おはようございます、マクガイヤーです。
年末を跨いでだらだらプレイしている間に『ドラクエXI』の仲間キャラクターのレベルが全員カンストしてしまった今日この頃です。皆様、如何お過ごしでしょうか?
マクガイヤーチャンネルの今後の放送予定は以下のようになっております。
○1月20日(土)20時~
「最近のマクガイヤー 2018年1月号」
・最近の『笑ってはいけない』
その他、いつも通り最近面白かった映画や漫画について、まったりとひとり喋りでお送りします。
○2月3日(土)20時~
「外来生物vsニッポン」
2017年はヒアリ、『池の水ぜんぶ抜く』、『鉄腕DASH』の「グリル厄介」と、外来生物の話題が盛り上がった一年でした。
そこで、様々な外来生物について紹介すると共に、そもそも外来生物とは何なのか? 外来生物が浸入し、定着することの何が問題なのか? 生物多様性とは何なのか? 遺伝子プールとはどんな概念なのか? ……等々について、解説する放送をお送りします。
「人間もまた自然の一部」という名言を念頭において視聴して頂ければ幸いです。
○Facebookにてグループを作っています。
観覧をご希望の際はこちらに参加をお願いします。
https://www.facebook.com/groups/1719467311709301
(Facebookでの活動履歴が少ない場合は参加を認証しない場合があります)
○コミケで頒布した『大長編ドラえもん』解説本ですが、↓で通販しております。ご利用下さい。
https://yamadareiji.thebase.in/items/9429081
さて、今回のブロマガですが、先週みて面白かった『ネイビーシールズ ナチスの金塊を奪還せよ』について書かせて下さい。
この映画、元々ダイバーだったリュック・ベンソンのこだわりというか矜持が、それなりに詰まっていると思うのですよ。
●ヨーロッパ・コープとは
『ネイビーシールズ ナチスの金塊を奪還せよ』には、有名スターがほとんど出演していません。
皆が顔を知っている俳優は、『セッション』のフレッチャー先生ことJ・K・シモンズ、『トレインスポッティング』のスパッドことユエン・ブレムナーくらいでしょう。いずれも本作では脇役です。ヒロインのシルヴィア・フークスは『ブレードランナー 2049』でレプリカントのラヴ役を務めていましたので、顔を覚えている人もいるかもしれません(全くイメージの違う役柄を堂々と演じていて天晴なのですが)。
近年、この種の超大作でもカルトでもないアクション映画は、しっかりおカネを稼げる漫画の実写化や恋愛エクスプロイテーション映画で劇場を押さえられがちな日本ではDVDスルー、よくて単館公開となることが多いのですが、本作はしっかりとシネコンで大々的に劇場公開されました。
理由の一つは、本作がヨーロッパ・コープ製作だからでしょう。
『ニキータ』や『レオン』で名を挙げたフランスの映画監督リュック・ベッソンは、2001年に映画会社ヨーロッパ・コープを立ち上げました。
ヨーロッパ映画といえば、難しい顔をした監督たちが撮る小難しい映画ばかりという印象を持つ方もおられるかもしれませんが、「16歳の頃に考えた物語を映画化したかった」という思いから、本当にティーンエイジャーが脚本を書いたような『フィフス・エレメント』を監督したリュック・ベッソンがトップを務めるヨーロッパ・コープは違います。ヨーロッパ・コープが作る映画は、『TAXI』や『トランスポーター』シリーズのような。あまり小難しいことを考えずに楽しめるアクションものばかりです。
