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 平坂読の最新作『妹さえいればいい。』をくり返し読み返している。

 面白いなー。面白いなー。

 一般文芸とはまったく異なるライトノベル特有の世界なのだけれど、ぼくとしては非常にしっくり来る。

 作中では主人公がAmazonレビューを罵倒していたりもするのだが、じっさい、この小説のAmazonレビューを見ると「まあ、罵倒したくもなる気持ちもわかるよな」と思えて来る。

 もちろん、普通に読んで評価している人もいるのだけれど、ひとつ付けているレビュアーとか、あきらかに本編を読んでいないものなあ。

 まさに「アマゾンレビューは貴様の日記帳ではない!」といいたいところ。

 一方で「小ネタの連続ばかりでストーリー性が薄すぎる。その割には変な商売っ気だけはやたらと豊富」という★★の評価もあって、これは非常によく理解できる。

 普段からライトノベルを読みなれていない人が読むとこういうふうに思うだろうな、と。

 ただ、ある程度この手の小説に慣れている人間から見ると、やはりいくらか筋違いに思えるのもたしか。

 「普通の小説であれば、おそらく必要不可欠の要素である一冊の本を通してのストーリーと言うべき物が全く無いのである」ということなのだが、すいません、平坂読の作品は「普通の小説」ではないのです。

 『妹さえいればいい。』をあえてジャンル分けするなら、いわゆる「日常もの」にあたるだろう。

 この作品に「一冊の本を通してのストーリー」がないという指摘は正しいが、そういう物語は既に膨大な数が出ており、しかも読者に受け入れられているのだ。

 『ゆゆ式』にも狭い意味での「ストーリー」らしきものはほとんどないが、いまさらそれを問題視する人はほとんどいないと思う。

 たとえば『To Heart』あたりから数えるとすれば、オタク文化はもう既に20年くらい日常ものを描いている。

 『あずまんが大王』から数えると15、6年かな。

 一般的な意味での「ストーリー」がほとんど存在しないように見えるプロットは、ラノベ慣れしていない人にはさぞ奇妙に見えるだろうが、実はそれなりの歴史と伝統を背負っているのである。

 また、作中にオタクネタをやたらと散りばめるのも、既に何年も前に確立された方法論だ。

そのストーリー性の薄さの代わりにやたらと詰め込まれていたのがラノベネタである

ラノベ作家を主役にした作品なのだから当然だろうという方もいるだろうけど、ここで言う「ラノベネタ」というのが現実に出版されたラノベなのだから仰天させられた

 とあるのだけれど、これはべつに『妹さえいればいい。』の独創ではなく、いまのライトノベルにおいてはむしろスタンダードな方法論であるわけなのだ。

 そしてそういうやり方が採用されているのは「商売っ気」というより、単純に読者が喜ぶからだろう。

 じっさい、ぼくは217ページ5行目のネタで死ぬほど笑った。

 この種のジャンル自己言及はジャンルを狭いターゲットに向けて閉じていくから良くないという評価もあるとは思う。

 しかし、それをいいだしたらSFとかミステリが自己言及を重ねながら進歩していった歴史も否定されなければならないことになる。

 新本格ミステリなんて全部ダメになるんじゃないですかね?

 綾辻行人のクリスティネタとか有栖川有栖のクイーンネタは良くて、平坂読の『Fate』ネタ、『ソードアート・オンライン』はネタは良くない、という理由もないだろう。

 まあ、そんなことばかりやっていたから本格ミステリは商業的に衰退したんだ!といわれると一理ある気はしますが……。

 ここらへんはもうちょっと深堀りしないといけないテーマかもしれない。

 そういうわけで、このレビューの批判的な「読み」は、何をいいたいかは非常によくわかるのだけれど、あまりにもいまさらな指摘に思える。

 ラノベを読みなれていない人がそういうふうに感じることは非常に無理がない話ではあるのだが、現在のラノベではこの程度のことは善かれ悪しかれ常識なのである。

 つくづく思うけれど、ライトノベルを読むためにはライトノベル特有のリテラシーが必要なんだよなあ。

 「タイムパラドックスって何?」という人がSFには向かないように、「密室殺人ってどういうこと?」という人がミステリには適さないように、ライトノベルを読むためにはそれなりの知識と感性が必要になるということなのだろう。

 まあ、それが良いことなのかどうかということは、先述したようにたしかに議論の余地があるだろうけれど……。

 しかし、一方で『妹さえいればいい。』は非常に間口が広い作品でもあると思う。

 たしかにラノベ特有の異色の方法論を用いて入るのだが、見方を変えればほんとうにただの青春小説だからだ。

 オタク版『ハチミツとクローバー』だよなあ、と思うくらい。

 たしかに