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マクガイヤーチャンネル 第76号 【ピクサーの目からみたスティーブ・ジョブズ(後編)】
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マクガイヤーチャンネル 第76号 【ピクサーの目からみたスティーブ・ジョブズ(後編)】

2016-07-18 07:00
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    マクガイヤーチャンネル 第76号 2016/7/18
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    連休でほっと一息なマクガイヤーです。

    皆様、『ポケモンGO』はプレイする予定しょうか?

    『Ingress』をプレイしていたこともあり、『ポケモンGO』のβテストに参加していた人たちの感想を早くから聞いていました。

    そのどれもが「微妙」「子供やポケモンファンにとっては面白いかもしれないけど、おれはやらない」「『Ingress』の方が良い」というものばかりでした。

    それがこんなことになるなんて……一生の不覚です。何故、任天堂の株を買っておかなかったのかと、一週間ちょっと前の自分をビンタしたい気持ちでいっぱいです。やっぱり、アーリーアダプターというのは文句ばっかり言うものなのですね。


    マクガイヤーチャンネルの今後の予定は以下のようになっております。



    ○7/26(火)20時~

    「最近のマクガイヤー 2016年7月号」

    いつも通り、最近面白かった映画や漫画について、まったりとひとり喋りでお送りします。

    『ポケモンGO』

    ・最近の選挙

    ・最近の天皇陛下

    『スーパーロボット大戦OG ムーンデュエラーズ』とジンクピリチオン効果

    『インデペンデンス・デイ:リサージェンス』

    『ファインディング・ドリー』

    『存在する理由 DOCUMENTARY of AKB48』

    『KINGSGLAIVE FINAL FANTASY XV』

    その他、いつも通り、最近面白かった映画や漫画、気になったトピックについて、まったりとひとり喋りでお送りします。



    ○8/11(木)20時~(仮)

    「『シン・ゴジラ』とは何か(仮)」

    7/29より期待の怪獣映画『シン・ゴジラ』が公開されます。

    日本製作のゴジラシリーズとしては12年ぶりであり、総監督・脚本は『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』を中断して参加する庵野秀明です。また、監督・特技監督を『平成ガメラ』シリーズや『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN』で腕を奮った樋口真嗣が務めます。特撮博物館や、そこで上映された『巨神兵東京に現わる 劇場版』のコンビが、ギャレス版『GODZILLA ゴジラ』後の日本版『ゴジラ』を作るわけです。日本映画界におけるこの夏最大の話題作といっていいでしょう。

    そこで、いったい『シン・ゴジラ』とはどういったものかについて語りたいと思います。

    是非とも『シン・ゴジラ』を鑑賞後にお楽しみ下さい。



    ○8/16(火)20時~(仮)

    「マイナー生物大バトル(仮)」

    先日ゲストとして漫画家 山田玲司先生が主催する山田玲司チャンネルに出演しました。

    先生は『Bバージン』『絶望に効くクスリ』『ゼブラーマン』などの著作でお馴染みですが、先生は『Bバージン』の後半や『ドルフィンブレイン』でもお分かりの通り、生物に造詣の深い方でもあります。

    そこで8月スペシャル番組として、山田玲司先生をお迎えして生物について2時間たっぷりお話することになりました。

    山田玲司先生をお迎えするのに漫画のことを全く語らないこの贅沢さに驚け!



    ○8/21(日)20時~

    「夏休みスペシャル ドクターのお宅訪問!」

    毎年恒例となっておりますこの企画。

    いつもはワニスタからお送りしている当番組ですが、夏休みで家族がいない隙を狙って、マクガイヤー家から生放送でお送りします。

    スタッフとアシスタントは暑さに耐えられるのか?

    昨年と比べて玩具はどれくらい増えたのか?

    ダサいTシャツはどれくらい出てくるのか?

    乞うご期待!




