マル激!メールマガジン 2020年5月20日号
(発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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マル激トーク・オン・ディマンド 第997回(2020年5月16日)
コロナで露わになる日本の貧弱なセーフティネットの実情
ゲスト:大西連氏(自立生活サポートセンター・もやい理事長)
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 新型コロナウイルス感染症の拡大を防ぐための緊急事態宣言が2ヶ月目に入り、一部の地域では宣言解除の動きが見られるものの、東京、大阪などの都市部では依然として事業者への自粛要請が継続する中、いよいよ経済的な影響が多くの人々の日常生活にも影を落とし始めている。
 政府は一人あたり10万円の特別定額給付金を筆頭に数々の支援メニューだけは用意しているが、いずれもまだ実施には至っていない。各国で直接、間接的な支援が迅速に行われ、コロナへの対応がもっとも遅れていたアメリカでさえ、大人一人当たり1,200ドル(約13万円)、子供には500ドル(5万5,000円)の緊急支援金の小切手が全国一斉に送付され始めているが、日本はまだ布マスク2枚さえ届けきれていない状況だ。
 また、公明党から実施を迫られるなどすったもんだの末辛うじて絞り出した10万円の一律給付金も、ホームレスなど住民票を持たない人は受け取ることができないなど、「最も支援を必要としている人に支援が届かない状況」が常態化していると、生活困窮者を支援するNPO「自立生活サポートセンター・もやい」の大西連理事長は言う。これは今回の支援策に限ったことではないが、大西氏によると政府のコロナ支援策はいずれも、住民登録がないと受けられない建て付けになっているのだそうだ。
 大西氏が主宰するNPOにも、生活困窮者からの相談が激増しているという。特に、住む家を持たない人たちの窮状は深刻で、何らかの公的な給付や助成を受けられるごく一握りの人以外は、生活保護を申請するしかないケースがほとんどだそうだ。
 しかも、人と人の密な関係を否定するコロナの状況は、大西氏のような支援者が困窮者に付き添って自治体窓口に出向くことや、一対一で時間をかけて生活困窮者の相談に乗ることを困難にしているため、支援のハードルがより高くなってしまっている。外出の自粛が要請されている状況下ではボランティアを大々的に募集することもできないし、感染を恐れて炊き出しなども難しくなっている。もっとも、事態があまりにも深刻化し、もはやそんなことを言っている場合ではなくなっているので、大西氏の団体はこの状況下でも炊き出しを実施しているそうだが。
 日本は2000年代に入ってから新自由主義的な政治思想に基づき、社会のセーフティネットを急ピッチで削ってきた。そこにコロナが襲いかかった。大西氏は生活困窮者が置かれている現在の状況は、11年前のリーマンショックの時よりも遙かに悪いと言う。それはコロナの影響が全国的に全ての人の上に降りかかっていることもさることながら、その間、社会のセーフティネットがそれだけ傷んだ結果でもある。
今回のコロナの影響で、これまで困窮者支援を他人事のように見過ごしていた人の中にも、初めて自分自身が困窮者の側に立たされることになった人も多い。日々、現場で支援に奔走する大西氏は、今回のコロナ禍を機に、日本の困窮者に冷たい状況を、何とか少しでもプラスの方向に変えていきたいと抱負を語る。
 コロナの経済的影響、とりわけ生活困窮者への影響と支援の現状について、大西氏にジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が聞いた。

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今週の論点
・生活困窮者支援の現場に見る、リーマンショック以上の惨状
・“本当に困っている人”に支援が届かない、日本の構造
・新型コロナはチャンスにもなり得る
・生活保護を「当たり前のもの」に
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■生活困窮者支援の現場に見る、リーマンショック以上の惨状

神保: 今回はいま非常に忙しいはずで、その忙しいこと自体が問題でもある、認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやいの理事長、大西連さんをゲストにお招きしました。さっそくですが、いま現場でみなさんは相当忙しくしているところですか。

大西: そうですね。通常時の倍くらいの相談が来ています。例えば、東京でネットカフェが休業要請のため閉まっており、その影響で居場所に困っていたり、日雇いや派遣で働いていて、仕事と住まいを失って相談に来る人が大勢います。

神保: なるほど。本当に街が死んだようになっているので、アルバイトをしていた学生や外国人を含め、あらゆる人たちが困っているということは容易に想像がつくのに、外を出歩くこと自体がナシになっているなかで、そういう実態が可視化されておらず、普通の人には十分に伝わっていないのではと思います。現場で毎日活動される大西さんから見て、過去との比較も含めて現在はどんな状況でしょうか。