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溝上慎一氏:日本の大学が人材を育てられない理由がわかってきた
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溝上慎一氏:日本の大学が人材を育てられない理由がわかってきた

2018-10-10 23:00

    マル激!メールマガジン 2018年10月10日号
    (発行者:ビデオニュース・ドットコム http://www.videonews.com/
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    マル激トーク・オン・ディマンド 第913回(2018年10月6日)
    日本の大学が人材を育てられない理由がわかってきた
    ゲスト:溝上慎一氏(桐蔭学園理事長代理)
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     日本の大学生があまり勉強しないことは昔からよく知られている。
     最近ではひと頃のように授業をサボって雀荘やゲーセンに入り浸る学生はほとんどいないようだが、それでもあまり勉強をしないところは、今も昔とほとんど変わっていないようだ。2007年から3年ごとに全国の大学生約2,000人に「大学生のキャリア意識調査」を実施し、その結果をこのほど『2018年大学生白書』にまとめた溝上慎一氏によると、日本の学生は平均すると授業時間以外に週5時間足らずしか勉強をしていないのだという。
    アメリカでは日本の短大に当たるコミュニティ・カレッジでも平均で週12時間程度、アイビーリーグの名門校など上位校になると授業以外に週30~40時間は勉強をしなければ授業についていけないのが当たり前だというから、日本の学生が勉強しない説は、かなりデータによっても裏付けられていると言わざるを得ない。
     無論、ただ勉強時間が長ければいいという話ではない。実は日本では大学生活においてリーダーシップ力やコミュニケーション力、問題解決力などの能力がどの程度身についたかを大学生自身に質問した結果、大半の学生が、特にそうした能力が向上したとは感じていないことが明らかになっている。しかも、その数値は2007年からほとんど変化していない。
     この調査結果が深刻なのは、実はこの10年、日本では様々な大学の改革が行われてきたにもかかわらず、成果が上がっていないことを示しているからだ。
     実際、日本では1991年の大学設置基準の大綱化を受けて、2004年の国立大学の独法化や大学の認証評価の導入など、数多くの改革が実施されてきた。特にこの10年は、2008年の「学士課程答申」を皮切りに2012年の「質的転換答申」、2014年の「高大接続答申」といった、重要な改革が実施されるなど、一連の大学改革の「仕上げの期間」だったと溝上氏は言う。しかし、学生の学習時間はほとんど延びず、自己評価を見る限り学生も大学から受けた恩恵は少ないと感じていることが、明らかになってしまった。
     まだまだ日本では大学は学問を探究する場所ではなく、就職するための踏み台程度にしか考えていない人が多いのが現実なのかもしれない。ところが、実はその点でも日本の大学はむしろ後退している。大学生に「自分の将来について見通しを持っているか」を聞いたところ、見通しがあり、何をすべきか理解し、実行していると答えた人は2010年の28.4%から2016年には22.7%に下がっている。溝上氏は、このデータからは、「今の大学教育では日本の学生は変えられない」との結論を導き出さざるを得ないと語る。
     実は溝上氏はこの9月、長年在籍した京都大学を去り桐蔭学園に転身した。神奈川県横浜市にある私立の中高6年一貫校だ。その理由が、大学だけをあれこれ変えてみても学生は変わらないことを痛感したからだという。中学、高校時代にある程度学生の基礎的な資質を育てておかなければ、どんなに大学で制度改革を行おうが教育の成果はあがらないだろうと、溝上氏は語る。
     「大学生のキャリア意識調査」を実施した溝上氏と、調査の結果明らかになった日本の大学生の実態や、そこから見てきた日本の大学教育の問題点、そしてその処方箋などについて、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。

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    今週の論点
    ・「授業外学習」が少なすぎる、日本の大学生
    ・社会に対する理解がなく、将来の見通しも立たない現状
    ・教育現場では、どのような改革が行なわれてきたか
    ・“受験収容所”から、その後の人生を支えるものに変わりゆく桐蔭学園
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    ■「授業外学習」が少なすぎる、日本の大学生

    神保: 前回は英語入試について取り上げましたが、教育の問題をしっかり見ていかなければなりません。実は大学をいじっても教育はなかなか変わらず、中高くらいから見ていかなければならない、というのが今日の話なのですが、冒頭に宮台さんからなにかありますか。

    宮台: 僕は過去25年間くらい、学生たちに自分で問題を作り、答えてもらうというテストをやってきましたが、答案のレベルがどんどん落ちています。文章が書けない人が増えているだけでなく、基本的にテンションが低いです。だから、インターネットで適当な素材を見つけてきて書いている、ということがバレバレな答案だらけです。システムの改革が学生たちの熱き心を奮い立たせる、というふうにはまったくなっていないどころが、逆効果になっています。もっとも、大学だけのせいではないと思いますが。

    神保: どこに問題があって、どう対処すればいいのでしょうか。さっそくゲストをご紹介します。プロフィールをご紹介すると、皆さん「え?」と思われるはずですが、学校法人桐蔭学園理事長代理、同学園トランジションセンター所長であり、教授である溝上慎一さんです。私の母校でもあるところの偉い先生ですね。もともと京都大学で長く教育学をやっておられたところが、なぜ桐蔭学園にいらっしゃるのでしょうか?

     
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