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山崎哲也氏:トミー・ジョン手術の多発を進化と倫理の視点から考える
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山崎哲也氏:トミー・ジョン手術の多発を進化と倫理の視点から考える

2018-10-17 23:00

    マル激!メールマガジン 2018年10月17日号
    (発行者:ビデオニュース・ドットコム http://www.videonews.com/
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    マル激トーク・オン・ディマンド 第914回(2018年10月13日)
    トミー・ジョン手術の多発を進化と倫理の視点から考える
    ゲスト:山崎哲也氏(横浜南共済病院スポーツ整形外科部長)
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     今週のテーマは野球。しかし、野球というスポーツの話というよりも、どちらかというと人類の進化の話であり、ビジネス倫理の話になる。
     野球、とりわけその頂点にあるアメリカのMLB(メジャーリーグ・ベースボール)は目下、空前の繁栄を謳歌している。MLBは今や年間興行収入が100億ドル(1兆円)を超え、1年あたりの契約金が30億円を超える選手がゾロゾロいる、巨大ビジネスだ。
     しかし、その繁栄の陰で、とんでもない医学的かつ倫理的な問題が生じている。それはMLBの投手の約3割が、キャリア中に最低一度はトミー・ジョン手術と呼ばれる肘の靱帯の移植手術を受けなければならない状態に追い込まれているということだ。MLBという巨大ビジネスが、一握りの恵まれたアスリートの肘の靱帯の犠牲の上に成り立っている状態、と言っても過言ではないかもしれない。
     この手術は正式には「肘内側側副靱帯再建術」と呼ばれ、最初の成功例となったスター選手の名前を冠して「トミー・ジョン手術」の愛称で呼ばれているが、その実は全身麻酔の上、断裂した肘の靱帯を取り除き、代わりに手首などから除去しても影響がないとされる腱を取ってきて、肘の骨にドリルで穴を開けて縫い付けるという、大がかりな外科手術だ。医療技術が進歩したおかげで、1年から1年半のリハビリに耐えれば、9割が元通りのピッチングができるようになるというが、それでも1割の選手は選手生命を失う危険な手術でもある。
     スピードガンで表示される「160キロの剛速球」は、今や野球の最大の魅力の一つとなっているが、人間がこのような速い球を投げるためには、肘にかなりの無理がかかる。スポーツ整形が専門でNPB(日本プロ野球)球団横浜DeNAベイスターズのチームドクターを務める山崎哲也・横浜南共済病院整形外科部長は、そもそも人間の肘の靱帯はそれだけの衝撃に耐えられるようにはできていないため、このような運動を繰り返すたびに、肘の靱帯に小さな断裂が起きるのだという。
     MLBの年間のトミー・ジョン手術の施術数は毎年上昇傾向にあり、そのカーブは投手の速球の平均速度の上昇カーブとほぼ比例している。このままでは、類い希な優れた身体能力を持って生まれ、野球選手としては最高峰のプロ投手に登り詰めた「選ばれし若者」の大半が、肘にトミー・ジョン手術の手術痕をつけているというような、異様な状況になりかねない。いや、既にそのような状態になりつつある。
     トミー・ジョンの多発に衝撃を受けたアメリカでは、リトルリーグから大学まで、一人のピッチャーが1日に投げていい球数や、何球以上投げた場合は、最低何日は空けなければならないなど細かい投球制限がルール化されるようになっている。日本でもリトルリーグやシニアリーグにはその基準があるが、なぜか高校野球だけは投球制限の導入を頑なに拒んでいる。確かに、準決勝で完投した剛速球のエースが翌日の決勝では投げられないようなことになれば、興行としての甲子園の盛り上がりに水を差すことになるかもしれない。しかし、高校生に投球数の制限を設けずに投げさせている現状は異常としかいいようがない。
     山崎氏は今後、トミー・ジョン手術が増え続けるような状態に陥るのを避けるためには、投球フォームの改善や怪我を防止するトレーニングの研究、投球数に応じて必要となる休息の期間、球種による肘の靱帯への負担の違いの解析等々、まだまだやるべきことはいろいろあるが、まずは練習段階から投球制限を設定し、それが遵守される体制を作る必要があるのではないかと語る。
    一部のアスリートが文字通り「身を削りながら」支えている現在の状態を放置していいのだろうか。また、こうした構造的な問題に対して、野球界やスポーツ界、またそこから大きな恩恵を受けているメディアに自浄能力は期待できるのだろうか。山崎氏と、ジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。

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    今週の論点
    ・メジャーで増加の一途をたどるトミー・ジョン手術とは
    ・選手たちが手術を選択する理由
    ・アメリカの投球数制限と、それがまったく進まない日本
    ・高校生に連投を強いる、甲子園の闇
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    ■メジャーで増加の一途をたどるトミー・ジョン手術とは

    神保: 今回のテーマは「野球」ですが、単にスポーツの話題ではなく、社会問題であり、人権問題であり、人類の進化にもかかわる問題だと考えています。

    宮台: 野球に限らず、例えば受験勉強のような知的な訓練を含めて、何かを獲得するために何かを失うということは普通ありますよね。よく神保さんとお話しているように、やはりいいとこ取りはできません。何かを獲得しようとすると、何かを失うので、全体のバランスを絶えず考える癖をつけておかないといけません。

    神保: 誰かが何かを得るために起きていることですが、その正体が明かされていない場合がけっこうあります。例えば、大人は「子供たちが自分でやりたいと言った」と言いますが、「やるか?」と言われれば、子供は「やります」と言うでしょう。そこでやらせる、というのが許される場合と、そうではない場合があるじゃないですか。「まだいけるか?」と聞かれて「もうダメです」という選手は、おそらくそこまで来ていないし、とっくに早い段階で休んでいるはずでしょう。

     
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