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第318号 2019.6.11発行

「小林よしのりライジング」
『ゴーマニズム宣言』『おぼっちゃまくん』『東大一直線』の漫画家・小林よしのりが、Webマガジンを通して新たな表現に挑戦します。
毎週、気になった時事問題を取り上げる「ゴーマニズム宣言」、『おぼっちゃまくん』の一場面にセリフを入れて一コマ漫画を完成してもらう読者参加の爆笑企画「しゃべらせてクリ!」、著名なる言論人の方々が出版なさった、きちんとした書籍を読みましょう!「御意見拝聴・よいしょでいこう!」、読者との「Q&Aコーナー」、作家・泉美木蘭さんが現代社会を鋭く分析「トンデモ見聞録」や小説「わたくしのひとたち」、漫画家キャリア30年以上で描いてきた膨大な作品群を一作品ごと紹介する「よしりん漫画宝庫」等々、盛り沢山でお送りします。(毎週火曜日発行)

【今週のお知らせ】
※「ゴーマニズム宣言」…中高年ひきこもりは、内閣府調査で61万3000人。若年層を合わせれば、日本には100万人超のひきこもりがいるという。中高年ひきこもりは一過性の話題では済まず、もはや、日本の未来を危うくする大問題となっている。ひきこもりをどう社会に復帰させるのか?親はどのように責任を取るべきなのか?表現規制の問題も併せて考えてみる。
※「泉美木蘭のトンデモ見聞録」…レイプ被害を訴える伊藤詩織さんに対して、「女としての落ち度がある」「就職活動のために枕営業をしたが失敗したのでレイプとして訴えた」などと悪意の限りを吐く女がいる。なぜそんな醜悪な女性になってしまったのか?その深層心理とは?今回は、レイプを肯定する女性たちの言動を見ながら、なぜ女性でありながら、女性を貶める役割を担おうとするのかを分析してみたい。
※よしりんが読者からの質問に直接回答「Q&Aコーナー」!なぜ「謝ったら死ぬ病気」に罹ってしまうの?「安倍首相はよくやっている」「民主党政権時よりはずっとマシ」と言う友人をどう説得したら良い?憧れていた漫画家さんと実際に会った時、どんな気持ちになった?なぜ政府は「自己責任論」を執拗に連呼するの?最近の映画のスタッフロール後に続編の予告やオマケ映像が流れることをどう思う?性犯罪者にマイクロチップを埋め込むのは賛成?…等々、よしりんの回答や如何に!?


【今週の目次】
1. ゴーマニズム宣言・第328回「中高年ひきこもりは親の責任」
2. しゃべらせてクリ!・第275回「突進、突撃、総攻撃!茶魔が戦車でやって来た! の巻〈前編〉」
3. 泉美木蘭のトンデモ見聞録・第130回「レイプを肯定する女、嫉妬する女」
4. Q&Aコーナー
5. 新刊案内&メディア情報(連載、インタビューなど)
6. 編集後記




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第328回「中高年ひきこもりは親の責任」

 中高年ひきこもりは一過性の話題では済まない。
 もはや、日本の未来を危うくする大問題となっている。

 51歳ひきこもり男が起こした川崎市の20人殺傷事件に誘発される形で、今度は76歳の 父親が44歳のひきこもり息子を刺殺する事件を起こした。
 息子を殺した熊沢英昭は、農水省トップの事務次官にまで上り詰めた元エリート官僚だった。
 殺害された息子・熊沢英一郎は、都内屈指のエリート校である私立駒場東邦中学・高校へ進むが、同校からは毎年数十人が東大に入るのに対し、英一郎が進んだのは代々木アニメーション学院だった。
 その後、数年おいて流通経済大学に入るなどもしたようだが、結局は定職にもつかず、ネットとゲーム三昧の「ネトゲ廃人」といわれる生活を送っていた。その生活費やゲーム代は全て父親が出しており、1か月のゲーム課金額が32万円にも上っていたらしい。
 英一郎はツイッターで「元農水省トップの父」をしきりに自慢し、「私は、お前ら庶民とは、生まれた時から人生が違うのさw」などと他人を見下し、誹謗中傷する書き込みを繰り返していた。
 一方、母親については「中2の時、初めて愚母を殴り倒した時の快感は今でも覚えている」「愚母を殺したい」「貴様の葬式では遺影に灰を投げつけてやる」などと憎悪をむき出しにしている。
 また、真偽は不明だが「私は肉体は健康だが脳は生まれつきアスペルガー症候群だし、18歳で統合失調症という呪われて産まれた身体。私が1度でも産んでくれと親に頼んだか?」というツイートなどもあり、ネット内では「ヤバい人」として有名だったらしい。

