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津山恵子氏、前嶋和弘氏:アメリカのメディアはいかにトランプと戦ってきたか
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津山恵子氏、前嶋和弘氏:アメリカのメディアはいかにトランプと戦ってきたか

2019-10-30 20:00
    マル激!メールマガジン 2019年10月30日号
    (発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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    マル激トーク・オン・ディマンド 第968回(2019年10月26日)
    アメリカのメディアはいかにトランプと戦ってきたか
    ゲスト:津山恵子氏(在米ジャーナリスト)、前嶋和弘氏(上智大学総合グローバル学部教授)
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     ワシントンでは野党民主党が主導するトランプ大統領に対する弾劾手続きが着々と進んでいる。大統領の弾劾は約250年のアメリカの政治史上でも3度しか前例がない、いわば歴史的な一大事だ。にもかかわらずそれほど大きなニュースになっていないのはなぜか。
     今回の弾劾は大統領がウクライナに対する軍事援助と引き換えに、2020年の大統領選で脅威となる可能性のある政敵の民主党バイデン元副大統領親子の不正に関する調査を要求するという、職権乱用の嫌疑が懸けられている。
     政権が誕生して以来、トランプ大統領はこれまでの常識ではあり得ないような数々の不祥事やスキャンダルに塗れながら、失脚を免れるばかりか、一定の支持率を維持し続けてきた。アメリカ政治が専門で政治とメディアの関係を研究している上智大学の前嶋和弘教授は、この「トランプ現象」や「ニューノーマル」と呼ばれる現象の背後には、メディアの分断があると指摘する。インターネットが普及する以前から多チャンネル化が進むアメリカでは、メディアが民主と共和、左と右、リベラルと保守にくっきりと色分けされ、一般市民は自分の政治信条と親和性の高いメディアからしか政治の情報を得なくなっている。
     今回の「ウクラナゲート」にしても、既存のマスメディアやCNN、MSNBC、ニューヨーク・タイムズなどリベラルメディアの視聴者、読者の大半は前代未聞の職権乱用スキャンダルとして認識しているが、フォックス・ニュースやラッシュ・リンボーショーなどから情報を得ている保守派にとっては民主党もしくはリベラル派のトランプ追い落としのための陰謀に過ぎないということになる。
     このような状況を見ると、アメリカのメディアで多チャンネル化や多様化が日本より進んでいることが、かえってメディア、ひいては社会の分断を加速させているようにさえ見えるところはある。しかし、在米ジャーナリストでアメリカのメディア状況に詳しい津山恵子氏は、ホワイトハウスが反トランプの色を前面に押し出した報道を続けるCNNに記者に対する記者証の発行を拒んだ時は、フォックスなどの右派系のメディアも共同戦線を組んでホワイトハウスに抗議をした結果、CNNが記者証を再交付された事例を例に取り、アメリカのメディアも最後の一線ではジャーナリズムの原則は失っていないと指摘する。
     翻って日本では、アメリカと比べるとメディアの多様化は一向に進んでいない。日本の権力中枢の報道は依然として内閣記者会と呼ばれる記者クラブと官邸報道室の談合によって「円滑に」運営されている。そのため、東京新聞の望月記者のような例外中の例外を除けば、政権と記者の表だった対立や対決などというものは一切存在しない。
     しかし、本当に分断されているのは、どっちなのだろうか。参入障壁が低いため多くのメディアが市場で群雄割拠することになった結果、そこにつけ込んだ政権がメディアの分断に成功している現在のアメリカと、メディアが丸ごと権力に取り込まれているが故に、対立が表面化しない日本とでは、どっちがまともなのだろうか。
     今週のマル激ではアメリカ政治とメディアに詳しい前嶋、津山両氏をゲストに迎え、アメリカのメディアの分断の実態やトランプとアメリカのメディアがどう戦ってきたかを検証した上で、日本の政治とメディアの関係との対比などを、ジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。

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    今週の論点
    ・「ウクライナゲート」とは何なのか
    ・ポスト・トゥルースを象徴する問題
    ・FOXひとり勝ちのメディア状況が意味するもの
    ・パブリックマインドなき日本の暗い見通し
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    ■「ウクライナゲート」とは何なのか

    神保: 今回はアメリカ・ワシントンの話をしようと思っています。特にアメリカのメディアがトランプとどう戦ってきたか、という話をメインにしたいのですが、まずは日本の状況も含めて、メディアについて宮台さんから何かありますか。

    宮台: 僕が学部のとき、流言蜚語研究という社会心理学の一分野の講義を聞いて、非常に印象的だったのを覚えています。いまから思うと人間中心主義から離脱する典型的な研究の出発点でした。つまり人は情報を得て、解釈して、自分で表現するという風に一般に思われていますが、流言蜚語というのはある種の法則性であり、主体は関係ないんです。マスコミ効果研究の流れと併せて理解をすると、結局、人間はある種の言葉の自動機械で、伝言ゲームのような情報の歪曲やデタラメ化がどんどん生じるんです。それを継続的に修復するメカニズムが共同体、あるいはスモールグループだった、というのがポール・ラザースフェルド、あるいはジョセフ・クラッパーの議論でした。ところがいまは、その修復装置が事実上、壊れた状態で、デタラメな流言蜚語、つまりポスト・トゥルースがまったく止まらないということです。

    神保: 人々にダイレクトにヒットしてしまうということですね。 
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