    番組オリジナルグッズも引き続き販売中です。

    マクガイヤーチャンネル物販部 : https://clubt.jp/shop/S0000051529.html

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    思わずエナジードリンクが呑みたくなるヒロポンマグカップ

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    いつもイラストを描いて頂いているアモイさん入魂の一品、キヨポンマグカップ

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    情報量が多すぎる印南マクガイヤー善一TENGA Tシャツ

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    マクガイヤー・ウォーズTシャツ

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    ワレカラ・エイリアン・ウォーリアー


    ……等々、絶賛発売中!




    さて、今回のブロマガですが、前回の続き――スティーブ・ジョブズについてです。



    スティーブ・ジョブズ、エド・キャットムル、アルヴィ・レイ・スミスのおっさん3人がハグをしあい、こうしてピクサー・アニメーション・スタジオ社が1986年に設立されました。


    自分がジョブズのことを知ったのは、この数年後、高校生の頃だったかと思います。

    友人の家にMacintosh LCが置いてあり、めっちゃ自慢されたのです。

    自慢話の中には、ジョブズとウォズによるガレージでの創業、ジョブズがスカリーを口説き落とした名文句、自分が作った会社を追放されたジョブズ……というような、一連のアップルの社史までついてきました。今やられたら、ウザすぎてたまったものではありません。

    パソコン好きな友人は沢山いましたが、だいたい持っているのはPC-98で、ぽつぽつとFM TOWNSやX68000ユーザーがいた時代です。値段が1.5倍ほど違うMacを持っていた友人に対する非難は決まって「Macじゃエロゲーできねーだろ!」というものでした。何もかもみな懐かしい。


    断言しても良いのですが、その時のジョブズに対するパブリック・イメージは「あまりにもエキセントリックすぎてアップルを追い出された人」というものでした。

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    『電脳なをさん』は1993年からEYE-COM、週刊アスキー、cakesと、掲載誌を変えて20年以上連載されている漫画です。この漫画のジョブズがどうかしてるのは、「唐沢なをきの漫画だから」という理由だけではなくて、この頃からジョブズを知っている人のイメージがこうだからなんですよ!

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    ジョブズの「どうかしてるぜ!」エピソードは枚挙に暇がありません。


    曰く、「菜食主義だから身体が臭くならない」という理由で風呂に入らない。

    曰く、ストレス解消として裸足の足を便器に突っ込んで洗う。

    曰く、どんなに金持ちになっても穴の開いたジーンズと黒Tシャツとニューバランスで過ごす(その後、黒のタートルネックに変わる)

    曰く、エレベーターで「君はこの会社のために何をしている?」と突然問いかけ、その場で答えられなかった社員をクビにする。

    更に、「マリファナを吸ったことあるか?」と突然問いかけ、その場で答えられなかった社員をクビにする。

    曰く、アップルから追い出された直後、スペースシャトルの搭乗員募集に応募する。

    曰く、採用面接で「君は童貞かい?」と聞く。

    更に、大学の講演で学生たちに「君たちの中で童貞や処女はどれくらいいるのかな? LSDをやった経験のある者は?」と聞く。

    曰く、車にナンバープレートをつけたくないため、半年ごとに同じモデルの車を買い替える(カリフォルニアの法律では購入から半年以内にナンバープレートをつければ良いと定められている)。更に、身障者用のスペースに駐車する。

    曰く、膵臓癌と診断されたら、民間療法で完治を図ろうと試みる。更に、超能力者にまで相談する。その後、自分の癌を治療する医療チームを結成するも、分子標的薬をパワポで説明しようとする医師に激怒する……


    ジョブズの弁護士が(ジョブズを守る立場であるにも拘らず)キャットムルたちに「スティーブ・ジョブズ・ローラーコースターにのる覚悟が必要だ」と忠告するのも頷けます。



    だから、2011年に亡くなって以降、ジョブズが「偉人」として持ち上げられていることに抵抗があったりします。


    娘とよく行く図書館に、野口英世やヘレン・ケラーと並んでジョブズの偉人伝が並べられていたのを見た時には、爆笑してしまいました。しかも漫画版! 当然、ジョブズのLSD体験も、娘であるリサの認知を拒否しまくっていたことも書かれていません。

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    その後、若干BL風味がするヤマザキマリの『スティーブ・ジョブズ』や、まるでATフィールドのような「現実歪曲フィールド」を使う『スティーブズ』が発表されます。伊達政宗が眼帯から「独眼竜ビーム」を放つ『戦国無双』や、芥川龍之介が「羅生門」というスタンド(みたいなもの)を使いこなす『文豪ストレイドッグス』まであとちょっとですね!