 英一郎はここ10年ほどひとり暮らしをしていたが、近所とゴミ出しのトラブルを起こし、5月末に実家に戻ってきた。するとたちまち両親に対して殴る蹴るの暴行を繰り返すようになり、父親は身の危険を感じたという。
 そして、川崎の事件から4日後の6月1日、家に隣接する小学校の運動会に英一郎は「うるせぇな、ぶっ殺してやる」と騒ぎ、それを注意した父親と口論となった。
 そこで父親は、息子が川崎のような事件を起こすことを恐れ、台所の包丁で胸など10数か所を刺し、殺害した。英一郎が実家に戻ってから、わずか1週間ほど後のことだった。

 ひきこもりなどの自立・更生支援等の事業を手掛け、ジャーナリストとしても活動する押川剛氏が『「子供を殺してください」という親たち』(新潮文庫)という著書を出している。
 押川氏のもとには毎日のように、子供の暴力や暴言に悩む親からの相談や依頼がある。「子供を殺してください」は実際にその中で言われた言葉で、他にも「いっそ子供が死んでくれたら」などという訴えをよく聞くという。
 これは単に「家庭内暴力」の一言で済まされるような問題ではなく、その背景には重度の統合失調症、うつ病、強迫症、パニック症といった精神疾患や、薬物やアルコール、ギャンブル、ネット、ゲームへの依存症や嗜癖、ストーカー、DV、性犯罪などの問題が存在する。
 そして「ひきこもり」も、それらの問題のうちの一つなのである。

 押川氏は同書で「近年、爆発的に増えている」ケースとして、こんな特徴を挙げている。
「年齢は三十代から四十代で、ひきこもりや無就労の状態が長くつづいている。暴言や束縛で親を苦しめる一方で、精神科への通院歴があることも多く、家族は本人をどのように導いたら良いのかわからないまま手をこまぬいている。
 そしてもう一つの典型例は、本人に立派な学歴や経歴がついていることである。中学や高校からの不登校というよりは、高校までは進学校に進みながら、大学受験で失敗した例や、大学卒業後、それなりの企業に就職したが短期間で離職した例が多い。強烈な挫折感を味わいながらも、『勉強ができる』という自負がある」
 熊沢英一郎は、完全な典型例だったのである。
 そしてその根底にある要因を、押川氏はこう指摘する。
「その生育過程においては、親からの攻撃や抑圧、束縛などを受けてきている。過干渉と言えるほどの育て方をされる一方で、そこに心の触れ合いはなく、強い孤独を感じながら生きてきたのだ」
「常に緊張を強いられ、安心感を得ないまま大人になったような子供が、受験や就職の失敗により人生を見失ったとき、その怒りは親に向かう」

 結局のところ、問題行動の原因は「親の愛情不足」に尽きるようだ。
 生まれてこの方、この世には愛情や信頼で成り立つ人間関係があるということを知らない。「支配・被支配」の関係しか知らない。相手を攻撃する、束縛する、支配するというコミュニケーションの取り方しか知らない。
 当然、そんな人間はどこへ行っても嫌われ、孤立する。それでひきこもりになって、自分が何もかもうまくいかないのは親のせいだと、憎悪の念を持つようになるのだ。
 押川氏は「子供の頃に親からされたことに、今になって仕返しをしているのではないかと思うほどです」と記している。

 自分が子供に愛情をかけず、モンスターに育ててしまったのだから、そいつが他人の子供を殺す前に自分で始末をつけるというのも、子育てに失敗した親のひとつの責任の取り方として、わしは肯定する。
 ところが、メディアではそんな意見は言ってはいけないことにされていて、「どんな理由があろうと、殺してはいけない」という意見しか許されないような状態になっている。