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田中良紹:国会の存在が希薄さを増す日本政治を見せられている
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田中良紹:国会の存在が希薄さを増す日本政治を見せられている

2014-06-22 22:08
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第186通常国会が6月22日に閉幕した。閉幕したと言われても「開かれていたのか」と思うほど印象の薄い国会である。始まる前は「好循環実現国会」と位置付けられ、アベノミクスの「第三の矢」を巡って議論が交わされると国民は思わされていたが、蓋を開ければ集団的自衛権の行使容認を巡る議論しか印象に残らない。

それも安倍総理の私的な諮問機関が作成した案を与党の中で議論し、続いて公明党を入れた協議が進行していただけで、国会が主要な議論の舞台ではない。国会では野党が与党内部の議論を横からつついていたに過ぎない。国家の基本にかかわる問題で、国権の最高機関である国会が脇役になっている状態を我々は見せられている。

昨年の臨時国会も安倍政権は「成長戦略実現国会」と位置付け、しかし蓋を開ければ「日本版NSC」と「特定秘密保護法」を巡る議論に終始した。ただこの時は法案が国会に上程され、論戦の主舞台は国会であった。最後は強行採決によって成立する様を国民は見ることが出来た。

経済を前面に掲げて国民生活に関わる国会だと思わせながら、実際は安全保障に関わる問題を多数決によって強行する政治を国民は見たのである。しかし今回はそうした事でもない。議論の主舞台でもない国会はますます存在感を薄め、政治の中心的な役割から外されていく印象である。

昨年成立した「日本版NSC」も「特定秘密保護法」も民主主義の基本に反する法律であった。何が議論され、何が秘密にされたかを主権者である国民は全く検証できない。国民に永久に秘密にするというのは欧米の民主主義では絶対に許されない。しかし日本ではそれが強行可決された。

しかも恥ずかしいのは、強行可決の後で与野党の国会議員が欧米に視察に行き、「日本版NSC」と「特定秘密保護法」がいかに欧米とは異なるかを勉強してきた事である。従ってこの通常国会はまず冒頭で「日本版NSC」と「特定秘密保護法」の再検証から始めなければならなかった。

民主党は通常国会の前に「特定秘密保護法を廃案にする」と息巻いていたが、民主党の言うようにはならず、しかも議論は国民に十分明らかにされなかった。今国会で行われたのは「特定秘密」を監視する機関を衆参両院に作る「国会法改正案」を成立させた事だ。ところがその機関は政府に対し強制的に情報提供させる権限がない。従ってないも同然の機関を作るのである。

「国会法改正案」は会期末ぎりぎりに成立した。会期末ぎりぎりというのは時間をかけて議論したためではない。法案が提出されたのが5月末、自公に加え日本維新の会、結いの党、みんなの党の共同提出であった。従ってろくな審議をしなくとも成立は目に見えている。実際参議院では7時間しか審議せずに法案は成立した。

欧米の議会は政府を監視するためにある。国民から集めた税金を行政府が適正に使っているかを監視するのが議会の役目だからである。また国民の税金を預かっている政府には「説明責任」がある。政府が内部の議論を秘密にし、決定した事を秘密にすることは許されない。

ただ国民の生命が脅かされたり、外国との交渉に影響が出る情報は一時的な秘匿が認められる。しかしその場合でも妥当性をチェックする必要はある。欧米ではそのチェックを与野党の国会議員が行う。議員は秘密を守ることを義務付けられるが、そのチェックがなければ民主主義は民主主義にならない。

それを学んできた筈の我が国の国会議員が作成したのは、「三権分立であるから行政府の権限も尊重されなければならない」として強制的に情報提供させる事をしない法案であった。日本の議員は「三権分立」の意味をまるで分かっていない事が分かったが、それが「監視のフリ」だけする機関を作るのである。

昨年の暮れに日本から視察に来た議員たちを迎え、欧米の事情を説明したドイツ、イギリス、アメリカの議会関係者が「国会法改正案」の成立の経緯を知ればおそらく愕然とするだろう。そして日本の民主主義の未熟さを蔑むことになると思う。

私がこの国会の重要な課題だと思っていた「日本版NSC」と「特定秘密保護法」の再検証は、こうして国民の目にさらされないまま、民主主義とは真逆の方向を向く事になった。

