、なんの季節かわかるかな?」
阿文「そうだな……うーん、桜の季節……かな?」
吽野「それ! いやー俺たち気持ち通じ合っちゃってるよね〜」
阿文「それはよくわからないが」
吽野「あらそうなの?」
阿文「そういえば、ちょうど今、裏手の神社は桜 -
無料公開中【連載物語】『不思議堂【黒い猫】~阿吽~』第五話
2023-05-04 14:00
著:古樹佳夜
絵:花篠
吽野:浅沼晋太郎
阿文:土田玲央
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◆第五話 第一章「泥棒!」
◆◆◆◆◆不思議堂◆◆◆◆◆
阿文 「先生、大変だ!」
阿文が血相を変えて飛んでくるものだから、
吽野は書き途中の草稿をくしゃくしゃと丸めて部屋の隅に放ってしまった。
もっとも、原稿用紙の上に、落書いていたことを悟らせないためだ。
吽野 「どうした? 3日前買い付けてきた呪いのマネキンが喋りでもした?」
阿文 「あいつ喋るのか!?」
吽野 「って噂だよ」
阿文 「昼間ぶつぶつ聞こえるのはあいつだったのか……って!そうじゃない、それよりも大変なことが起きたんだ」
吽野 「一体何が起きたの?」
阿文 「不思議堂に泥棒が入った!」
吽野 「なにぃ!」
その一言で、吽野は文机をひっくり返す勢いで立ち上が
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