    ……そんなわけで、キャットムルとアルヴィは、パトロンであり、上司であるジョブズに対して注意深く接し続けました。なにしろトイストーリーがヒットするまでのピクサーは赤字続きだったので、ジョブズとの関係性を悪化させるわけにはいかなかったのです。

    ただ、当初のジョブズはネクスト社の運営で忙しかったので、ジョブズがピクサーにやってくることはほとんど無かったそうです。

    代わりにキャットムルとアルヴィが定期的にNEXTに赴き、状況を報告するわけですが、ここでまた出てくるのが「現実歪曲フィールド」です。

    たとえば『偶像復活』にはこんなふうに書かれています。

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    いつも同じことがおきるのだ。スティーブの前に座り、簡単な挨拶のあと、プレゼンテーションに入る。でも、スティーブの頭の中には何か別の話題がある。言葉の途中でスティーブが割って入り、プレゼンテーションとは別のことについて質問する。引きずられるのはアルビーだったりエドだったりと場合によって違うが、話がまったく違う方向にずれてしまうことにかわりはない。ひきずられなかったほうは、なすすべもなく座って見ているしかなかった。

    仕方がないので、ふたりのあいだでサインを決めたとアルビーは言う。まずい方向に引き込まれてしまったら、もうひとりが自分の耳を引っぱって知らせることにしたのだ。この程度のことで、準備した話にスティーブを引き戻せると考えたわけではない。でも、たぶらかされたうぶな女性が兄に諭され、我に返るように、自分がいつのまにか魅入られ、どこかに連れて行かれてしまったと気づかせることはできるというわけだ。

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    前回紹介したキャットムル自身が書いた本『ピクサー流 創造するちから』でも、こんなふうに書かれています。

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    正直言ってこの会合は楽しいものではなく、腹立たしいことが多かった。ピクサーを黒字にする方法がなかなか見つからず、破綻せず創業を続けるにはスティーブのお金を頻繁に必要とした。スティーブはそうした出資にときおり条件をつけようとし、それ自体はもちろん理解できるが、新しい製品のマーケティングであれエンジニアリングであれ、彼の言う条件がつねに現実離れしていたため、話が複雑になった。このころはとにかく会社を黒字化するビジネスモデルを探していた。いつも次に試すことが今度こそうまくいくと信じたのもしかたなかった。

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    とにかく創業当時のピクサーは、収益が出なくて苦労していたそうです。

    1998年、最初のリストラが行われます。ピクサーもネクストも激しい資金流出が続いていたのに、ほとんど収益が無かったのです。

    ピクサーの財産は人材です。そもそもルーカスフィルムから独立したのも、解散よりも独立を、ジョブズによる買収を選んだからでした。文字通り、身を切るような会議を行い、切る人材とプロジェクトを選び、数十万ドルの予算を削減します。

    『偶像復活』では、この時のことが生々しく書かれています。


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    会議は数時間も続いた。「あんなに厳しい会議はなかった」と、参加者のひとりは語る。全員、腹にナイフを突き立てられたような気がしていた。

    ようやく検討が終わると、スティーブは「これで終わりかな?」と言って立ち上がりかけた。議題はもうひとつあった。5ヵ月後のシーグラフで公開する短編アニメを作るため、資金が必要だったのだ。

    (中略)コンピュータとCGソフトウェアが売れれば、資金流出という苦境が少しは楽になるはずだった。次のシーグラフにも、大勢の見込み客が、ピクサーグループのすばらしい短編アニメを見ようと集まるはずだ。見せられるものがなければ、ピクサーに問題がおきているんじゃないかと思われてしまうし、ソフトウェアにも疑問の目が向けられるおそれがある。それでは、製品を発表する前から販売に暗雲がたちこめてしまう。

