ユニクロの柳井正会長が、新聞のインタビューで「世界同一賃金」の導入を発表し、ネットでは大きな批判を浴びている。

というのも、そこで柳井会長は、これからは競争が激化し、優秀な人材は年収が1億円にもなる一方、能力のない人は百万円になっても仕方ない――と発言しているからだ。
これが、多くのネット民の神経を逆なでした。柳井会長のこの発言は、お金持ちの傲慢な考えであったり、あるいは社員の疲弊を招くとして、批判の声を大きくしているのだ。

ところで、興味深いのは、そこでほとんどの人が「なぜ柳井氏はこうした発言をするのか?」ということに疑問を呈さないところだ。というのも、柳井氏は先日もブラック企業と言われることについてのインタビューを受け、炎上したばかりだからだ。だから、今回もこのような発言をすれば、ネットで批判されることは分かっていたはずだ。

なのに、そうした発言を再びくり返した。これは、単純に考えれば不思議である。批判されることが分かってて、あえてそのような発言をしたからだ。ということは、そこには何か理由があるはず――そうとらえるのが、至極自然な考え方のはずだ。

ところが、批判するネット民のほとんどは、そういう考えには至っていない。みんな、単純に柳井正会長のことをバカだと思っている。バカだから、迂闊にそうした発言をしてしまうのだと思っている。あるいは、気が狂っているととらえている。気が狂っているから、批判が目に入らないのだ――そうとらえている人も多い。


しかし、当たり前だがそんな可能性はほとんどない。バカだったり、気が狂っている人に務まるほど、企業の経営は甘くはない。
だから、柳井会長は頭が良いし、気も確かだ。頭の良い気も確かな人が、ネットで批判されると分かっていながら、あえてそうした発言をしているのだ。「それはなぜなのか?」と考えなければ、この問題の本質は見えてこない。


では、なぜ柳井会長はネットで批判されるのが分かっていながら、あえてそうした発言をするのか?
一つ、有力な候補として考えられるのは、「ネットの批判を気にしていない」ということだ。それも、気が狂っているから気にしていないのではない。おそらく、会社の業績には何の影響もないから気にしていないのだ。商売に何の支障もきたさないから気にしないのである。ネットでの評判は、リアルにはほとんど影響を及ぼさないのだ。

これは、ぼくの実感でもある。ぼくは、『もしドラ』で作家デビューする以前、ネットでの評判はとても悪かった。さんざん叩かれまくっていたし、炎上したことも数知れなかった。
だから、そうした悪評が本の売上げを鈍らせるのではないかと、発売する前は気にしていた。そのため、発売する直前には評判を少しでも上げようと、ネット民に阿った記事をいくつか書いたくらいだ。

しかしながら、蓋を開けてみてびっくりした。ネットの評価は、リアルの評価とはほとんど結びつかなかったからだ。ネットでの人気が本の売上げを押し上げることもない代わりに、悪評が不人気にさせることもなかったのだ。ネットの評判は、リアルの世界とはほとんど無関係の場所で行われていたのである。


それが分かってからは、ぼくはまたネットで遠慮なく自分の思っていることを書くようになった。おかけで、以前にも増して炎上することが多くなったのだけれど、それが仕事に影響することはついに一度としてなかった。それでぼくは、この現象があまりにも不思議で、「なぜそうなるか?」ということについて、ずっと考えていたのである。


そこへ来て、柳井会長の今度の炎上案件が持ち上がった。そこで分かったのは、「そもそもネット民は、ユニクロの顧客ではない」ということだ。
ネット民は、もともとユニクロを買っていないはずだ。だから柳井会長は、彼らから批判されてもちっとも堪えない。また、ネット民はユニクロを買っている人たちとの交流もない。だから、その悪評が広まって、ユニクロの売上げが減ることもないのである。

では、柳井会長を批判するネット民は、一体どのような人たちなのか? どのような層なのか?
それを知るために、批判者のコメントを読んでいたのだけれど、そこで興味深い記述に突き当たった。それは、こんな言葉だった。