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「悔いのない選択を」
コメ0 草の根広告社 47ヶ月前
今だから告白するけれど、育毛剤を使い始めたのは十八歳のときだ。四十代前半の父親がみるみる薄毛になっていく姿に「血の繋がり」という逃れられない宿命を感じ、自分なりに先手を打って始めたのだ。以来、深酒し過ぎて歯を磨くのを怠ることがあっても、育毛を欠かした日はほとんどない。それがどんな結果をもたらし...
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「SWEET HOME」
コメ0 草の根広告社 47ヶ月前
たとえば、娘が躓いて転んだとか、いつまでも布団から出て来ないとか、ごはんの最中に踊り出すとか。結局のところ、そういうささいなことに振り回され、やれやれと妻と二人で笑い合っていた一年だった。
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「コーヒーメーカー」
コメ0 草の根広告社 47ヶ月前
キッチンに銀色のコーヒーメーカーがある。メリタ製のシンプルなデザインに惚れて、独り身のときに買ったものだ。丁寧に掃除や手入れをして、十五年以上使い続けてきた。が、ここ半年くらい調子が悪い。いつもと同じ量の豆と水を入れたにもかかわらず濃くて少なかったり、多すぎて薄かったりと味のばらつきが大きい。...
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「しあわせって案外簡単に手に入るものなのかもしれない」
コメ0 草の根広告社 48ヶ月前
日に日に冷えてゆく海水が窓辺に冷気を連れてくる季節になった。夕闇迫る小径を足早に抜けて保育園に娘を迎えにいくだけで身体が芯まで冷える。凍えた身体を白い湯気が立つ湯船に浸ける。思わず「あーっ」という声が漏れる。娘がその声を聞くたびにケラケラと笑う。縮こまっていた血管が開き血の巡りがよくなるのがわ...
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「いつかこの浜辺を」
コメ0 草の根広告社 48ヶ月前
やさしい陽光の下、浜辺を一組の老夫婦が手を繋いで歩いていた。ただそれだけのことだ。ただそれだけなのに、ランニング中に擦れ違ったぼくは涙を流していた。
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「変われない人は生き残れないとダーウィンは言った」
コメ0 草の根広告社 48ヶ月前
再び春のように殺伐としてきた。生命か財産か。いやどちらもだと異なる利害が真っ向から衝突している。衝突したり、どちらもだと言っているうちはどちらにとっても厳しくて惨い冬に向かっていくような気になってしまうのは悲観的過ぎるだろうか。だからこそどちらも手放した第三の選択肢にこそ望むべき夏があると考え...
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「海辺で陽だまりの猫になる」
コメ0 草の根広告社 48ヶ月前
娘を保育園に送った帰りに小型のワープロとTHERMOSに入れたコーヒーを抱えてここに寄る。立石海岸駐車場。自宅から数分のところにある海沿いの駐車場だ。平日の朝は駐車待ちの車列が途切れることのない週末が嘘のように閑散としている。
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「立ち止まって、考えろ」
コメ0 草の根広告社 49ヶ月前
かつてない天災だと目を背けた朝もあった。こんなのただの人災じゃないか怒りに震えた夜もあった。 すべての人類が動きを止めればウイルスは三週間で地球上から消失するという唯一の正解が分かっているのに未だに断行することができない。いつまでこの非日常下で生きていけばいいのかと思い続けて気がつけば一年近く...
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「夏が通り過ぎていく」
コメ0 草の根広告社 51ヶ月前
海沿いの国道を走り始めたら、秋だった。 湿り気を含んだ涼風。湿気に反応して汗を搔くのに、肌の表面は風に吹かれて冷えていく。ようやく夏の暑さに慣れた身体が気候の変化に追いつけていない。 追いつけていないのは身体だけじゃない。
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「音のない打ち上げ花火」
コメ0 草の根広告社 51ヶ月前
八月三十一日の夕暮れに感傷的になってしまうのは少年時代の名残りなのだろうか。今年は例年以上に何かをやり残したような静かな後悔に襲われた。と言っても何をやり残したのかすらわからない茫漠としたものなのだけれど。
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「2020年8月31日」
コメ0 草の根広告社 51ヶ月前
八月三十一日について書くのはこれで何度目だろう。そのくらいぼくにとって八月三十一日は特別なのだ。子どもの頃の八月三十一日の過ごし方がぼく自身の生き方を決めたとさえ言ってもいい。
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「母が見ていた風景」
コメ0 草の根広告社 52ヶ月前
ぼくが暮らす秋谷は農漁村であると同時に別荘地でもある。古来より風光明媚な地として知られる立石の絶景は江戸時代に安藤広重によって描かれ、明治時代には葉山御用邸を訪れていた陛下お気に入りの場所となり茶寮が作られた。夏目漱石がその才能を高く評価した作家泉鏡花「草迷宮」の舞台でもある。大正昭和には企業...
