
「フードノイズの科学」の続きです!(#1)
このシリーズでは、近ごろ栄養学の世界でよく言われるようになった「フードノイズ」をテーマに、
「なんとなくお菓子をつまんでしまう…」
「気づいたら冷蔵庫を開けている…」
みたいな問題がなぜ起きるのか? そして、その問題にはどう立ち向かえばいいのか? ってところをまとめております。シリーズ第1回でも説明したとおり、この“なんとなく食べちゃう”の原因の多くは意思ではなく環境の設計ミスから生まれてますんで、そのあたりをなんとかしようって話ですね。つまり、脳が“食べろ”と命令する前に、そもそもそのスイッチを押させないようにするのが近道だよー、みたいな話っすね。
「GLP-1受容体作動薬」を飲む時、あなたに何が起きているのか?
では、具体的にフードノイズの問題をどうすべきかってことで、まずは「GLP-1受容体作動薬」の話を簡単におさらいしておきましょう。前回も触れたとおり、「GLP-1受容体作動薬」は糖尿病(2型糖尿病)の治療のために開発された薬で、セマグルチド(オゼンピック/リベルサス)、チルゼパチド(マンジャロ)などが代表例。こいつを飲むと、「頭の中から食べ物の思考が消えた!」みたいに感じる人がめっちゃ多いんですよね。つまり、「GLP-1受容体作動薬」にはフードノイズを消す作用があり、これがダイエット効果として働いているのではないか、と。
そう考えると、
- 「GLP-1受容体作動薬」なぜ、これほどまでに“フードノイズ”を消してしまうのか?
- そして、薬に頼らずにこのメカニズムを再現することはできるのか?
ってポイントを考えることができれば、フードノイズの対策にもなるんじゃないかと思うわけですね。ということで、まずは「GLP-1受容体作動薬」の働きを、脳 × 腸 × ホルモンという三方向から整理してみましょう。
1. 脳で起きていること:GLP-1薬がドーパミンのボリュームを下げる
ご存じのとおり、人間の脳は「食べ物はごほうびだ!」として処理しております。特に、側坐核(そくざかく)という領域では、甘い・脂っこい・香ばしいといった刺激でドーパミンが分泌され、「もっと欲しい!」という信号を強化するんですよね。
GLP-1薬は、この報酬ループのボリュームを少しずつ絞る働きを持っており、あるMRI研究(R)では、セマグルチドを投与した被験者は食べ物の画像に対する脳の反応が弱まることが確認されてたりするんですよ。要するに、GLP-1薬ってのは、脳が感じる「食べ物の価値」を下げているわけですね。
2. 腸で起きていること:満腹ホルモンのシンフォニー
GLP-1は、もともと腸で作られるホルモンのひとつ。食事を摂ると腸管L細胞がGLP-1を分泌し、血糖を安定させつつ満腹中枢を刺激してくれるんですね。
薬としてのGLP-1受容体作動薬は、このシグナルを数十倍に増幅する働きを持ってまして、その結果として、脳の視床下部で「もう十分だ!」という満腹メッセージが長い時間続くようになるんですよ。さらに、このシグナルには、
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胃の排出をゆっくりにして、食後も満腹感を長続きさせてくれる。
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インスリン分泌を促進し、血糖変動を抑えることで、「食後の急上昇→空腹クラッシュ」というドーパミンの波を鎮めてくれる。
みたいな働きもあって、こちらも非常にうれしいポイント。言い換えれば、GLP-1薬ってのは“腸が脳を落ち着かせる”状態を人工的に再現しているのだと言えましょう。
3. ホルモン軸で見える「静けさのメカニズム」
GLP-1薬の最大のポイントは、 フードノイズを消すのではなく、「シグナルの順序を整える」ことであります。本来の食欲の働きってのは、
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グレリン(空腹ホルモン)が上昇する
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食事でGLP-1+レプチンが上昇して満腹シグナルを送る
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ドーパミンが「よくやった」と快感で締めくくる
みたいな流れになってるんですよ。しかし、現代の環境では、加工食品・ストレス・睡眠不足などの原因でこの流れが崩れてしまい、「グレリン優位 × ドーパミン暴走 × GLP-1低下」って状態が起きるんですね。
その点で、GLP-1薬は、上記の問題を一気にリセットする働きを持ってまして、そのおかげで「食べろ!」というノイズが下がり、「もう十分でしょう」という気分にリセットされるんですね。これがGLP-1薬で体重が減るメカニズムのひとつになっております(まあ、かといって「ちょっと痩せたいなー」ぐらいの人がGLP-1薬を使うのはお勧めしませんが)。
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