「「戦わなくていい」ということは本当に素晴らしいことなんだ」
弱いなら弱いままで。
それは時の彼方の物語である。いまを去ること六百年の昔、遥かな国の出来事。すべては、ひとを超越し、万象を俯瞰する超越者の気まぐれから始まる。「かれ」はその国で暮らしていた十六の羊飼いの少女に、万能の力を与えたのだ。天候をも操り、矢尻をも跳ね返す無敵の能力。
そのとき、少女はその力を決して己のために使おうとはせず、ただ荒廃した祖国を復興させるためだけに使うことを決意した。そうして少女は百年戦争を祖国の勝利に導いた。聖女ジャンヌ・ダルク。人類の歴史上、超越者から与えられた力を私利私欲のために使わなかったただひとりの存在。
しかし、運命はなお過酷な試練を彼女に課す。ジャンヌの力を恐れた王侯たちは彼女を火刑台に追いやったのだ。ひとに絶望したジャンヌはその運命を受け容れる。自分を「主」の身元に。それだけが彼女が望みだった。
ところが、ジャンヌが「主」と仰ぐ全能の存在は、彼女の死を望まなかった。かれは六百年もの時を超え、彼女を現代日本によみがえらせる。そこは人類の歴史上、最も「平和」という概念に近い国。水の森ジャンヌ。それが新たに彼女に与えられた名前。少しずつ崩れていく平和のなかで、ジャンヌの再生の一年間が始まる。
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