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第268号 2018.5.1発行

「小林よしのりライジング」
『ゴーマニズム宣言』『おぼっちゃまくん』『東大一直線』の漫画家・小林よしのりが、Webマガジンを通して新たな表現に挑戦します。
毎週、気になった時事問題を取り上げる「ゴーマニズム宣言」、『おぼっちゃまくん』の一場面にセリフを入れて一コマ漫画を完成してもらう読者参加の爆笑企画「しゃべらせてクリ!」、著名なる言論人の方々が出版なさった、きちんとした書籍を読みましょう!「御意見拝聴・よいしょでいこう!」、読者との「Q&Aコーナー」、作家・泉美木蘭さんが現代社会を鋭く分析「トンデモ見聞録」や小説「わたくしの人たち」、漫画家キャリア30年以上で描いてきた膨大な作品群を一作品ごと紹介する「よしりん漫画宝庫」等々、盛り沢山でお送りします。(毎週火曜日発行)

【今週のお知らせ】
※「泉美木蘭のトンデモ見聞録」…アラーキーこと写真家の荒木経惟が、自身の過去のモデルにネット上で告発され、それに乗じて荒木作品が一部で炎上、バッシングされるという出来事があった。告発したモデル、ひとりは現在47歳の女性で、19歳の時に撮影現場で性的虐待を受けて撮影されたという。もうひとりは15年間ミューズをつとめ、荒木と深い関係にあった女性だ。この問題はどう考えれば良いのだろうか?
※「ゴーマニズム宣言」…今年度から「道徳」が小学校の正式教科になり、国の検定に合格した教科書を使った授業が始まった。4月24日のNHK「クローズアップ現代+」ではその教育現場の密着レポートを放送したが、わしはそこで恐ろしい光景を見てしまった。新人の女教師が教科書の「お母さんのせいきゅう書」という話を使い生徒に教えていたこととは?
※よしりんが読者からの質問に直接回答「Q&Aコーナー」!旧仮名遣いはアナクロニズム?もし自社の社員が問題を起こしても、能力で判断できるもの?過去の自分で「あの時は輝いていたなぁ」と思うことは?若手の男優には興味が湧かないのはなぜ?“あの人”はサイコパスでは??セクハラ問題の福田前事務次官は擁護できるのに、パワハラ問題の富田元議員を擁護する気になれないのはなぜ?…等々、よしりんの回答や如何に!?


【今週の目次】
1. 泉美木蘭のトンデモ見聞録・第79回「芸術家と偏執性~荒木経惟編」
2. ゴーマニズム宣言・第275回「道徳の正式教科化は大丈夫か?」
3. しゃべらせてクリ!・第226回「ぽっくん落ち込み中! 愛の言葉をクリ~!の巻〈後編〉」
4. Q&Aコーナー
5. 新刊案内&メディア情報(連載、インタビューなど)
6. 編集後記




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第79回「芸術家と偏執性~荒木経惟編」

 アラーキーこと写真家の荒木経惟が、自身の過去のモデルにネット上で告発され、それに乗じて荒木作品が一部で炎上、バッシングされるという出来事があった。
 ひとりは現在47歳の女性で、19歳の時に撮影現場で、レイプではないが性的虐待を受けて撮影されたという内容の文章と、その英訳をフェイスブックに投稿。
 もうひとりは荒木作品では世界的に有名な、15年間ミューズ(写真やファッションショーなどでそのブランドの象徴的な女性モデル)をつとめ、荒木と深い関係にあった女性によるブログだ。

 私の感想としては……
 前者の女性は、荒木経惟がどんな作風の写真家なのかを知らないor説明されないまま、マネージャーに騙されて撮影現場に連れてこられたのか、だとしたらそのマネージャーに問題があると思うし、ご本人がなにも知らずに個人モデルに応募してしまったのなら、PTSDに悩まされるほどの苦痛を受けたということだから、ネットに書き込んで私刑を煽るよりは法的な交渉に動いたほうが……と思った。
 しかし、なにしろ個人間のことで事情もはっきりわからないから、なんとも言えない。

 後者のミューズによるブログは、多くの写真ファンが度肝を抜かれた。彼女はてっきり荒木経惟と共に“主体的に作品づくりをしている側の人”だと思われていたからだ。
 個人的には、「愛憎」が絡んでいる話なのかなとは感じた。15年のうち、恋人兼モデルとして幸せで刺激的な時期がどのくらいあったのかは知らないが、荒木の写真への狂気に触れて、扱いに納得がゆかない、でも作品には参加したい、心の底にいびつで複雑な思いがうずめいてしまったのかもしれない。
 そんなに苦痛だったのなら、15年のうち、もっとはやく降りていたほうがよかったのではとも思えてくるし、しかしこれも、個人の関係性と、心のなかの話だから、なんとも言えない。

 写真家にしても、モデル全員を等しく扱っているわけじゃない。相手との親密度や、接している頻度、想いの強さや内容は、写真にそのまま反映されていく。
 一律に、「こうだ」とは言えないところがある。

■アラーキーのこと
「荒木経惟」という写真家の世界について、私が感じていることを綴ってみたいと思う。
 私はアラーキーの写真全部を見ているわけではないが、総じて、あまり好きではない。でもそれは個人の趣味の問題であって、別に「こんな写真撮りやがって」なんて嫌悪したりはしていない。ほかにもっと好きな写真家がいるだけだ。

 右眼を失明しても、写真の右側を黒く塗りつぶした『左眼ノ恋』という作品シリーズを発表したのは「すごいこと考える人だな」と驚いたし、きっと死ぬまで“写狂老人”として突っ走る人なんだろうと思っている。

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 ちなみにこのタイトルは「左眼だけになってもまだエロい」みたいな変態的な意味ではない。オランダ人写真家・エルスケンが1950年代のパリの若者たちの姿を撮った『セーヌ左岸の恋』という超有名な傑作写真集のオマージュになっているというお洒落なものだったりする。

 アラーキーはずいぶん昔から「俺は男尊女卑だ」と言っていた。78歳という年齢を考えても、女性に対しては横柄な物の言い方をするところがある人なんだろう。
 でも、女を縛ってこねくりまわした写真ばかり撮っている人ではない。
 私が写真展で強烈に覚えているのは、ある花の写真だ。展示パネルの一枚だったので、ネット検索しても出てこないが、爛れるように赤黒く、しおれかけた肉厚の花弁と、からからに乾燥してねじくれた土色の葉っぱだった。

 花を見て、「エロい」と感じたのははじめてだった。
 それから、ものすごく悲くてしょうがない、胸のつまるような感情がこみあげてくる不思議な写真だった。

 その写真展で、はじめて、アラーキーが吉原遊郭そばの三ノ輪出身で、実家は、遊女の「投げ込み寺」として有名な浄閑寺の目の前にあったと話すのを聞いた。