とはいうものの、製作会社としての規模は6大メジャースタジオの数分の1でしかありません。そこでヨーロッパ・コープは、『YAMAKASI』や『アルティメット』のようなハリウッド映画が着目していない「パルクール」という新機軸を入れてきたり、『96時間』や『ロックアウト』のように一流のハリウッド俳優を主演に招いたりもします。東欧やトルコを含めて、ヨーロッパ周辺での撮影はハリウッド映画に比べて一日の長があるので、結果としてどんな馬鹿映画を撮ってもそれなりの上品さのようなものが漂ってしまうのもポイントでしょう。
更に、ヨーロッパ・コープは世界で作品を売るために完全英語ベースで作品を作りつつ、日本ではアスミック・エース、角川書店、住友商事、三菱商事の共同出資により、「ヨーロッパ・コープ ジャパン」という現地法人を作っています。日本のシネコンでヨーロッパ・コープの映画がきちんと上映されるのは、この点が大きいです。
また、近年のヨーロッパ・コープは「ハリウッドじゃ撮れない映画」を明確に志向しています。天才女性ロビイストが全米ライフル協会とロビイ活動対決を繰り広げる『女神のみえざる手』はハリウッドでは作り難い映画だったでしょうし、イーストウッド以上に西部劇とテキサスという土地に思い入れがあるトミー・リー・ジョーンズが監督した『メルキアデス・エストラーダの3度の埋葬』や『ミッション・ワイルド』は、泣く子も黙る傑作でありつつ、本当はアメリカの映画会社が出資しなければなかった映画でもあります(客が入らないからという理由で日本では作れない非アクション時代劇にフランスの映画会社が出資するようなものです)。惜しむらくは、この類の「真面目なヨーロッパ・コープ映画」は、シネコンでの公開関数が少なかったり、DVDスルーになったりすることです。
●アクション映画としての『ネイビーシールズ ナチスの金塊を奪還せよ』
で、『ネイビーシールズ ナチスの金塊を奪還せよ』の話なのですが、『特攻野郎Aチーム』を強烈に連想させられる予告につられて観にいくと、やはり真面目じゃない方のヨーロッパ・コープ映画でした。
何が良かったかって、つかみのアクションシーンが100点です。
本作は1995年、ボスニア紛争末期のサラエボを舞台としています。
ジャーナリストに扮し、セルビア軍の将軍を拉致したマット率いる5人のネイビーシールズたち。しかし、予定していた脱出経路が使えず、たまたまみつけたセルビア軍のT-72(M-84?)に乗って逃げ出します。主砲を撃ちながら市街地を爆走するT-72を使った「カーアクション」は、眼福以外の何者でもありません。
ところが、マットたちは前後を敵の戦車に挟まれた橋の真ん中に追い詰められてしまいます。ミロシェビッチならぬペトロビッチ将軍に投稿を呼びかけられますが、「地面を撃て」と冷静に指示するマット。橋を破壊し、戦車ごと河に飛び込んだ一行は、慌てず騒がず潜水用具を取り出すのです。まるで忍者のように水中を移動し、脱出に成功します(誘拐した将軍は袋の中ですが、どうにかしてちゃんと空気を吸わせていたのでしょう)。
・スパイもののような潜入任務
・戦車で逃げ出す派手さ
・特殊任務の中でも潜水任務が得意、ということの説明
以上を踏まえた、エンタメ映画として100点のオープニングです。
映画の後半は水中作業シーンが続くことになりますが、会話できない水中では台詞なしで観客に理解してもらえるシーンを描かなくてはならないため、いきおい台詞にたよらないアクション・シーンが続きます。つまり、台詞ではなく映像で説明する質の高い映画ということです。
●減圧症とは?