    しかし、たった今、身を切るような思いで議論し、数十万ドルの予算を削減したばかりなのだ。同規模の予算を、短編アニメの制作費としてスティーブに要請できるのか? こんなタイミングで資金を要求するなんて……うつむいたままで、口を開く者はいなかった。ようやくビル・アダムスが口を開く。短編アニメについて「これはどうしてもやらなきゃいけないんです」と言って、準備中のソフトウェア製品を売るために必要だという理由を説明した。

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    ジョブズは熟考した後、「絵コンテはあるのか?」と答えます。会議に出席していたメンバー全員でラセターの部署に赴き、絵コンテを見て、ジョブズは感心します。資金の工面も請け合います。

    こうして『ティン・トイ』は製作され、アカデミー賞短編アニメーション部門を受賞します。当然、ジョブズ含めて皆が大喜びです。ピクサーは注目され、後のディズニーとの契約や『トイ・ストーリー』の製作にも繋がります。


    ビル・アダムスに感謝したラセターたちは、製作資金を切り出した人物として『ティン・トイ』のエンドロールに販売マーケティング担当であるにも関わらず名前を載せています。


    の4:58あたりで、”Very Special Thanks”にビル・アダムスの名前を確認できます。

    もっとも、その下の”Very, Very Special Thanks”にジョブズの名前もあるのですが。


    1991年初頭、ジョブズはディズニーと映画の共同製作――後の『トイストーリー』です――の契約をとりつけると共に、ピクサーの従業員の1/3をリストラしました。更に、従業員が保有していた株も取り上げました。

    シリコンバレーの会社は、従業員のやる気を引き出し会社に引き止める手段として、ストックオプションや株式の付与をよくやります。ピクサーがやっていたのは後者ですが、ジョブズはピクサーに引き続き資金を投入する代わりに、従業員の株をすべて引き取る――会社の存続を人質にして、従業員から株を取り上げたのです。なにしろジョブズは92%も出資していて、株の保有率もそれに応じたものだったので、会社を書類上閉鎖して、その株式をジョブズの完全所有する新会社「新ピクサー」に譲渡するという、魔法のようなやり方も可能でした。この出来事は、シリコンバレーの企業家による権利の濫用の典型例として、教科書にまで載ったそうです。当然、アルヴィもキャットムルもルーカスフィルムからの分離独立時――3人のおっさんがハグした時に得た株を失いました。


    興味深いのは、アルヴィとキャットムルのジョブズに対する評価の違いです。

    『アップル・コンフィデンシャル』で、アルヴィは当時のジョブズに対して「だれかが5000万ドルの小切手を持ってやってきたら、ジョブズはその場で我々を売っていただろう」と答えています。5000万ドルというのは、ジョブズがそれまでにピクサーに注ぎ込んだ額です。


    一方で、こんなことまでされてもキャットムルはキャットムルなりに、ジョブズに好意的です。


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    一九八七年から一九九一年までの間に三度、業を煮やしたスティーブ・ジョブズはピクサーを売ろうとした。それでいて、その苛立ちや失望にもかかわらず、結局我々を見捨てる最後の踏ん切りがつかないのだった。マイクロソフトが九〇〇〇万ドルで買収を申し出たときも、うんと言わなかった。一億二〇〇〇万ドル要求していた彼は、その申し出が侮辱的であるばかりか、同社が自分たちにふさわしくない証拠だと考えた。(中略)そのうち私は彼が本当に欲していたのは出口戦略よりも外部の評価ではないかと考えるようになった。彼の理屈はこうだ。マイクロソフトが九〇〇〇万ドル出すつもりがあるのだから、手放すのはもったいない。そんな芝居は見ていて辛く、気力を奪われた。

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    「だれかが5000万ドルの小切手を持ってやってきたら、その場で我々を売っていた」

