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甲斐良治:「小は大を兼ねる」――日本的転換で危機を希望に転じる
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甲斐良治:「小は大を兼ねる」――日本的転換で危機を希望に転じる

2008-12-30 13:12
    ■「100年に一度」の危機

     世界を震撼させている現在の金融危機は、「100年に一度」の危機だという。ならばただ不安におののくだけでなく、新年を迎えるにあたって100年の単位で歴史を見直してみてはどうだろう。

     ちょうど100年前の1909(明治42)年2月から7月にかけ、日本、朝鮮、中国の農村を旅した米国人土壌物理学者F・H・キングは、東アジア農業の自給力と永続性に驚嘆するとともに、自国の農業・文明をふり返って「人間は、この世の中で最も法外な浪費の促進者である。人間は、その及ぶ限りの、 あらゆる生物の上に破壊作用をふるい、人間自身もまたその災厄を免れまい」と記した。1911年に米国で出版されたその著書“Farmers of Forty Centuries Or Permanent Agriculture In China, Korea And Japan”の邦訳は、戦時下の1944(昭和19)年に『東亜四千年の農民』として奇跡的に出版された。訳者の杉本俊朗氏はいま95歳でご健在で、なお かつ新年1月に農文協から『東アジア四千年の永続農業』として復刊される同書の校閲をされたほどお元気である(戦後横浜国大の教授を務められた杉本氏はマ ルクスの『経済学批判』やエドガー・スノーの『中国の赤い星』の訳者でもある)。

     名著『逝きし世の面影』の著書・渡辺京二氏は、このキングの著書について以下のように述べている(以下引用文は「増刊現代農業」2009年2月号『金融危機を希望に転じる』より)。
     
    「キングは土壌から作物を育てる養分を流出するに任せ、代わりに大量の化学肥料を投与して産出を維持するアメリカ農業との対比において、水を活用し、生活の生み出す廃物を土壌に還元することによって、永続的な耕作を可能にしてきた東アジアの農業の特性を高く評価した」
    「古代メソポタミアの事蹟を思い返すまでもなく、人類が農業を営んだ土地はやがて土壌が涸渇して荒廃に帰す場合が多かった。キングは当時のアメリカの農地についても同じ危惧を抱いていた。彼にとって、同一の土地でかくも長期間農耕が継続するにはなにか秘密がなければならなかった。しかも東アジアの農業は 長期に持続したというだけでなく、それによって、稠密な人口を維持してきた実績があった」
     「キングは自然に適応し、自然に過大な負荷をかけずにすむ範囲で生活を成り立たせる節約の精神に出会ったのだった」
     
     しかし戦後日本の農政は、東アジア農業の歴史的文脈に沿った発展の方向ではなく、むしろキングが危惧した資源浪費的傾向を強くもつ米国農業に範を取り、構造政策=多数の小規模経営を淘汰し、大規模経営中心の農業構造に再編する政策をとった。

    ■100年前の日本農業は規模縮小の“終点”

     だが農政がめざした「経営規模5ヘクタール以上の大規模層」は容易には増加しなかった。1990年に2万6000戸であった同層がようやく4万 3000戸に増えたとき(2000年センサス)、構造政策が本格的にすすみだした証拠と受けとめられた。しかし、京都大学農学研究科教授の野田公夫氏は以 下のように指摘する。

    「梶井功は、『5ヘクタール以上層が増えたといっても、その実数は経営規模別統計をとりはじめた最初の年である1908(明治41)年水準に追いつ いただけにすぎない』という、まことにショッキングな事実を指摘した。『梶井ショック』とは、この指摘を『目からうろこ』の思いでうけとめた私の造語であ る」

    「より長いタイムスパンでみつめるとさらに驚くべき事実が判明する。三橋時雄によれば、日本近世の農業生産力発展は経営規模の縮小をともなっていた (これを近世農業経営規模縮小論とよんでいる)。比較対象となった1908(明治41)年に大経営戸数がとくに多かったわけではなく、むしろ江戸時代から 明治にかけて続いた農業経営規模縮小の“終点”でもあった」

     キングが驚嘆した100年前の日本農業の自給力と永続性は「小さい農業」だからこそ達成されたものだった。

    ■石油と自動車の100年

     2008年は石油の価格が激しく乱高下し、ビックスリーばかりか日本のトヨタまで赤字転落した年だった。この100年はまた、石油と自動車の100年でもあった。『大江戸エネルギー事情』などの著者、石川英輔氏は以下のように述べる。

     
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