つかみアクションで将軍役のJ・K・シモンズに怒られた後、マットたちはシルヴィア・フークス演じる酒場の美人ウェイトレスの求めに応じて、湖に沈んだナチスの金塊を引き揚げる作戦を計画します。
水深45メートルから、重さ27トン(総額3億ドル)の金塊を引き揚げるという内容なのですが、ここでマットたちは5日間の作業を想定します。
なぜ5日間もかかるのかというと、空気タンクの容量の問題というよりも、潜水病、それも減圧症の問題があるからです。
読者の皆さんは高校でボイル・シャルルの法則を習った筈です。
一言でいえば「気体の圧力Pは体積Vに反比例し、絶対温度Tに比例する」という内容ですが、ダイビングで重要になってくるのは気体と圧力の関係を表したボイルの法則の部分です。
分かりやすく書くと、気体は圧力と温度が高ければ高いほど液体に溶解します。そして、ダイビングでは水中を10メートル深く潜るごとに身体にかかる圧力は約1気圧増えます。水深20メートルでは1+約1=約2気圧、約2倍の空気が体内に取り込まれ、酸素や窒素が血中に溶解することになります。
ここで問題になってくるのが窒素です。
地球の空気はおよそ8割が窒素、2割が酸素です。酸素は細胞に取り込まれエネルギー産生に使われますが、窒素はそのままです。そして、深い水深で地上(1気圧)よりも多く血中に溶解した窒素は、急浮上すると血中で気体(泡)となり、神経や関節を圧迫します。
もっと浮上スピードが速ければ、肺の空気が膨らみ、肺破裂しますが、血中で泡ができただけでも大問題です。
まず、関節通が起こります。重症例では息切れや胸の痛みといった呼吸器系の障害があらわれます。生涯にわたる神経系の損傷のような、重篤な後遺症を招く場合もあります。
これを防ぐために浮上スピードをコントロールし、気体にならない形でゆっくりと窒素を放出しながら浮上するわけですが、流れやうねりのある水中で厳密に浮上スピードをコントロールすることは難しいので、一定深度で一定時間停止するのが普通です。これを「減圧停止」と呼びます。
減圧停止は↑のようなダイブテーブルを基に行われるのですが、最近は自動で計算してくれるダイビングコンピューターを使用するのが一般的です。水深30メートルに25分いたら5メートルで5分間安全停止する、水深40メートルに10分いたら5メートルで5分間安全停止する……というように使います(この安全停止を行っても、体質によっては減圧症に罹る人もいます。また、長期間減圧停止を必要とするダイビングを繰り返し行っていると、骨や組織にダメージが蓄積されます)。
この安全停止時間は、深い水深に長時間いればいるほど多くなります。
自分は大学の時ダイビングサークルにいたのですが、水深100メートルにスキューバ装備で潜った友人(当然、色んなルールを破ってます)は、予備タンクを浅瀬にあらかじめ沈めておき、水深10メートルでの安全停止に1~2時間使ったそうです。長時間の安全停止時間をどうすごすかはこのような猛者ダイバーたちの永遠の課題です。海外のディープダイバーたちはペーパーバックの小説を読んだりするらしいのですが、友人はマグネットタイプの携帯将棋を持っていき、バディと時間をつぶしたそうです。
つまり、深い水深では、自由に動ける時間が短くなるのです。
水深45メートルならば、減圧停止するとしても10~20分くらいが限度でしょう。
総勢6人で、水深45メートルから重さ27トンの金塊を引き揚げるというミッションに5日間を見積もったマットたちの計画は、それなりに妥当です。
以下ネタバレ
ですが、劇中ではさまざまな事情から、わずか8時間でこのミッションを行うこととなります。
水深40メートルくらいの場所に空気溜りのような場所を作り、ここで作業すれば地上に戻る必要ないから8時間で済むぜ! という乱暴な計画なのですが、ここで重要なのはたとえ空気溜りといえども水深40メートルには変わりがないということです。
つまり、彼らは水深45~40メートルに8時間いることになります。
水深40メートルに10分いても5メートルで5分間の安全停止が必要です。8時間いたら、どれくらいの安全停止が必要でしょうか? 表の限界を突破してしまうのですが、おそらく数時間は必要でしょう。
ところが、彼らはわりと短時間で浮上してしまうのです。
しかも、ヘリコプターに乗って基地に帰ったりします。ご存知のとおり、高度が高ければ高いほど圧力は低くなります。これは、それだけ血中に溶け込むことができる窒素量が減り、減圧症を発症する率が高くなることを意味します。ダイビングを行った当日に飛行機に乗ることはが禁じられているくらいです。