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「元に戻ろうとすればするほど元に戻ることができなくなっていく」
コメ0 草の根広告社 52ヶ月前
梅雨明けと同時に連日の猛暑だ。去年までと同じようで、違う夏だ。雲の白さも海の青さも去年までと同じはずなのに違って見えるのはそれを見つめているぼく自身の心が去年までとは違ってしまったからなのだろう。普段はその変化から目を背けるように生きているのだろう。家族三人で顔を付き合わせて食卓を囲んでいると...
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「未来を予測するもっとも簡単な方法は」
コメ1 草の根広告社 52ヶ月前
リモートワークになったのを機に郊外への移住が少しずつ始まっている。その動きを知ってか知らずか政府は観光とリモートワークをセットにした「ワケーション」なるものを推進しようとしている。一方で飲食業やアパレル業、観光業やぼくも生業としている娯楽文化を提供するサービス業の業績は転落の一途を辿っていて、...
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「旅するように暮らす」
コメ0 草の根広告社 52ヶ月前
ここではないどこかへ―――。 なんて魅惑的な響きなんだろう。三十代まではいつもその甘美な影を切実に希求していた。その影を追い掛けるように移動していた。ときにはオートバイで、そしてときには自分の足で。さすらうことに憧れていたんだと思う。「さすらう」という言葉を実感を込めて使ってみたくて。たぶん、小さ...
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「非日常下で元気に生きるコツ」
コメ0 草の根広告社 53ヶ月前
不安な夜が何日か続いた。感染しているんじゃないか。感染させてしまったんじゃないだろうか。疑ぐり深い性格のおかげで、どれだけ対策を徹底していても外で人と接触するたびにいつも最悪の事態を想定してしまい、浅い眠りが続いた。あることがきっかけだったとはいえ、遅かれ早かれそうなっていたのだろう。週に何日...
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「夏のベランダで、娘が小さなくしゃみをした。」
コメ0 草の根広告社 53ヶ月前
久し振りの夏日だった。浜辺はこの陽気を待ち望んでいたと思しき海水浴客で賑わっている。例年と変わらない夏の光景だ。なのにどうしてだろう。目に映る空は晴れ渡っているのに心は昨日までの厚い雲に覆われたままだ。去年まではなかったものがあって、去年まではあったものがないからだろうか。去年までの夏と今年の...
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「からっぽのバスがゆく」
コメ1 草の根広告社 53ヶ月前
海沿いの国道を、からっぽのバスがゆく。 ここに来るまで誰が乗っていたんだろう。ここから先に誰か乗るのだろうか。もしかすると誰も乗っていなかったのかもしれないし、誰も乗らないのかもしれない。ここ数ヶ月、目の前を通り過ぎるバスはいつもそのくらいからっぽだ。
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「ここは地球だったんだ」
コメ0 草の根広告社 54ヶ月前
六月のある朝、海を見ながら走っていた。ラジオを聴きながら走っていた。温暖化による地球の金星化について研究をしている人の話が耳に飛び込んできた途端、視野が急激に広がるような感覚に陥った。
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「二〇二〇月六月六日」
コメ1 草の根広告社 54ヶ月前
四時半頃に目が覚めた。カーテンの隙間から射し込む朝の光のせいだ。窓の外はもう明るい。朝靄の海に漁船が見える。ベランダで今日の食卓に上る鮮魚を想像しながら、ゆっくりと時間をかけて白湯を飲む。体が完全に目覚めた午前五時、海沿いの国道を走り出す。昨日の熱気を夜が冷却した湿気が肌にまとわりつく。六月に...