最も国民の印象に残ったと思われる集団安全保障を巡る議論も、議論と言うより安倍総理が言いたいことを言い募るだけで野党とかみ合わず、同じことの繰り返しを見せつけられた。通常国会の表看板であったアベノミクスも、ロンドンで安倍総理が「日本に投資を」と呼びかける姿が私の印象に残るだけで、国会とは異なる場所での発信が多い。

最も民主的と言われたワイマール憲法下でヒトラーは43%の得票率しかなかったが、連立によって政権を獲得すると、「全権委任法」を成立させて国会を無力化し、それから先はマスメディアを操って国民の熱狂的支持を取り付けていった。

今の国会の存在感のなさは「全権委任法」成立後のドイツを思わせる。安倍自民党も43%の得票率で政権を奪還したが、全有権者に占める得票率はわずか24%である。24%の支持しかないのに国会が無力化するというのでは情けないとしか言いようがない。

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■《甲午田中塾》のお知らせ(7月29日 19時〜)

田中良紹塾長が主宰する《甲午田中塾》が、7月29日(火)に開催されることになりました。詳細は下記の通りとなりますので、ぜひご参加下さい!

【日時】
2014年 7月29日(火) 19時〜 (開場18時30分)

【会場】
第1部:スター貸会議室 四谷第1(19時〜21時)
東京都新宿区四谷1-8-6 ホリナカビル 302号室
http://www.kaigishitsu.jp/room_yotsuya.shtml
※第1部終了後、田中良紹塾長も交えて近隣の居酒屋で懇親会を行います。

【参加費】
第1部:1500円
※セミナー形式。19時〜21時まで。

懇親会:4000円程度
※近隣の居酒屋で田中塾長を交えて行います。

【アクセス】
JR中央線・総武線「四谷駅」四谷口 徒歩1分
東京メトロ「四ツ谷駅」徒歩1分

【申し込み方法】
下記URLから必要事項にご記入の上、お申し込み下さい。21時以降の第2部に参加ご希望の方は、お申し込みの際に「第2部参加希望」とお伝え下さい。
http://bit.ly/129Kwbp
(記入に不足がある場合、正しく受け付けることができない場合がありますので、ご注意下さい)

【関連記事】
■田中良紹『国会探検』 過去記事一覧
http://ch.nicovideo.jp/search/国会探検?type=article


<田中良紹(たなか・よしつぐ)プロフィール>
 1945 年宮城県仙台市生まれ。1969年慶應義塾大学経済学部卒業。同 年(株)東京放送(TBS)入社。ドキュメンタリー・デイレクターとして「テレビ・ルポルタージュ」や「報道特集」を制作。また放送記者として裁判所、 警察庁、警視庁、労働省、官邸、自民党、外務省、郵政省などを担当。ロッキード事件、各種公安事件、さらに田中角栄元総理の密着取材などを行う。1990 年にアメリカの議会チャンネルC-SPANの配給権を取得して(株)シー・ネットを設立。

 TBSを退社後、1998年からCS放送で国会審議を中継する「国会TV」を開局するが、2001年に電波を止められ、ブロードバンドでの放送を開始する。2007年7月、ブログを「国会探検」と改名し再スタート。主な著書に「メディア裏支配─語られざる巨大メディアの暗闘史」(2005/講談社)「裏支配─いま明かされる田中角栄の真実」(2005/講談社)など。
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現在の野党の取りまとめ役は、少なくとも民主党にない。民主党は明らかに自民党応援団と野党的考えかたの二つの集団が併存してある。なんで一緒にいるのか分からない。労働組合と日教組を選挙母体にしているので、自ずから方向が右左二方向を目指しているといえます。維新は分裂したが、橋本氏は、「政権党に是々非々で行く」といっている。当たり前のことをマットもらしく全面に出しています。この人の思想の根本は自民党であるが、弁護士的思考は国民目線に立たねばならず、二方向を目指すことになってしまう。万年野党に徹するのであれば、その考え方も是認できるが、政権を取ろうとしたら、政権批判に徹しなければ獲得できるはずがない。現在の社会的風潮であろうが、皆中流以上の意識で、政権に従うのが当たり前の意識が蔓延しているが、その中流意識は、国の大きな借金、会計年度も半分は借金で成り立っており、会計年度の借金を正常に戻せば、ほとんどの人が生活に困窮することになるのでしょう。いつ壊れるかわからない基盤の上に現在の生活が成り立っていることを考える思考が必要なのではないか。野党が野党らしくできないのも同じで恵まれすぎているのです。皆が皆平和ボケしているのです。

No.1 124ヶ月前
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