    「マイクロソフトが9000万ドルで買収しようと申し出ても売らない」

    どちらが正しいのか、自分には分かりません。もしかして終生のライバルであったビル・ゲイツの会社でなかったら、売っていたかもしれませんし、キャットムルが言っている「芝居」は本音かもしれません(ピクサーの副社長であるパム・カーウィンは、ジョブズの変節の理由について、ジョブズがピクサーの内部で何か重要なことが起こりつつあることに本能的に気づいたせいなのではないかと語っています)。


    ただ、二人の違いは、やはり、キャットムルはジョブズが死んだ今でもピクサーに残っているのに対し、アルヴィは早々にジョブズと喧嘩して辞めたことにあるのでしょう。


    『偶像復活』では、ジョブズには会議中のホワイトボードに対する執着があり、アルヴィがジョブズに断りなくホワイトボードを使ったという理由で大喧嘩した――というようなことが書かれています。

    『ピクサー 早すぎた天才たちの大逆転劇』ではもっと詳細です。


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    状況をさらに緊迫させていたのが、ジョブズとスミスが性格の不一致から一触即発状態になっていたことだった。ジョブズは一目置いている従業員の反論なら、ある程度は受け止めた。だがスミスはジョブズの忍耐の限界に、誰よりもためらいなく近づいていったように思われる。スミスはキャットムルと自分が、ジョブズの雇い人だけでなく、パートナーであり、対等な存在だと考えていた。

    (中略)

    スミスに言わせれば、ジョブズは「目標に届かないと言っていつもエドと俺にくってかかり、それから小切手を書いて、ともかく支払ってくれた。だが心底とっちめられた。罵倒されまくりだった」。

    こうした会合の一つで、ジョブズとスミスはとうとう制御不能に陥った。ジョブズが、プロジェクトの納期を逃したことでピクサーの経営陣を責め立てると、スミスが口を挟んだ。「スティーブ、君だって回路基盤が間に合わなかったじゃないか」――つまり、ネクスト・コンピュータの回路基盤である。

    いつものジョブズならこらえたかもしれないひと言だったが、ジョブズのコンピュータをからかったことで、スミスは一線を越えてしまったようだ。「スティーブは完全に予測不能(ノンリニア)になった」とスミスは語る。「逆上して、俺の訛りを馬鹿にし始めた」

    (中略)

    「だから俺も予測不能になった。あんな風になったのは、後にも先にもあの時だけだ」スミスは言う。「お互いにどなり合い、二人の顔は一〇センチと離れていなかった」

    ジョブズのオフィスにあるホワイトボードは、彼の心理的な縄張りだという暗黙の了解があった。誰もそれに書いてはならない。にらみ合いが続いた後、スミスは挑戦的に彼の前をずかずか通り過ぎ、ホワイトボードに何やら書き始めた。「そこに書いちゃだめだ」ジョブズは制した。スミスがなおも書き続けると、ジョブズは激怒して、部屋から出て行ってしまった。

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    糞を投げ合うような喧嘩とは、まさにこのことです。先に書いたジョブズの「ピクサー従業員の株取り上げ事件」はこの後の出来事だそうです。今や偉人とされているジョブズがこのような子供じみた喧嘩をしていたことに驚く人もいるかもしれません。更に、ジョブズは、スピーチからもインタビューからもピクサーのウェブサイトからもアルヴィの名前を消去し、歴史を書き換える一大キャンペーンまで推進します。


    『偶像崇拝』よりも評価の高い『アップル・コンフィデンシャル』でもアルヴィはこんなふうに語っています。


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    ジョブズは(出資というきわめて重要なことを除けば)……会社には一切関与しなかった。ところが、何年も経って『トイ・ストーリー』がオンライン化されるという時になって、いきなり割り込んできたと思ったら、アニメの製作の真っ最中だというのに(エドから)社長の座を奪い取った」

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    ですが、本当に愕くべきことは他にあります。なんと、キャットムルが書いた本『ピクサー流』では、アルヴィが辞めたことについてまったく触れられていないのです。

    ただの一行も!



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