TPPの問題は突然出て来た。菅首相は2011年1月世界経済フォーラム「ダボス会議」で「開国と絆」と題して次のように述べた。
「今、日本は改めて“開国の精神”が求められていると思います。私は今年を“第3の開国”を実現するという目標を掲げました。“包括的経済連携に関する基本方針」を閣議決定し、TPPについて昨年関係国との協議に入りました」
大変興味ある演説である。TPPに入ることによって、“第3の開国”をしようとするものだ。
菅首相は“第3の開国”を肯定的にとらえている。
でも、それでいいのか。
私は今年7月24日、『戦後史の正体』を出し、9月上旬で、14万部にきた。
『戦後史の正体』の表紙は軍艦ミズリー号上での降伏文書の署名式である。『戦後史の正体』の表紙の左端に、かすかに星条旗がかかっているのが見える。星条旗の星の数を数えてい
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11月20日、オバマ大統領と野田首相の間で、(30分あまりの)首脳会談が行われました。
TPPについて、伝えられているところでは以下の通りです。
(以下引用)
さらに野田総理大臣は、太平洋を囲む国々で関税の撤廃などを進める、
TPP=環太平洋パートナーシップ協定について、
「交渉参加に向けて協議することを決定した際の私の決意は、当時と今も変わっていない。
日米間における課題を乗り越えるべく協議を加速させたい」と提案しました。
これに対し、オバマ大統領は「日本が関心を持っていることを歓迎する。
問題点がまだ残っているが、協議を通して解決したい」と述べました。
NHK NEWS web (http://www3.nhk.or.jp/news/html/20121120/k10013634911000.html)
(引用ここまで)
この会談内容から知り得る限り、交渉締結に前のめりなのは、
分裂状態の党内で、TPPについて踏み絵まで迫ろうとしていた民主執行部の方で、
オバマ大統領がそこまでこのTPPに関心を持っているとは考えにくいところです。
少なくともオバマ大統領にとって、TPPがそこまで重要度の高いテーマならば、
わずか30分で会談が終了することは無かったでしょう。
民主党内の、あの長期間の紛糾と比べると、何ともあっさりしたものです。
私のTPPに対するスタンスは非常に単純です。
あくまで個人個人のレベルで、自分が得すると思う選択をすればいいだけです。
たとえばTPPについて、経団連に代表される財界が賛成するのは当然です。
彼らはTPPで、生産拠点の海外移転がさらに容易になるのと同時に、
「輸出割り戻し税」・・いわゆる消費税の還付によって、大きなボーナスも得られます。
(もちろんこれは、海外移転する資本力のない中小企業には縁のない話でしたが・・)
なお、タイ政府は今月の18日、TPP交渉に参加する方針を示しましたが、
これは現在進展しているTPPの本質を象徴する出来事とも言えます。
2012年現在、タイは年間210万台もの自動車を生産し、
東南アジア最大の自動車輸出拠点となっています。
また、日系メーカーによる生産の割合が非常に多いのも特徴で、
タイで生産される自動車をブランド別に集計すると、
トヨタ、三菱、マツダなどの日系企業だけで、実に90%にも達します。
(参考 日本アセアンセンターHP内
タイ自動車研究所 所長 ワンロップ・ティアシリ
「タイ自動車産業におけるビジネスチャンス」)
そして、自動車逆輸入のお得意先である日本が参加する可能性が高まった以上、
タイ政府が国益のために、TPPに前向きな姿勢を示すのは、
国家として正しい判断だと私は思います。
もちろん、そうした海外移転や逆輸入等によって、多大な利益を得る大企業が、
それに賛成するのも当然の話でしょう。
・・しかし、日本国内の「労働者」にとって、この変化がもたらす結果は何でしょうか?
これだけ円高不況が叫ばれる中で、たった数%の関税撤廃のエサに釣られて、
国内雇用に多大な悪影響を及ぼすであろうこの協定に、自ずから賛同の意を示すことが、
どれほど危険なことかは言うまでもないでしょう。
もちろん、財界がスポンサーであるマスコミは、
「開国か鎖国か?」「揺れる農業関係者」といった形で、
TPPの本質を見誤らせる報道を続けるのでしょう。
けれどもこの協定が、保険金融や知的財産権など、様々な分野で
交渉が積み重ねられてきたものであることは、ここで改めて強調しておきます。
(なお、ニコ動投稿に関わる方には、とくに、福井健策さんが書かれた
「ネットの自由」vs著作権、を一読することをお勧めします)
(2)
なお、いわゆるネット右翼と呼ばれる方々の中には、TPPを中国包囲網と捉え、
賛同の意を示している方も少なくないようです。
TPPをブロック経済の一種として考えれば、この解釈には一定の理があると思います。
しかし、今月20日に行われた東アジア首脳会議での、
オバマ大統領の発言をみる限り、そうした見解は性急に過ぎるように思います。
(以下引用)
[プノンペン 20日 ロイター]
オバマ米大統領は20日、カンボジアのプノンペンで開催されている
東アジア首脳会議で、南シナ海や他の地域における領有権問題をめぐる
緊張緩和に努めるよう、アジア各国の首脳に訴えた。
ただ、領有権をめぐって中国と緊張関係にある日本、フィリピン、ベトナムを
明確に支持する姿勢は示さなかった。
ベン・ローズ米大統領次席補佐官(国家安全保障担当)は
「オバマ大統領のメッセージは、緊張緩和が必要だというものだ。
特に、中国と日本という世界最大の経済国の2つが
こうした緊張関係にあることを考えれば、緊張を高めるリスクを冒す理由はない」と述べた。
また、オバマ大統領は再選を決めた後初めて中国の温家宝首相と会談し、
米中は貿易や投資に関する「明確な交通ルール」を定めるため協力する必要があると
呼びかける一方、中国がこれらのルールに違反しているとの批判は差し控えた。
(http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPTYE8AJ05220121120)
(引用ここまで)
もしTPPが中国包囲網であれば、まず中国の知的財産権や為替制度が糾弾されるところでしょう。
しかし、日本の国内メディアが、これだけ領有権その他で紛糾したなかで、
オバマ大統領のメッセージはごくごく中立的なものでした。
なお、「民主党はダメだが、うちの党なら有利に交渉を進められる。」と
考えている党も、いくつかあるようです。
しかし、あれだけの長期間、自力でTPPの日本語訳文さえ国民に公開できなかった
与野党の方々に、日本に有利に交渉を進められるだけの力量があるとは、
残念ながら思えません。
そもそも、特定の国を利する可能性のある協定だとすれば、より一層、
日本は慎重に交渉参加の是非を議論すべきでしょう。
今後、日米の財界は、「日本が中国化する」「日本が世界の孤児になる」
といった表現で、一般国民への圧力を強めていくでしょう。
しかし、こうしたものに臆する必要はありません。
TPPに参加しなくても、大多数のアメリカ人は、
これまで通り日本と付き合ってくれるでしょう。
むしろ、途中からの軌道修正の極めて難しい多国間協定であるTPPに参加して、
現在のEU、ユーロ圏のように、国民レベルでの埋めがたい断絶を引き起こしてしまうことを、
私は恐れています。
財界の機嫌を取ることは、資本の乏しい途上国ではやむを得ない面もあります。
しかし、国内で有効な融資先が見つからず、
カネ余りで超低金利国債が発行されるようなこの日本で、
財界のご機嫌取りは大した意味を持ちません。
長い目で見て、日本が世界の人々からより愛される国となるよう、
賢明で思慮深い判断をすることを、私は望みます。